第376回 未払い残業と雇用の未来

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第376回「未払い残業と雇用の未来」


安田

東洋大学で残業代の未払いがあったそうです。20年間も。その額なんと年間1800万。

久野

住宅手当を月給に入れてなかったみたいですね。時間外労働手当の計算を間違えたんだと思います。

安田

月給額が変われば社保や残業代も変わってきますからね。ちなみに住宅手当は必ず給料に入れないといけないんですか?

久野

いや、基本的に住宅手当って除いていいんですよ。

安田

え!そうなんですか?

久野

ただ例外があって、全員定額で払っているケースは入れなきゃいけない。それをOKにすると「残業の基礎単価」から逃れられちゃうじゃないですか。

安田

「給料を減らして、その分、住宅手当を増やしておけ」ってなりますよね。

久野

そう考える経営者もいるので。

安田

通勤手当も同じですか?一律だと残業に含まれる?

久野

同じですね。一律だとそうなります。ちなみに社会保険料には交通費が含まれます。だから定期代が上がると社会保険料も上がります。

安田

え!それは勘弁して欲しいです。

久野

これ謎のルールなんですよ。高市首相は「交通費を省くべきだ」って主張してますね。

安田

ほう。税収が減ってもいいと。

久野

いや、これだけ賃上げしていくと社会保険料も増えていくので。インフレって社会保険料を徴収するにはめちゃくちゃ都合がいいんです。

安田

なるほど。交通費を省いたところで税収は減らないと。ちなみに社会保険料って上限が決まっていますよね?

久野

厚生年金の上限は65万円。健康保険は139万円ですね。

安田

それは月額ですか?

久野

月額です。

安田

じゃあ、ほとんどの会社員は給料や交通費が上がった分だけ社保も上がりますね。

久野

はい。どんどん上がっていきます。

安田

手当も給料に含まれてしまうと。

久野

給料には含まれますけど、家族手当・通勤手当・別居手当は残業からは除外できます。

安田

別居手当って何ですか?

久野

単身赴任の手当ですね。

安田

なるほど。そういうものは除外できると。

久野

臨時で払われる賃金は「残業の基礎単価から除いていい」という法律があるんです。ただ通勤手当であっても全員一律2万円とかだと入れなきゃいけない。

安田

タバコを吸わなかった人に2万円の手当がつく会社があるんですけど。これも入るんですか。

久野

残業手当には入れなきゃダメですね。そうやって回避する人もいるので。

安田

じゃあ今回の東洋大学は一律で払っていたってことですね。

久野

そうだと思います。

安田

これ20年分も遡って払わされるんですか?

久野

いや、時効は3年なので。3年分じゃないですか。

安田

年間1800万円の3年分ってことですか。

久野

そうなると思います。

安田

20年分も払わされたら倒産しちゃいますよね。

久野

恐らくそこまではやらないと思います。3年分を精算するんじゃないですか。

安田

これ、他人事ではないですね。知らず知らずというか、知って知らぬふりというか、長い間払うべき未払い賃金を払ってない会社とかいっぱいありそう。

久野

ありますね。ただ中小企業の場合は東洋大学ほど人数がいないので。そんなに大きな金額ではないと思います。

安田

金額が少ないから見逃されている感じですか。

久野

いや、金額が小さいので意識的にやってる人が少ないと思います。そこまでやらないと利益が出ない会社はもう生き残れないです。

安田

未払い残業代で資金繰りしている時点でビジネスとして終わっていると。

久野

そう思います。最近はAIがちゃんと計算してくれたりするので間違うこともないし。

安田

AIが計算したものを最終的に社労士さんがチェックするわけですね。

久野

逆です。社労士が計算したものをクライアントの社員がchatGPTとかでチェックする。

安田

なんと。「計算おかしくないですか?」ってクライアント社員が言ってくる感じですか。

久野

そう。最近は労務相談もめちゃくちゃ増えていて。社員さんがAIに言われて「これ違反ですよね?」って聞いてくる。

安田

もう誤魔化せないってことですね。会社側も。

久野

誤魔化せないですね。社員はみんなAIで武装しているみたいなものなので。

安田

「こういう書類を残しておいてください」「こういう記録をしてください」ってAIが教えてくれますもんね。

久野

「そろそろ労基署に行きますか」とか言ってくるそうです。

安田

恐ろしい。雇用することがどんどん怖くなっていきますね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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