「社長ってつぶしが利かない」と安田さんはよく言いますけど、僕はそんなことないと思うんですよ。そういう人を欲しいっていう会社は少なからずありますよ。

「プロ社長」みたいな社長さん、最近は見かけるようになりましたもんね。昔はそんな人、日本にはあまりいませんでしたけど。

昔から外資には居たイメージですね。いわゆる日本の大企業にはいなかったと思います。

アメリカだと大きな会社を渡り歩く社長は普通にたくさんいますよね。でも日本の企業ではまだまだ少ない。なぜなのでしょう？

内部から抜擢するというのが日本企業の慣習だったから。でもこれからは増えていくと思いますよ。

そういう慣習ももちろんあったとは思うんですけど、そもそもプロの経営者と言えるような人が日本人には少ないのだと思いませんか？

日本人は経営には向いていないと？

話が戻っちゃいますけど、つぶしが利かない経営者が多い。

僕はつぶしが利かないとは思わないですけどね。

そうですか？

はい。つぶしが利かないとは思わない。もちろん、社長にも優秀じゃない人から優秀な人までいますけど。

じゃあ、たとえば優秀な社長ってどういう人ですか？

2つあって、先を読むという中長期予測能力が高いこと。そして社内の経営資源を最適化する能力が高いこと。

つまり時代の流れを読む能力が高く、なおかつ、お金とか人材を最適に配置する能力が高い人。

そうです。

これが実際にできている会社、できている社長は、何パーセントぐらいいるイメージですか？

うーん。その能力がなければ赤字になるはずだから、例えば3期連続赤字ってことはダメっていうことですね。

ということは、３期連続赤字でない経営者には、その能力があると？

はい。赤字ってことは、要するにその1年間の経営が上手くいきませんでしたっていうことだけど、先を見越して新しいチャレンジすると赤字になることもあるから。3期連続赤字っていうことはもうダメっていうことですよね。

上場企業の株主総会とか見てると3年も待ってくれない気がしますけど。まあでも、先を見越してあえて赤字にできる経営者は確かに優秀かもしれません。

そうですよね。

でも反対に、ずっと黒字だけど効果的な手を打っていない経営者もいますよね？

手を打たないと黒字を続けることは出来ないと思いますよ。

もちろん、ずっと続けることは出来ないでしょう。でも短期なら可能ですよね。だからデータ改ざんとかするんじゃないですか。自分の任期中の業績を黒字にするために。

そういう人もいますけど、多くの経営者はもっと真面目ですよ。

はい、真面目だとは思います。ただ、時代の流れを読んで的確な手を打つスペシャリストなのかと言われたら、ちょっと違うかなと。

社長に厳しいですね。

経験者ですから。まあ、私が極端に、能力が低かったのかもしれませんが。

いやいやいや。

でも実際、内部から無難な人が上がって行って社長になる、というケースもあるじゃないですか。

ずっと業績が安定しているような大企業であれば、そういうケースもあるでしょうね。でも安田さんは創業社長じゃないですか。

はい。

能力がなきゃ、売上何十億という会社は作れないですよ。

自分が無能だとは思っていませんよ（笑）。

もちろん、そうでしょう。

ただ、私も含めて世の社長の多くが、つぶしが利かないというのは事実です。創業社長も同じ。

厳しいなぁ！

だってもう一回、同じ会社を作れと言われたら出来ないですもん。

同じ会社は無理でも、また別の会社は作れると思いますよ。経験値も上がってるし。

運とか、勢いとかって、すごく重要なんですよ。

それがないと無理だと？

はい。同じ会社はもちろん、別の会社だってそう簡単には作れないです。

確かにゼロから作り上げるのは簡単ではないと思います。でも、もし何処かの会社の経営を任されたら、やれる自信はあるでしょ？

いや、ないです。謙遜じゃなく、私には無理です。それを自覚してます。

ホントですか？

はい。「ワイキューブとまったく同じ会社の社長をやれ」と言われたら、そりゃあ出来ると思いますよ。ビジネスモデルも、社員も、商品も、全部一緒なら。けど「他の組織に入って社長やれ」って言われたら出来ないです。

安田さんは自己評価が非常に厳しいから、そういうふうに思われるかもしれませんけど。でも、たぶん、ご自身の意図とは関係なく、こういう対談を見て安田さんをヘッドハンティングしようっていう会社や経営者は少なくないと思いますよ。

いやぁ、少ないと思いますね。もし少なくないんだったら間違えてると思います。

いやいやいや（笑）

いや、ホントに。なので私は「社長こそちゃんと副業をしておくべき」だと痛感しています。

はああ！

特に小さい会社なんかは、社長が率先して副業して、社員にもどんどん副業させる。そうすると優秀な人も集まってくるし、社員の能力も上がるし、余計な給料も払わなくていいし。社長の老後だって安泰。

社長ってたぶん、自分が副業するイメージつかないと思うんですけど。社長の副業って何ですかね。

たとえば他社の商品開発を手伝うとか、人材育成をサポートするとか、販売戦略を考えてあげるとか。

なるほど、今の仕事の延長ということですね？

そうです。何でもいいので「自分はこういうことが得意だ」ということを副業にしてみる。そしたらハッキリします。「やっぱ俺は能力あったよ」という人と、「意外と俺、会社出たらダメじゃん」という人が。

つぶしが利く人と利かない人がはっきりすると。

はい。やってみたら分かると思いますが、つぶしが利かない社長の方が圧倒的に多いです。

そこは頑なですね。

はい。経験者ですから。

でも安田さんは今でも企業の経営サポートをしてますよね？仕事として。顧客にも認められてるわけでしょ？

はい。

だったら「つぶしが利いた」ということじゃないんですか？

いえ、それは違います。私も「自分はつぶしが利く」と思っていたわけです。でも実際やってみたら全然ダメだった。

本当ですか？

事実です。なのでそこから結構頑張って訓練して、スキルを磨き直しました。

ちょっと信じられないですね。

本当なんですよ。そのままのスキルでは全く通用しない。

でも発注する人はいそうですけどね。

確かにいました。でもそれは私のスキルではなく、知名度に発注してくれた人たちです。

あれだけ本が売れていて知名度があれば、依頼は来ますよね。

だから期待値も高い。正直「自分のスキルでは応えられない」という実感がありました。実際、だんだん仕事も減っていきました。

それで訓練し直したと？

はい。まだ４０代後半だったので、初心に戻ろうと思いました。これまでの財産だけでは生きていけないことが明白だったので。

安田さんだったらいけそうですけどね。

もちろん、スキルがゼロというわけではないです。でもそのままでは通用しない。つまり商品としての価値がない。それが分かったので、商品価値を高める努力をしました。

それってどういう商品なんですか？

ゼロから1を生み出すお手伝いです。新しい商品や、新しいサービス、新しい事業を、社長と一緒に考えるという仕事です。

安田さんの最も得意とするところじゃないですか。ワイキューブ時代にもやってましたよね？

やってました。でも社長として自分の会社でやるのと、お金をもらって人の会社でやるのとでは、全く違います。

そんなに違いますか？

だってオーナー社長でしたから。「まあ、とりあえずこれでやってみて」みたいなことも許される。だから、もちろん失敗することもあります。

オーナー社長だから許される。

はい、その通り。でも戦略パートナーとしては、それは許されません。というか、そんないい加減な商品は誰も買ってくれません。

具体的には、どういう訓練をしたんですか？

各商品、各サービス、各案件ごとに、ゼロベースから勉強して、過去の成功体験は全部忘れて、１から考え直しました。

過去の成功体験は全く役に立ちませんか？

いえ、そんなことはないです。ただ一回それを全否定しないと、新しいスキルは身につかないんですよ。一回リセットした後は、過去の成功体験やスキルが生きて来ます。

すごい実感こもってますね。

はい。メシを食うって大変なことです。だからこそ「もっと早く副業しておけばよかった」と、今になって思うわけです。

社外でも通用するスキルを身につけておいた方がいい？

社長やってるぐらいだから、たぶん頑張り屋さんなんですよ。みんな。

はい。それは間違いないです。

だから現状の「ちゃんとスキルつけなきゃダメだ」ってことを自覚して、コツコツと努力をすればいい。そしたら、いざとなっても困らない人になれます。会社が潰れても困らない。

たしかに。。。社長も副業かぁ。