第359回 働き方改革とは何だったのか

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第359回「働き方改革とは何だったのか」


安田

日本は先進国の中でもかなり「働かない国民」になっちゃったらしいですけど、働き方改革って一体何だったのか。

久野

元々働き方改革って生産性を上げる改革なので、そういう意味では僕は良かったと思ってるんです。

安田

生産性もどんどん落ちてますけど。

久野

いや、国家の労働生産性って全然別次元の話なので。そこは付加価値を生み出せていないことが大きい。時間削減したぐらいで国全体の生産性は上がらないんですよ。

安田

どうやったら上がるんですか?

久野

そこに関しては全然違うアプローチが必要で。IT分野もみんなでmicrosoftのパソコンを使いGoogle Workspace使ってる。そしたらアメリカ企業の生産性が上がっていくわけで。

安田

国としてそこに投資していかないとダメってことですか?

久野

そうですね。日本企業が弱くなっているという課題と、生産性の問題はちょっと分けて考えたほうがいい。

安田

事業としての生産性と労働生産性を分けて考えるってことでしょうか。

久野

はい。そこを一緒にしてしまうと課題が見えなくなってしまうので。

安田

1990年代まで日本は散々叩かれてきたじゃないですか。エコノミックアニマルだとか言われて。日本人は働きすぎだと、金儲けばっかり考えやがってみたいな。

久野

そうですね。世界的に見ても動労時間がすごく長かったので。

安田

それからどんどん労働時間を短くしていって、気がついたら生産性がガタ落ちしてるイメージですけど。

久野

そこを混同するとまずいんですよ。実は考え方は全然変わっていなくて。日本は人口増加フェーズから人口減少フェーズに変わったじゃないですか。

安田

はい。変わりました。

久野

日本人のマインドとしては「GDP上げるためには長く働くしかない」って思ってたんですよ。

安田

人数の減少を時間でカバーすると。

久野

そう。だけど時間でカバー出来ないぐらい減ってくわけですよ。そこに対しては時間あたりの付加価値を上げなきゃいけない。そのための改革だったわけです。

安田

なるほど。そういう流れだったんですね。単に労働時間を減らしただけではなく。

久野

「長く働いて稼ぐ」という発想からは一旦抜けたと思うんです。ただ、実際に短くしてみたら日本人って儲ける力がなかったよねって気づいた。今ここなんで、これからです。

安田

なるほど。つまり日本人は人口ボーナスで儲けていただけで、人口が減ったら稼げなくなったってことですか。

久野

そうです。で、ここからやらなきゃいけないのは、長く働いてもなんでもいいから、とにかく儲かるものを発掘する時間が必要なんです、日本には。

安田

え?せっかく短くなったのに、また長く働かせちゃっていいんですか?

久野

基本的には儲かるものが見つかってから短くしなきゃいけないのに、見つかる前に短くしてしまった。

安田

順番を間違えちゃったと。なぜ間違えたんでしょう。

久野

儲かってないまま労働時間を長くしてきたから。「一旦落ち着いて考える時間を作ろう」というのが働き方改革だったわけです。

安田

なるほど。労働時間が短くなった分、ただ休みを増やすだけではまずかったわけですね。

久野

そうです。考える時間まで削っちゃったからおかしくなってる。だから僕は一旦労働時間を増やした方がいいと思う。

安田

ここ1〜2年は経済も回復基調だと言われてますけど。

久野

インフレ分のGDPが伸びているだけで、日本人は何もまだ変わってないと思います。

安田

つまり生産性を上げられるかどうかはこれからの取り組み次第だと。

久野

そうです。日本人の大きな間違いは、その取り組み時間すら削っちゃってること。

安田

なるほど。

久野

実際ドイツはそれで産業が死んでいってます。

安田

そうなんですか?ドイツが。

久野

私もドイツに行ったからよく分かりますけど、もうドイツ人って全然働かないんですよ。やることをやったら帰る。

安田

あの働き者のイメージのドイツ人が。

久野

もう国としてはかなり終わっていくと思います。

安田

日本もこのままではそうなっていくと。

久野

自動車産業が中国にやられて、働くマインドセットまで無くなってる。労働法もめちゃくちゃ厳しいんですよ。

安田

だから高市総理は「働き方改革を改革する」と言ってるわけですね。

久野

はい。長時間労働をやれとは思わないけど、もう1回日本人がどういう方向で稼ぐのかを真剣に考えないといけない。

安田

確かに長時間労働を短時間労働にするためには先行投資が要りますよね。お金も時間も投資せずに未来を変えようなんて無理な話で。

久野

そうなんですよ。今ある仕事を終わらせて帰っちゃダメなんです。やるべきことを8割でやって2割は将来のことを考えてから帰らないと。

安田

先行投資もせずに労働時間だけ短くすると、それは貧しくなるよと。

久野

そこからが本当の働き方改革なので。

安田

でも中小企業にはそんな余裕はないですよ。今でも人不足で一杯一杯って感じ。

久野

余裕がなくてもやらないと未来がない。日本はこれからどんどん労働人口が減っていくわけですから。今の仕事で一杯一杯の会社ってもう先がないんですよ。

安田

上から降りてくる仕事をこなしていれば安泰という時代はもう終わったと。

久野

当たり前の時代が来たということです。今までが変だったと認めなきゃ。未来は見えないです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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