第238回「これがない会社はもう退場です」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第237回「労働法と負の遺産」

 第238回「これがない会社はもう退場です」 


安田

飲食業を離れていく労働者が増えているそうです。

石塚

コロナでお店を閉めてた期間が長かったから。

安田

そうですよね。

石塚

仕事がない時間が続くと、たとえ給料の7割を保障されても先行きが不安になる。

安田

転職を考えちゃうと。

石塚

「他を考えようか」とか「業界にもう希望がないんじゃないか」とか。若い人ほど離れますよ。

安田

辞めた人たちはどこに行くんですか。

石塚

人によりますね。思い切ってまったく違う職種にチェンジする人もいれば、業績が好調なユニクロみたいな会社で販売職に転身する人もいるし。

安田

結果的に飲食業界の給料も上がっていくんでしょうか。

石塚

上げざるを得ないでしょうね。

安田

チェーン店なんて上げようがない気がするんですけど。

石塚

チェーンも二極化してまして。たとえばサイゼリヤは人で困っていないんです。

安田

そうなんですか。

石塚

すごく余裕があるわけじゃないけど、「人手不足で困ってます」という状況ではない。

安田

それは報酬が高いから?

石塚

社員もバイトもちょっと高めで、あとは労働時間がすごく短いです。

安田

お店はずっと開いてるイメージですけど。

石塚

すべての業務を徹底的に効率良く動かしてます。だから余計な人が要らないんです。普通のチェーンだったら7~8人置くところを3~4人でやってたり。

安田

すごいですね。

石塚

そもそも人手がかからないようにしてる。そして少人数でキビキビと効率的にやるから仕事の満足度も高い。

安田

満足度も高いんですか?

石塚

長時間労働をさせないから。普通のオフィスワーカーのように、きっちり終わって「はい、おつかれさま」みたいな。

安田

うちの近所のサイゼリヤはそんなにキビキビ働いているように見えないです。

石塚

キビキビの意味が違うんです。安田さんが理想とするレストランと比べるとそりゃあ違いますよ。

安田

なるほど。つまり無駄なことはしないってことですね。

石塚

チェーン店なので。あの値段で提供する料理やサービスとしては十分にバリューがある。なによりも事業が続く仕組みをちゃんと作ってます。

安田

バリューがあることは理解できます。でも働く人にとってそんなにいい職場なんでしょうか。

石塚

もちろん人によるんですけど満足度は高いです。

安田

そうなんですね。これってサイゼリヤだけの話ですか?飲食店では。

石塚

丸の内にYAUMAYという高級点心のお店があるんですけど。こんど一緒に行きましょうよ。

安田

どういう店なんですか。

石塚

イギリスから持ってきた大繁盛店なんですけど。ゼネラルマネージャーに聞いたらここも同じだと言ってました。残業なしで。

安田

社員の満足度が高い?

石塚

そうなんですよ。クルーをたくさん用意しておくんですって。その上で業務効率を追求してフロア4人ぐらいで回せるそうです。

安田

それは凄いことなんですか。

石塚

やってるレベルはサイゼリヤと一緒ぐらいですね。アルバイトが「今日、来れなくなりました」って言っても「ああ、いいよいいよ」って。だから働きやすい。

安田

そんな飲食店があるんですね。

石塚

二極化していくってことです。採用に困らないお店もあるし、人が来なくて運営できないお店もある。

安田

今後どうなるんでしょう。コロナが落ち着いたら若い子はバイトで戻ってくるんでしょうか。

石塚

バイト需要ってそこらじゅうで必ず生まれるから。問題はそこで選ばれるかどうか。

安田

選ばれないと厳しいですよね。とくに飲食店は。

石塚

選ばれないとお店が運営できない。とはいえ長時間労働で仕事がキツいとなると、耐えることと時給の交換になってしまう。

安田

そもそも仕事ってそういうイメージじゃないですか。がまんの代償みたいな。

石塚

それは時代的に相手が乗ってこないんですよ。

安田

若い子はもうそういう価値観ではないと。

石塚

若手に限らないです。採用に成功してる会社は仕事のなかに「ちょっと気持ちがいい」「ちょっと気分がよくなる」という仕組みをつくってます。

安田

へえ〜。

石塚

「まあ、ここだったら気分よくできるな」って会社と「ガン詰めされて、残業は多いし上からすごく怒鳴られる」って会社と。後者はもう選ばれなくなりますよ。

安田

定着率も悪くなるし、採用にお金もかかって、さらに待遇が悪くなるという悪循環ですね。

石塚

おっしゃる通り。選ばれない会社はどこかで脱落して消えていくしかない。

安田

仕事自体に面白みはないけれど、お金でカバーするというのはアリですか?

石塚

そういう会社が破たんし始めてます。

安田

なんと。

石塚

うまくいく求人って、自分が採用ターゲットなら「ちょっと楽しいかも」って思うところしかない。

安田

楽しくないともうダメだと。

石塚

全員に受けないとしても、「こういうタイプの人は、きっとおもしろいと思ってくれるだろう」というものがないと。

安田

お金だけではムリですか。

石塚

難しいですね。最低限の報酬にプラスして気持ちよくやれる何かがないと。時給だけで釣るんだったら相当お金積まなきゃダメですよ。

安田

楽しさなんて提供できていないチェーン店の方が多いですよね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

だけどオペレーション的には人がたくさん必要で。

石塚

「この条件で辞めない若者を大量に集めろ」という命令が人事に降りてくるわけですよ。

安田

もし石塚さんのところに、その人事の人から相談が来たらどうするんですか。

石塚

「無理です」とはっきり言います。

安田

無理ですか。

石塚

絶対無理。仕組み自体を変えていくしかない。

安田

どう変えればいいんですか。

石塚

まず労働時間と仕事内容が効率的で仕事がしやすいこと。そして仕事や職場自体に「ちょっと気持ちよくなる」何かがあること。この2つがないともう人は採れないです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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