第237回「労働法と負の遺産」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第236回「日本人横綱が少ない理由」

 第237回「労働法と負の遺産」 


安田

かつて活躍した上司なのに、「部下より仕事ができない」という逆転現象が起きてるそうです。

石塚

いまの時代ってトレンドもマーケットも変化が速いじゃないですか。昔の活躍なんて何の役にも立たないですよ。

安田

結果的にできない人が上司になっていると。

石塚

何をやるにしても今はぜんぶスマホですから。

安田

部下はスマホ・ネイティブ世代ですもんね。

石塚

入社したばかりの人のほうが「よく知ってる」「理解が早い」ということが、当たり前に起きてます。

安田

出井伸之さんがソニー時代に「不連続の時代」という本を書かれてましたよね。

石塚

「非連続の時代」ですね。確か2004年ですよ。

安田

そんな前ですか。まだスマホなんてなかった時代ですけど、あの頃から言われていたわけですね。これまでの延長ではダメだって。

石塚

ネットが普及し始めた頃で、当時はまだ地続きで事業が行われていました。商品開発も集客も変化しつつあった頃。

安田

今は完全に途切れてる感じですよね。本当の非連続というか。

石塚

言い方を換えると「積み上げがされない」「積み上げにならない」時代です。

安田

下積みの意味がないってことでしょうか。

石塚

「この道一筋20年」って言葉がありますけど。いまは20年やってるからって「だからどうなんですか?」って秒で返されちゃう(笑)

安田

確かに(笑)

石塚

「じゃあ、なんか教えてくれるんですか?」みたいな。

安田

逆に経験がマイナスになっちゃって。分からないのに否定したり、口だけは出すとか。

石塚

それが大企業のいわゆる「負の遺産」と呼ばれるやつですよ。

安田

人件費のマイナスよりも大きそうですね。

石塚

大きい大きい。

安田

「何歳になっても勉強し続けるしかない」ってことですね。

石塚

勉強しても若い人のほうが頭がやわらかいし。吸収力もあるし。

安田

将棋でも藤井さんと羽生さんの戦いが行われていまして。もう、ゆるやかな時代の変化じゃない気がします。

石塚

おっしゃる通り。将棋のやり方自体も変わっちゃって。過去の強さがぜんぜん生かされないというか。怖い時代ですよ。

安田

怖いですよね。それが本当にあらゆる仕事で起こってる。とくに大きな会社や最先端の事業をやってる会社は、避けようがない気がします。

石塚

無理でしょう。だから上を大量にリストラしてるわけで。

安田

小さな会社だったら可能だと思うんですけど。アナログを大事にしながら少ないお客さんに楽しんでもらって。そこそこ稼いで。

石塚

おっしゃる通り。だから大きくしすぎないほうがいい。

安田

大手の50代はどうしたらいいんですか。かつて活躍した功労者でもあるし。

石塚

ここはシンプルに「能力どおり評価する仕組み」に振り切るしかない。

安田

能力どおりとなると、普通に考えたら30代後半ぐらいが年収のピークになりませんか?

石塚

30代後半から伸びていく人って1割ぐらいなんです。

安田

そんなに少ないんですか。

石塚

はい。その1割はちゃんと正当に評価されて収入も伸びていく。あとは全員、横ばいか下がっていくか。

安田

30代までの年収は今までより増えるんですか?あとで貰えない分。

石塚

日本の場合は労働法で縛られてますから。上げちゃうと簡単には下げれないんですよ。

安田

じゃあどうしたらいいんですか。

石塚

本当の理想は前から言ってる通り「40歳を定年にして、1回そこで全部リセットする」こと。

安田

いいと思うんですけど。現実的に日本の法律が変わらないかぎり不可能ですよね。

石塚

そうなんです。

安田

1回上げたものを下げるのも難しいし。

石塚

いずれにしても労働法が立ちはだかってしまう。不利益変更なので。

安田

不利益変更が合法化されない限り、若いうちにたくさん払ったり、スキルに合わせて下げるのは無理だと。

石塚

無理ですね。それが一番理にかなってるけど。

安田

となると、やっぱり若い人の収入を抑えざるをえないし、そうすると優秀な人はどんどん離れていっちゃいますよね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

解決策が見えないんですけど。

石塚

そうなんですよ。規模が大きくなればなるほど、この問題は具体策がぜんぶ労働法でふさがれてしまう。手が打てないんです。

安田

実際には不利益変更や退職勧奨をしても、ほとんどの人は受け入れるらしいですよ。裁判になって揉めることは滅多にないらしくて。

石塚

日本の経営者はそれをやりたがらないから。疲れますしね。

安田

そりゃ疲れるでしょうけれど。それが仕事というか。

石塚

イーロン・マスクみたいにズバッとやればいいんですけど。

安田

まずは何を変えるべきですか。

石塚

これから入る人はぜんぶ定年40歳に変える。

安田

仮にそれが出来たとして、40歳で定年の会社に若い社員は入ってきますか。

石塚

若い優秀な人材にとっては関係ないですもん。どうせ40歳までいませんよ。

安田

となると、やはり法律の問題ですか。

石塚

そうなんです。

安田

何とか解決できないんですかね。

石塚

大手がもっと振り切ればいいんです。ウチは全員「契約社員か業務委託でしか採用しない」って。

安田

正社員は採用しないってことですか。

石塚

まあ現実的にはゼロってわけにはいかないでしょうけど。それぐらい振り切らないと。

安田

正社員雇用する代わりに大きく昇給もせず、「定位安定でずっとやっていただく」というのはどうですか。

石塚

それもありですね。技術や職人の世界って、やっぱり経験値がものをいうところがあるから。ただしAIやロボットに置き換わってしまう職種は厳しいですよ。

安田

そういう職種はどうしたらいいんですか。

石塚

プロ野球選手のように、1年1年で勝負していくことが当たり前になる。

安田

ということは、やはり業務委託ってことですか。

石塚

そうなるでしょうね。とくに「短期で成果を求める仕事」は外部人材を使うしかない。

安田

短期で成果を上げられるような人材は、それこそ社員として囲い込みたいでしょうね。

石塚

その時はいいんですよ。だけど、ほんと流れが早いので。冒頭のような「部下よりできない上司」になってしまう可能性が高い。

安田

人材を囲い込むのはやめたほうがいいと。

石塚

囲い込むとみんなで沈んでいくだけ。労働法がある限りこの問題は解決できないんです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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