さよなら採用ビジネス 第23回「1業種1社の時代へ」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい 第22回「日本型大企業の未来」

 第23回 「1業種1社の時代へ」 


安田

海外の経営者が「日本の大企業を見習おう」とした時期って、ありましたよね?

石塚

ありました。もう昔話ですけど。

安田

今ではもう、そんな気はないですかね?

石塚

日本の大企業は遅れをとっている、というのが世界の見方でしょうね。

安田

日本にいると実感がありませんが。

石塚

それが一番怖いところです。

安田

日本の大企業って、どこでダメになりだしたんですか?

石塚

1つは、絶対的にグローバル化したことですね。

安田

でも昔から日本は、世界に向けてビジネスをやってきましたよね。だって加工貿易国なんですから。

石塚

僕がいうグローバル化は、世界中に競争相手が増えて「安くて良いもの」が日本の専売特許ではなくなったという意味です。

安田

確かにそうですね。それは日本の技術力が下がったからですか?

石塚

もちろん技術力もあったんですが「歴史的な背景」で言えば、日本の輸出産業は戦後の景気で一気に伸びたんですよ。

安田

実力だけではなかったと?

石塚

そうです。でも世界大戦みたいな戦争は、もうないじゃないですか。

安田

やったら終わっちゃいますからね。

石塚

だから、戦後のような記録的な好景気はもう訪れないし、マーケットはどんどんグローバル化していく。

安田

いい商品を、安く大量に作って販売する、というモデルではもう無理だと?

石塚

はい。安い商品はどこでも作れる。

安田

技術力も、どんどん追い上げられていますもんね。

石塚

もう既に、抜かれている業界もたくさんあります。

安田

同じような状況を、欧米諸国は「日本相手に経験してる」わけじゃないですか。でも彼らはそれを克服して、生き残ってきたわけですよね?

石塚

いやいや、彼らとはスケールが違いますよ。

安田

そんなに違いますか?

石塚

ぜんぜん違います。自動車だけ見てるとグローバルに見えますけど、日本って意外と内需主導型なんですよ。

安田

そうなんですか?

石塚

はい。企業の業績が上り調子だったのは、購買力の落ちない日本のマーケットが支えてきたから。

安田

でも「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とか言われてたじゃないですか。

石塚

日本で言われてるほど、世界では思われてなかったと思いますよ。

安田

何と!

石塚

だって、せいぜい、バブルの時にロックフェラーセンター買っただの、映画会社買っただのぐらいな感じでしょ。

安田

まあ、確かに。

石塚

車とか半導体以外で、たとえば金融業界なんかは、世界にちょっと進出してますけど、ビジネスの実態はどう見ても日本マーケットじゃないですか。

安田

日本の大企業は、ほとんどが内需型だと?

石塚

だって、世界第2位のマーケットが目の前にあるんですよ。

安田

なるほど。

石塚

実際に、日本人のライフスタイルの向上とともに、家電業界って大きくなって来たわけです。

安田

じゃあ、彼らのお客さんは常に日本人だったと。

石塚

日本人がいちばん「いいな」と思う電化製品を作るのが、家電メーカーの至上命題でしたから。

安田

今は中国マーケットとかも、すごく意識してますよね?

石塚

中国とかASEANに対して、「もっと売れ!拡げろ!」という明確な指示が出たのは、おそらく2000年以降だと思います。

安田

でも、欧米では売れてたイメージあるんですけど。日本の家電って。

石塚

ウォークマンのイメージが強いですけど、やっぱりエレクトロラックスとか、フィリップスとかGEとかの優位性は、当時からありました。

安田

そうなんですね。

石塚

日本人が思ってるほど「日本の製品が席巻してる」なんていう産業は、ないんですよ。

安田

ということは、これまでは「人口が増え続ける国内マーケット」を相手にやってきたから、大きくなったと?

石塚

はい。

安田

人口が減って、購買力も落ちて来たから、それに合わせて企業の力も落ちた?

石塚

その通りです。

安田

でも、それでいくと、これから内需ってさらに縮小していきますよね?

石塚

間違いなく。

安田

そうなったら、グローバル・マーケットで勝ち残るしかないですよね?

石塚

頑張るしかないし、今まさに頑張っているんでしょうね。

安田

でも、ひとつの業界にせいぜい4・5社、おそらく2・3社しか残らないって言われてますよ。そこに日本企業が入っていけるんでしょうか?

石塚

無理でしょう。

安田

無理?

石塚

無理だと思います。

安田

ということは、日産なんかはルノーと合体してラッキーってことですか?

石塚

結果的には、あれでよかったと思うんですよ。ルノー・日産・三菱で世界第2位じゃないですか。

安田

そうですよね。

石塚

1位がフォルクスワーゲングループ、次がルノー・日産グループで、3位はトヨタです。結局、世界はどんどん寡占化していくんですよ。

安田

これは家電とか車に限らず、金融とか、たぶんあらゆる業種の話ですよね?

石塚

おっしゃるとおり。

安田

そのときに、日本の大企業は「今のままじゃ勝てない」っていうことですよね。

石塚

そうです。

安田

じゃあ、かなり大危機じゃないですか。

石塚

まあ、そうなんですけど。危機感っていうのは、会社に経営危機が訪れない限り、目の前の売上と利益が確保されている段階では、感じられないんですよ。

安田

そんなこと言っているから、シャープが台湾企業になって、日産がルノーの子会社になっちゃったんじゃないですか。

石塚

そうなんですよ。困りましたね。

安田

やっぱり、グローバル経営やるんだったら、グローバル経営者じゃないと無理なんじゃないですか?ゴーンさんみたいな。

石塚

そう思いますね。

安田

そうですよね。じゃあやっぱり「純国産大企業」って、なくなっちゃうんですかね?

石塚

日本の大企業は、だんだん多国籍化して、そんなに遠くない未来に「各産業1社ずつ」になると予想しています。

安田

車で1社、家電で1社、金融で1社、という感じですか?

石塚

車・家電・銀行・保険は、ギリギリ1社、日の丸背負えるかもしれません。縮小した日本でも1社は必要ですから。

安田

それは国内だけを対象にした会社ですか?

石塚

国内マーケットがメインですね。

安田

たとえば金融で「日の丸銀行」が1個残るとしますよね。でも、その銀行が世界の3大バンクの1つに入るイメージがどうも湧かないんですよ。

石塚

それは、ないですね。

安田

それでも生き残れるんですか?

石塚

その時にGDPが世界7位なのか、8位なのかは分かりませんけど。そうは言っても上から数えてトップ10には入ってるでしょうから。

安田

内需によって何とか生き残れると?

石塚

財閥系の銀行も全部くっついて、大統合して「ヤマト銀行」みたいになって生き残る。

安田

海外に打って出る銀行もあるのでは?

石塚

多分ないでしょうね。結局統合すると思いますよ。

安田

でも、自ら出て行かなくても、海外からは入ってきますよね?

石塚

そこは規制の問題ですよ。政府がどこまで規制かけて守るのか。

安田

トランプさんも、そんな感じで頑張ってますよね?

石塚

あそこまでは、やれないでしょう。

安田

世界に嫌われても平気ですもんね。

石塚

合衆国大統領だから出来るんですよ。日本の政治家では絶対無理。

安田

自由化するのが世界の潮流ですもんね。

石塚

潮流もありますし、国としてのニーズが出て来て自由化する可能性もあります。

安田

国としてのニーズですか?

石塚

はい。今回の入管法もそうじゃないですか。

安田

入管法?

石塚

今までは、全力で規制してきたわけですよ。でも労働力が足りなくなって、「何とかしてくれ」というニーズがすごくて、変わらざるを得なくなった。

安田

確かに。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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