第342回 年功序列と終身雇用

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第342回「年功序列と終身雇用」


安田

若者の就職意識に変化が起きているそうです。

久野

私も見ました。新卒の意識調査ですよね。終身雇用と年功序列を求める人が増えている。

安田

そうなんですよ。今まで成果主義を求める若者が多かったんですけど。逆転しちゃったみたいです。

久野

ちょっと信じられない結果ですよね。

安田

今って新卒の初任給がすごく増えているじゃないですか。

久野

はい。30万円を超える会社が増えてきました。中には35万とか40万の会社もあります。

安田

今までの年功序列って、上が優遇されているぶん若者が安い給料で働かされてきたじゃないですか。

久野

それが年功序列ですから。

安田

ところが今は最初から給料が高い。だから「そのまま年功序列で上げてくれればいいよ」ってことじゃないですか。

久野

なるほど。実力主義で下げられるよりそのまま年功序列で上がっていく方がいいと。

安田

そういうことだと思います。働きたい間はずっとクビにならない終身雇用も希望している。

久野

終身雇用を希望する新卒が69.4%っていう。これは戸惑いますね。

安田

新卒が就職で重視するポイントは福利厚生と給与水準だそうです。仕事内容や企業風土はあまり重要視してない。

久野

要するに条件が良ければ仕事は何でもいいってことですか。

安田

そういうことでしょうね。

久野

そもそも新卒が求める福利厚生って何ですか?社労士的には福利厚生って給料や休み以外の労働条件を指すんですけど。

安田

新卒が求めているのは労働条件ですね。休みやすい、有給が取りやすい、残業がない。そして年功序列で実力に関係なく給料が上がっていく。

久野

給与が上がらないのは嫌だったってことですね。

安田

高いところからスタートして、なおかつ上がり続ける会社がいいと。でもその一方で離職する人もすごく多くて。

久野

ですよね。終身雇用を求めている割に辞めていく。

安田

新卒3年未満で退職した人のアンケートでは「辞めてよかった」って人が84%もいて。

久野

辞めなきゃいけない雰囲気というか、世間の煽りみたいのがあるんじゃないですか。

安田

ずっと同じ会社にいたら危ないぞってことですか。

久野

そういう雰囲気が漂ってる。

安田

でも「同じ会社でずっと働きたい」という人が多いのも事実で。

久野

すごく矛盾していますよね。

安田

最初に入った会社でずっと働きたいわけじゃないんですよ。何社か転職してやりたいことが見つかったら、その会社でずっと勤め上げたい。

久野

なるほど。

安田

その場合は年功序列で給料が増えて行き、途中でリストラもされない。70歳まで働ける。

久野

会社側は大変ですね。

安田

大変ですよ。そもそも年功序列をこのまま続けられるのかどうか。

久野

なんだかんだ言っても日本は年功序列だと思います。若い時は給与ってそれなりに安いし。年齢とともに上がってく感じ。とくに中小企業では経験値が大きくものを言うので。

安田

経験が長いほど仕事もできるってことですか。

久野

製造業なんか分かりやすいですけど。付加価値の高い手作業だと経験値がリンクしちゃう。だから年功序列を意識してなくても経験の長いメンバーの給与が高くなる傾向がある。

安田

なるほど。じゃあこの先も年功序列は続いていきそうですね。

久野

ただ初任給がここまで上がって来ると、そこから横ばいになる人も増えていくと思います。

安田

スタートは高いけど実力がないと上がらない、もしくは下がっていくという。

久野

そういうことでしょうね。

安田

若い人が求めているのは「初任給が高くてなおかつ年功序列でどんどん上がっていく会社」みたいですよ。

久野

会社側が描いているグラフと全然違いますね。

安田

そんな待遇だと企業側は持たないですよね。

久野

持たないと思います。そもそも企業側は終身雇用なんて求めてないし。

安田

お互い求めるものがズレてますよね。今後はどうなっていくんでしょう。

久野

若い人を採ろうと思うと初任給は高くするほかない。

安田

そこから年功序列で毎年10%ずつぐらい上げていかないと、定着してくれないですよ。

久野

35万から10%ずつ上げていったら大変なことになりますよ。7年で倍になりますから。

安田

それが若者の望みみたいです。

久野

雇用し続けるかどうかを真剣に考えないといけない時代だってことでしょうね。私も肝に銘じておきます。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

1件のコメントがあります

  1. いつも楽しく読ませていただいております。
    今回の話ですが、そろそろ若い世代に振り回される経営から脱却していくべきなのかなと感じました。給料上げろといえば初任給が上がっていき、何もしなくても最賃が上がるのではなく権利は勝ち取るものとしないと結局給与水準だけ世界標準にはなったが競争力は下がるだけに思います。
    諸外国の賃金増加も実態の利益や生み出す生産性と見合っていない部分も出始めて、まるでバブルのようにも思えます。弾ける頃には富裕層は自分の富だけを確保して責任は取らないと思われるので、」堅実かつ確実に前進できる経営と国策に舵を切るべきだと思いますがいかがでしょうか?

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