第349回 止められない早期退職の現実

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第349回「止められない早期退職の現実」


安田

業績の良い上場企業がどんどん早期退職を進めています。三菱電機は最高益を出しているのに53歳以上をリストラですよ。

久野

調子がいい時ほどやってますね。ただ会社と社員の関係性も少し変わってきていて。

安田

どう変わってるんですか?

久野

自社株を持つ社員が増えているんですよ。リストラすると将来の利益が増えるわけじゃないですか。

安田

なるほど。自分はリストラされるけど持っている株は上がっていくと。

久野

そう。昔は「明日は我が身」「可哀そうだ」「大変だ」という感じだったのが、「それは企業としては適切だよね」という話になってる。

安田

すごい。社員でありながらオーナー視点ですね。

久野

そうなんです。

安田

大企業は世界で戦っていかないといけないし、50代のリストラは避けようがない印象です。

久野

特にこれからAI時代ですし。AIを使える人、AIで育ってきた人を企業も取り込みたい。そのためには若い人の給与を増やさなくちゃいけない。

安田

そのための原資が50代のリストラだと。

久野

普通に考えたらこれは必然なんですよ。実力以上に高い50代の報酬が若い人に移転していくだけで。

安田

厳しいですけどそれが現実ですよね。管理職はAI時代に100分の1以下になると言われていますし。

久野

もう今までのようなアナログ管理は難しいと思います。パワハラ問題があるので上司が詰めることもできないし、システムで数字を見せて成果で追う形にしないと成り立たない。

安田

いちばん大変なのは55歳以下の人たちでしょうか。60歳以上は逃げ切れるかも。

久野

はい。40代後半から50代半ばまでですね。いわゆる氷河期世代がまた矢面に立たされる。ここからまだ15〜20年ありますから。

安田

大手の方が大変そうですよね。報酬も高くなっているし。

久野

いえ。大手はそれなりの退職金を払ってくれるので。自社株も持っておけば何とかなる。問題は中小ですよ。

安田

中小企業にはそんなに管理職なんていませんよ。プレイングマネージャーばかりで。

久野

中小の場合は管理職より一般職が危ない。イノベーションが起きやすい仕事じゃないですか。

安田

確かに。

久野

ちょこっとDXを入れるだけで大きく変わるのが中小。逆に大企業は管理職がいなくても回せるようになるので管理職の方が危ない。

安田

大企業の管理職と中小企業の一般職。ここが危険ゾーンだと。

久野

中小企業って「経験がないと出来ない事務作業」が多かったわけですよ。

安田

ちゃんとシステム化すれば若い子でも出来ちゃいますもんね。

久野

はい。情報が民主化されて経験が生きない時代になってきています。本当に使える能力と、あとは体力勝負になっていくでしょうね。

安田

やはり早めにリスキリングした方がいいですよ。退職金がたくさんもらえるうちに。私は45歳でリスキリングしましたけど50歳を過ぎていたら厳しかったと思います。

久野

ゼロからやり直すのは簡単ではないですよ。現実的には時間配分を変えて、体力を蓄えて、新しい仕事を積極的にやっていくしかない。40を過ぎると新しいことに億劫になり始めるので。

安田

仕事が無くなるんだから新しいことをやらざるを得ないですよ。億劫とか言ってられない。

久野

辞める前にリスキリングしておかないと。50歳で転職して「じゃあウチと一緒に頑張ってリスクリングしましょう」なんて会社はないので。

安田

そりゃそうですよね。

久野

リスキリングせず辞めちゃうと、50代は肉体労働的な軽作業とか、amazonの工場とかに流れていくことになる。

安田

辞めないで副業するのはどうですか。少なくなった報酬に加えて個人事業を立ち上げて稼ぐ。

久野

そこまで頑張れる人なら本業で成果を上げていると思います。

安田

確かに。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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