第308回 転勤は死語になる

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第308回「転勤は死語になる」


安田

大手でも転勤させると社員が辞めちゃうそうです。すごい時代ですよね。

久野

20代は特にそうですね。中小企業だと一瞬でいなくなりそう。

安田

統計によると20代の4割は出張に後ろ向きだそうです。

久野

もう出張すらダメなんですよ。だから転勤なんて論外。でも出張すら嫌だって言われると、もう会社としてどうしたらいいのか。

安田

もう人を雇えないし、人を動かせない時代になるってことじゃないですか。

久野

飲み会も本当にストレスだって言いますもんね。

安田

昔は内定者を喜ばせるために海外に連れて行ったんですけど。今はそれが原因で辞めちゃうそうです。もう昔とは全然違うんですよ。

久野

海外研修にも行かせられない(笑)

安田

これ、どうなるんですかね。どうしても転勤がある都銀とか。海外勤務が必須の商社とか。

久野

大企業も地域限定社員が当たり前になってますね。キャリアがもう全然違ってきますよ。

安田

地域限定職って、転勤がない代わりにキャリアは頭打ちだったじゃないですか。

久野

そういうイメージです。

安田

今は逆転してるみたいですよ。地域限定職が大多数で。一部の特殊な人だけ転勤するっていう。

久野

そっちにエントリーすれば出世できる可能性は高いんじゃないですか。

安田

転勤が好きな人もいますしね。出世はそういう人たちの限定コースになっていくのかも。

久野

頑張ってそういう人を集めるしかないと思います。

安田

これからジョブ型雇用も増えていくでしょうし。仕事内容も働く地域も最初から契約で決まっていて。

久野

エリート層を転勤させるしかないですよ。支店長や現地法人の社長として。

安田

それ以外のスタッフはどうするんですか? 

久野

現地で集めるしかないですよね。

安田

現場スタッフは移動させられないですもんね。

久野

もう無理だと思います。ご法度じゃないですか。将棋と一緒ですよ。右にはいけませんみたいな。

安田

となると採用の大半が地域限定採用になりませんか? 

久野

そうなるでしょうね。

安田

今までとは組織のあり方とかガラッと変わりますね。

久野

今までの日本が自由すぎたんだと思います。

安田

今までも嫌だったけど、終身雇用が前提だから我慢してたんでしょうね。

久野

転職するのも大変でしたから。今は嫌なら別のところで働けますからね。周りが整ってきたんだと思う。

安田

転勤するくらいなら転職したほうが簡単だと。

久野

まあ共働きになったら当然こうなりますよ。奥さんだってキャリアがあるわけで。

安田

もう元には戻らないでしょうね。専業主婦がこれから増えていくなんてこと、あり得ないじゃないですか。

久野

戻らないですよ。

安田

つまり実質的に転勤はなくなるってことでしょうか。

久野

転勤という言葉がもうなくなるでしょうね。

安田

採用時に「転勤OKです」って人も、家庭の事情がどんどん変わっていくでしょうし。

久野

とくに結婚相手によって大きく変わるでしょうね。

安田

昔は結婚して、マイホームを建てて、家庭があると社内でも評価されたじゃないですか。

久野

それが逆になっていくんでしょうね。「僕は結婚しません」「だからどこでも行きます」みたいな人が社内で評価されて。

安田

結婚すると自分ひとりでは決められないですからね。

久野

独身手当とかが出るようになったりして(笑)

安田

とはいえ独身でもいつか親の面倒は見ないといけないし。ずっとは無理じゃないですか。

久野

ずっとは無理でしょうね。

安田

そしたらどうなるんですかね。2000〜3000万稼いでるような人しかもう転勤させられないって感じですか。

久野

転勤に見合う報酬がない限りは転勤しないんじゃないですか。ただ転勤できる人がそんなに仕事ができるかどうかはまた別の話ですけど。

安田

そうなんですよ。「転勤も厭いません」って言ってるけど仕事ができない人と、「転勤しません」って言う代わりにものすごく仕事ができる人。どっちの給料が高いのか。

久野

難しい問題ですね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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