第334回 上がり続ける厚生年金保険料

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第334回「上がり続ける厚生年金保険料」


安田

厚生年金の等級が変わるんですか?

久野

等級の上限が変わります。これまで月給65万円が上限だったんですけど。

安田

そうでしたよね。ここまでいったら「もう上がりません」みたいな。

久野

それが75万円に変わります。「3年かけて段階的に引き上げますよ」というのが新しいルール。

安田

稼ぐ人からは「どんどん取ろう」という感じですね。

久野

じつは厚生年金の保険料って会社負担と個人負担を合わせて今18.3%なんですよ。

安田

18.3%ですか。意外と低く感じてしまいます。

久野

そうですか?結構大きいですよ。1万円払ったら1830円ですよ。

安田

確かにそう言われると大きいですね。稼いだ瞬間に2割持っていかれる訳ですもんね。それがさらに増えていくと。

久野

はい。上限が2027年9月に68万になり、28年9月に71万円になり、2029年6月に75万になる。

安田

月給65万円以上ある人への負担増ってことですよね。そして会社負担も増えると。

久野

会社負担も増えます。

安田

これはやはり「下から取るよりは不満が少ないだろう」という狙いですか。

久野

元々「65万円以上の割合が増えたら上限を上げる」という法律になっていまして。でも現実的には選挙も考えているでしょうね。65万円以下の人は誰も文句を言わないから。

安田

やっぱりそうですよね。日本の税制は「稼いだら損」「働いたら損」だと言われています。

久野

ただ増えた分のリターンはあるんです。1ヶ月500円ぐらい年金が増える。

安田

たった500円ですか。

久野

財源不足はもう否めないので。取れるところから取っていくしかない。

安田

それって国民年金の話ですよね。厚生年金も財源不足なのですか?

久野

国民年金はすでに税負担されています。そもそも年金財政って世代間付与という形なので、積み立てたものを取り崩しているわけじゃない。

安田

それは厚生年金も同じですか?

久野

同じです。お年寄りたちに若者から集めたお金を配っている形式。だから少子高齢化はめちゃくちゃバランスが悪いんですよ。

安田

悪すぎますよ。というかもう無理でしょう。

久野

なので、まずは65万円以上月給がある人に負担してもらおうってことですね。

安田

その分将来受け取る年金も増えるんですよね?少子化が進んでいるのに矛盾していませんか?

久野

それは将来の若者が負担するってことになっていますね。

安田

それっておかしくないですか?困っている人を助けるのが基本思想なのに。

久野

まさに未来に先送りしている感じはありますよね。

安田

噂では「国民年金の財源に厚生年金が使われる」という話も出ていて。これって本当ですか?

久野

そもそも厚生年金って国民年金部分も払ったことになるので。その中でいくら分が国民年金に渡っているのか元々あまり明確ではないんですよ。

安田

なんと。じゃあ破綻する時は両方とも破綻するってことですね。

久野

国家財政と一蓮托生だと思います。

安田

税金で補填とか言ってますけど、その税金を払っているのも現役世代ですし。ちょっと無理がありませんか?

久野

はい。少子化が続くと若者がどんどんしんどくなっていく構造になっています。だから年金改革という痛みが必要なんです。受け取り年齢を遅らせたり金額を減らしたり。

安田

まあそれしかないですよね。

久野

はい。ただその層は有権者の数が多いから。

安田

だから出来ないと。

久野

「お年寄りを殺す気か!」って話になるじゃないですか。

安田

「みんなで我慢しよう」という話だと思うんですけど。

久野

今まで配っていたものを配らなくするインパクトって大きいんですよ。負の感情が大きいというか。だから医療費も減らせないんです。

安田

でもどこかで決着をつけないと。少子化はもう止まらないでしょうし。ズルズルやってもどこかで破綻しますよ。

久野

はい。必ずどこかで行き詰まるはずです。

安田

どうせやらなきゃいけないなら1回で終わらせてほしいです。痛い注射を何度もやり直すのは嫌ですよ。

久野

本来はそうあるべきなんですけど。それが出来るならこうはなってないよという話で。選挙で嫌われるような大きな改革は誰もやりたくないんですよ。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから

CAPTCHA