第21回「こうなったのは誰の責任?」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第21回「こうなったのは誰の責任?」

安田

解雇規制を緩和して、市場に出た人材を教育して、もう1回会社に戻す。ってことにドイツは成功したわけですよね。

久野

はい。成功しました。

安田

久野さんは、それで日本の生産性も持ち直すと思いますか?

久野

可能性はあると思います。

安田

いま、副業がどんどん緩和されてるじゃないですか。

久野

はい。大手は、ほぼ半分ぐらいが副業OKって感じですね。どんどん広がっていくでしょうね。

安田

法律的に「副業を禁止しちゃいけない」って方向に行く可能性もありますか?

久野

大いにあり得ますね。

安田

それはスキルアップも含めて、考えているんでしょうか?

久野

絶対そうだと思いますね。たとえば同じ製造業とかでも、別の会社の発想をマルチに組み合わせたら新しいものが生まれてくる。

安田

発想の切り替えは必須でしょうね。

久野

同じ会社にずっといたら、イノベーションなんか絶対生まれないですよ。

安田

今がそういう状態です。

久野

昨日と同じことをやってるだけですからね。

安田

社員の側からしたら、副業解禁は歓迎すべきことだと思うんですけど。

久野

もちろん、そうでしょうね。

安田

でも反対意見も多いですよ。「副業をやんなくちゃいけないのは、会社の給料が安いからだ」みたいな感じで。

久野

まあ、そう言いたくなるでしょうね。

安田

「残業をなくして、さらに給料も増やして、副業しなくていいだけの給料を払え」みたいな人が圧倒的に多い。

久野

それが出来たら一番いいですけどね。ひとつの会社で副業せずに生計が成り立って。

安田

さらに今より収入も増えて。それでも企業は収益が上がってる、っていう。

久野

理想ですよね。ただ、実際に大企業が副業を解禁してる意図は、「会社に新しい風が生まれない」っていうことだと思います。

安田

そんなに淀んじゃってるんですか?

久野

日本って、ここ20年間ぐらいよかった企業が、どんどん衰退してる。結局、仕事の中だけじゃ能力が上がらないってことに気づき初めたんですよ。

安田

なるほど。

久野

大企業は、たぶんそういう発想で副業をOKしてると思いますよ。

安田

とはいえ、かなりイノベーションとは逆行した仕組みが残ってるのも事実じゃないですか。

久野

まあ大企業はセキュリティの兼ね合いが、絶対ありますから。

安田

それがネックになってると?

久野

だって、他の会社に貢献しようと思ったら、情報の開示って絶対必要ですよね。

安田

必要ですかね。

久野

たとえば僕が「BFIの副業します」ってなったら、「普段どういう仕事してるんですか」って聞きませんか?

安田

まあ、聞きたいところですよね。そこは。

久野

「いや、守秘義務あるんで何も話せないです」とか言ったら、ほぼ役に立たないじゃないですか。

安田

確かに。

久野

だから、非常に難しいところはありますよね。かといって、情報を守らなきゃいけない会社側の事情もよく分かるので。

安田

現実的に考えたら、雇われる先を2つにするのは、なかなか無理があると。

久野

無理ありますよね。

安田

やっぱり一旦会社を出て、フリーランスとして「何社かの仕事を受ける」みたいな形になるんでしょうね。

久野

少なくとも、会社終わったあとにコンビニで働くとか、そんなのは想定してないはずですよ。

安田

そうなることを心配してる社員は多いですけど。

久野

社員の側はそうですよね。

安田

さっき久野さんは「社員にスキルアップしてほしい」って言ってましたけど、私はどうもその説は信じがたくて。

久野

安田さんは、どういう説なんですか?

安田

やっぱり副業である程度稼いでもらって、給料を下げたい。

久野

社外で稼げってことですか?

安田

「給料を下げても生活できるように、自分でなんとかしろ」っていう“突き放し”なんじゃないかなと。

久野

いや、それはちょっと、穿った見方だと思いますけど。

安田

だって、45歳以上の社員は9割方整理したいと思ってるんですよ。そんな人をスキルアップさせるなんて、どうもしっくりこない。

久野

企業のトップは「スキルアップが目的だ」と言ってます。

安田

そりゃ建前はスキルアップですけど。

久野

本音は、別のところにあると。

安田

「知らん」ってことでしょう。「自分で稼げ」と。

久野

「面倒見きれませんよ」と。多少はそれもあるでしょうね。

安田

でも一方で社員は「同じ仕事時間で、もっと給料増やせ」って言ってる。

久野

言ってますね。

安田

副業をやるとなっても、夜中のコンビニぐらいしか思いつかない。この格差はどうしたらいいんですか。

久野

どうしましょうか(笑)

安田

「経営者が無能なんだ」って言ってる労働者が多いですけど。

久野

ひとむかし前は、副業で稼ぐ人がいたら、会社は都合が悪かったんですけど。

安田

副業がうまく行き過ぎると、辞めちゃいますからね。

久野

そういうのを恐れて「副業禁止」にしてた時代もありましたよね。

安田

ほとんどの会社はそうでしたよ。

久野

それが、いざ副業解禁になってみると、意外とみんなやらない。

安田

長い間、囲い込みすぎたんですよ。

久野

と思いますね。終身雇用の弊害だと思います。

安田

ということは、やっぱり会社にも責任あるってことですよね。

久野

そうですね。

安田

でも日本の大企業って、みんなサラリーマン社長じゃないですか。

久野

はい。

安田

だから「責任とれ」とか言われても、その人だって何十年か前に新卒で入った人なんで。

久野

まあ、そうですよね。何年かしたらいなくなるし。

安田

結局、大企業って「社員どうしで運営してる」みたいな会社じゃないですか。だから責任取る人なんて誰もいない。

久野

責任問題になるたびに、うやむやになりますからね。

安田

お互いが暗黙の了解で“なあなあ”でやってきたんで。もう「みんなの責任」ってことで落ち着けるしかないと思うんですけど。

久野

「みんなのせい」っていうのは、まさにそんな感じですよね。

安田

じゃあ、ここから先はどうしたらいいですか?

久野

まず、労働基準法自体が時代にあってないんですよ。これだけ世の中のビジネスモデルが変わってきてるのに、いまだに時間で管理しようとしてる。

安田

確かにそうですね。残業禁止とかも、結局は時間管理ですもんね。

久野

働き方とか、働くスタイルも、やっと少し多様化してきたぐらい。

安田

やっぱり会社に頼らずに「マーケットで稼げるスキル」を、みんなつけるべきじゃないですか。

久野

安田さんの好きな「雇わない経営」の方向ですね(笑)

安田

いや、別に「雇うこと」に反対してるわけじゃないんですよ。ただ選択肢はあったほうがいいかなと。

久野

それは絶対にそうですね。経営者の側にもあったほうがいいです。

安田

ですよね。雇う側も、雇われる側も、そろそろ依存を脱したほうがいいと思います。

久野

私も経営者ですから身につまされますね。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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