7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回のおさらい 第22回「日本型大企業の未来」
第23回 「1業種1社の時代へ」
海外の経営者が「日本の大企業を見習おう」とした時期って、ありましたよね?
ありました。もう昔話ですけど。
今ではもう、そんな気はないですかね?
日本の大企業は遅れをとっている、というのが世界の見方でしょうね。
日本にいると実感がありませんが。
それが一番怖いところです。
日本の大企業って、どこでダメになりだしたんですか?
1つは、絶対的にグローバル化したことですね。
でも昔から日本は、世界に向けてビジネスをやってきましたよね。だって加工貿易国なんですから。
僕がいうグローバル化は、世界中に競争相手が増えて「安くて良いもの」が日本の専売特許ではなくなったという意味です。
確かにそうですね。それは日本の技術力が下がったからですか?
もちろん技術力もあったんですが「歴史的な背景」で言えば、日本の輸出産業は戦後の景気で一気に伸びたんですよ。
実力だけではなかったと?
そうです。でも世界大戦みたいな戦争は、もうないじゃないですか。
やったら終わっちゃいますからね。
だから、戦後のような記録的な好景気はもう訪れないし、マーケットはどんどんグローバル化していく。
いい商品を、安く大量に作って販売する、というモデルではもう無理だと?
はい。安い商品はどこでも作れる。
技術力も、どんどん追い上げられていますもんね。
もう既に、抜かれている業界もたくさんあります。
同じような状況を、欧米諸国は「日本相手に経験してる」わけじゃないですか。でも彼らはそれを克服して、生き残ってきたわけですよね?
いやいや、彼らとはスケールが違いますよ。
そんなに違いますか?
ぜんぜん違います。自動車だけ見てるとグローバルに見えますけど、日本って意外と内需主導型なんですよ。
そうなんですか?
はい。企業の業績が上り調子だったのは、購買力の落ちない日本のマーケットが支えてきたから。
でも「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とか言われてたじゃないですか。
日本で言われてるほど、世界では思われてなかったと思いますよ。
何と!
だって、せいぜい、バブルの時にロックフェラーセンター買っただの、映画会社買っただのぐらいな感じでしょ。
まあ、確かに。
車とか半導体以外で、たとえば金融業界なんかは、世界にちょっと進出してますけど、ビジネスの実態はどう見ても日本マーケットじゃないですか。
日本の大企業は、ほとんどが内需型だと?
だって、世界第2位のマーケットが目の前にあるんですよ。
なるほど。
実際に、日本人のライフスタイルの向上とともに、家電業界って大きくなって来たわけです。
じゃあ、彼らのお客さんは常に日本人だったと。
日本人がいちばん「いいな」と思う電化製品を作るのが、家電メーカーの至上命題でしたから。
今は中国マーケットとかも、すごく意識してますよね?
中国とかASEANに対して、「もっと売れ!拡げろ!」という明確な指示が出たのは、おそらく2000年以降だと思います。
でも、欧米では売れてたイメージあるんですけど。日本の家電って。
ウォークマンのイメージが強いですけど、やっぱりエレクトロラックスとか、フィリップスとかGEとかの優位性は、当時からありました。
そうなんですね。
日本人が思ってるほど「日本の製品が席巻してる」なんていう産業は、ないんですよ。
ということは、これまでは「人口が増え続ける国内マーケット」を相手にやってきたから、大きくなったと?
はい。
人口が減って、購買力も落ちて来たから、それに合わせて企業の力も落ちた?
その通りです。
でも、それでいくと、これから内需ってさらに縮小していきますよね?
間違いなく。
そうなったら、グローバル・マーケットで勝ち残るしかないですよね?
頑張るしかないし、今まさに頑張っているんでしょうね。
でも、ひとつの業界にせいぜい4・5社、おそらく2・3社しか残らないって言われてますよ。そこに日本企業が入っていけるんでしょうか?
無理でしょう。
無理?
無理だと思います。
ということは、日産なんかはルノーと合体してラッキーってことですか?
結果的には、あれでよかったと思うんですよ。ルノー・日産・三菱で世界第2位じゃないですか。
そうですよね。
1位がフォルクスワーゲングループ、次がルノー・日産グループで、3位はトヨタです。結局、世界はどんどん寡占化していくんですよ。
これは家電とか車に限らず、金融とか、たぶんあらゆる業種の話ですよね?
おっしゃるとおり。
そのときに、日本の大企業は「今のままじゃ勝てない」っていうことですよね。
そうです。
じゃあ、かなり大危機じゃないですか。
まあ、そうなんですけど。危機感っていうのは、会社に経営危機が訪れない限り、目の前の売上と利益が確保されている段階では、感じられないんですよ。
そんなこと言っているから、シャープが台湾企業になって、日産がルノーの子会社になっちゃったんじゃないですか。
そうなんですよ。困りましたね。
やっぱり、グローバル経営やるんだったら、グローバル経営者じゃないと無理なんじゃないですか?ゴーンさんみたいな。
そう思いますね。
そうですよね。じゃあやっぱり「純国産大企業」って、なくなっちゃうんですかね?
日本の大企業は、だんだん多国籍化して、そんなに遠くない未来に「各産業1社ずつ」になると予想しています。
車で1社、家電で1社、金融で1社、という感じですか?
車・家電・銀行・保険は、ギリギリ1社、日の丸背負えるかもしれません。縮小した日本でも1社は必要ですから。
それは国内だけを対象にした会社ですか?
国内マーケットがメインですね。
たとえば金融で「日の丸銀行」が1個残るとしますよね。でも、その銀行が世界の3大バンクの1つに入るイメージがどうも湧かないんですよ。
それは、ないですね。
それでも生き残れるんですか?
その時にGDPが世界7位なのか、8位なのかは分かりませんけど。そうは言っても上から数えてトップ10には入ってるでしょうから。
内需によって何とか生き残れると?
財閥系の銀行も全部くっついて、大統合して「ヤマト銀行」みたいになって生き残る。
海外に打って出る銀行もあるのでは?
多分ないでしょうね。結局統合すると思いますよ。
でも、自ら出て行かなくても、海外からは入ってきますよね?
そこは規制の問題ですよ。政府がどこまで規制かけて守るのか。
トランプさんも、そんな感じで頑張ってますよね?
あそこまでは、やれないでしょう。
世界に嫌われても平気ですもんね。
合衆国大統領だから出来るんですよ。日本の政治家では絶対無理。
自由化するのが世界の潮流ですもんね。
潮流もありますし、国としてのニーズが出て来て自由化する可能性もあります。
国としてのニーズですか?
はい。今回の入管法もそうじゃないですか。
入管法?
今までは、全力で規制してきたわけですよ。でも労働力が足りなくなって、「何とかしてくれ」というニーズがすごくて、変わらざるを得なくなった。
確かに。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。