さよなら採用ビジネス 第28回「人材は資産から負債に変わる」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第27回「野球とベースボールの違い」

 第28回「人材は資産から負債に変わる」 


安田

もし石塚さんが日本政府から「大企業の40代50代があぶれてくるから、中小企業になんとか放り込んでくれ」って頼まれても、無理ですか?

石塚

まあ、結論は無理ですね。

安田

何割ぐらいだったら可能ですか?

石塚

そのままのマッチングだとほとんど無理ですね。ただ、みなさんバカではないから、何割かは適応し始めると思いますけど。

安田

昔からすごく不思議だったことが、あるんですけど。

石塚

何ですか?

安田

起業して成功してる人って、エリート人材が少ないじゃないですか。

石塚

ものすごく少ないですね。

安田

中小企業出身とか、あるいは「学歴なんかぜんぜんなくて」みたいな人がほとんど。

石塚

いい学校出て、いい会社に行くようなエリートは、わざわざそれを捨てて自分で会社なんかつくりませんよ(笑)

安田

なるほど。でも三木谷さんみたいに、エリートが会社をつくればあんな大きくなるわけじゃないですか。

石塚

たまたまですよ。

安田

大企業に行くようなエリートが起業したら、みんな大成功するんじゃないかと思ってたんですけど。そんなことないですかね?

石塚

ないと思います。

安田

それはやっぱり、総合力みたいなものがないからですか?

石塚

安田さんもご記憶にあると思うんですけど、2000年のITバブルの時に三木谷さん的な人っていっぱいいましたよね。

安田

そういえば、いたような気もしますね。

石塚

ソニーとか、IBMとか、リクルートを飛び出して、IT業界で起業したエリートがいましたけど、残らなかったですよね。

安田

たしかに「リクルート出身者は凄い」ってよく言われますけど、有名な社長ってあまりいないですよね。

石塚

リクルート出身は、雇われ社長とか雇われ役員が多いですね。

安田

雇われて何年かで、スパッと切られたりする人も多いです。

石塚

雇われ社長で20年以上やれた有名な人なんて、セブンの鈴木敏文さんぐらいじゃないですか。

安田

最後には結局、追い出されましたけどね。

石塚

あの内幕は知ってるので、今度飲んだ時にお話しします(笑)。

安田

起業しても上手くいかないし、中小企業にもマッチしない。じゃあ40〜50代の大手出身者ってどうしたらいいんですか?

石塚

いちばんの問題は、大手の40~50代って生活コストがかかることなんですよ。

安田

生活コストですか?

石塚

子どもの教育費と住宅、あと生活レベルで。いい場所に住んでますし、いい学校にも通わせている。

安田

今まで800万くらいで生活してた人が、400万って言われたら生活ができない?

石塚

いやいや安田さん、40代50代で年収1,000万以下なんかいませんよ。大企業には。

安田

えっ、いないですか!?

石塚

下で1,200、上で1,700~1,800ですよ。

安田

そんなに、もらえるんですか?大企業って。

石塚

はい。

安田

それを抱えて利益出すって、やっぱすごいですね。

石塚

だからメスを入れたいんですよ。

安田

なるほど。

石塚

テールエンドで1,200万ですよ、40代終わりぐらいで。いちばん出世頭だと1,700~1,800、役員手前で2,000万ぐらいが常識じゃないですか、有名大企業は。

安田

すみません。大手企業の給料は興味なかったんで、ぜんぜん知りませんでした。

石塚

仮にその中間をとって1,500としましょう。1,500のサラリーを維持する、まず絶対無理です。

安田

そうですよね。

石塚

だから、2つの問題があって、1つは前回お話しした適応力の話。まず、とにかくどこかの中小企業で、試行錯誤と失敗の経験をしなきゃいけない。

安田

ということは「雇いながら仕事を教える」ことになるわけですね、中小企業は。

石塚

まあ、そういうことですよね。もう1つは、生活コスト自体を下げるという問題。

安田

どのくらいまで、下げればいいんですか?

石塚

どこまで下げればペイするかというと、たぶん700万だと思います。

安田

700万?

石塚

はい。700万だったら、雇う中小企業は結構出てくると思います。1,000万は難しいです。

安田

でも、700万だったら、世の、中小企業転職組からしたら、ものすごい破格の条件ですよね。それでもなかなか「うん」とは言わないんですか?

石塚

まず絶対無理ですよ。「オレをバカにしてんのか?」ってみんな言いますよ。

安田

え!そうなんですか?

石塚

プロ野球の年俸を下げる限界って、25パーセントでしょ。

安田

確か、下限が決まってましたよね。

石塚

仮に1,500万として25パーセントって375万ですから。下げても1,125万までしか下げられない。それを700万ってあり得ない話なんです。

安田

でも下げないとマッチングしないんですよね?

石塚

マッチングでいうとそのへんだと思います。

安田

1500万の給料が払えない、払う価値がないから、会社を出ることになるわけじゃないですか。

石塚

その通りです。

安田

「オレにはその金額の価値がなかったんだ」とは思わないものなんですか?

石塚

まあ、その瞬間になるまで、本人は自覚してないでしょうね。「この企業に属して、これだけのサラリーをもらってる」というのが、彼らのプライドそのものなので。

安田

誰かが現実を教えてあげた方が、いいんじゃないですか?

石塚

あんまり、ここをいじめると、みんな鬱になっちゃうんで。

安田

いじめるとか言われても・・・

石塚

大企業の50代は温室でずっと育ってらっしゃるんで。心身のバランスを崩しやすい年齢でもありますから。

安田

じゃあ、どうするんですか。他人事ながら心配になってきますよ。

石塚

だから僕は前から言ってたんですよ。バブル期入社組の再就職問題。誰も当時は耳を貸してくれませんでしたけど。

安田

やっぱバブル組は、かなり分不相応な会社に入ってるんですか?

石塚

いや、単純に有名企業が、昭和60年代に新卒採用し過ぎたって話ですよ。

安田

1,000人単位でしたもんね。

石塚

その時は、まさに景気がドーンと、「日経平均4万台突入か」みたいなことを、みんな本気で思ってたわけじゃないですか。

安田

思ってましたね。「日本列島を売れば、アメリカが2つ買える」って言われましたから。

石塚

1,000人2,000人って新卒を採ったわけですよ。それが経年劣化しちゃった。

安田

まさに「採ってしまった」という感じですね。

石塚

当時は資産だったと思うんですよ。優秀な学生1,000人という資産だった。ところが今はバランスシートでいうと負債に変わってしまった。

安田

資産が負債に変わったと?

石塚

右と左、逆になっちゃった、ということですよ。

安田

顕在化してなかっただけで、必ず起こる問題だったということですか?

石塚

一時期、不良債権問題って、あったじゃないですか?

安田

ありましたね。小泉首相と竹中大臣の頃。

石塚

あれは金融の問題でしたけど、実は「ヒューマンキャピタルの不良債権問題」も、ずっと抱えてたんですよ。

安田

単に処理してなかっただけだと?

石塚

そうです。今まさに、その処理を始めてるんですよ。1500万円に見合わない不良債権の処理を。

安田

でも、そうなってくると、働く場所はないし、鬱になられたら国としてもまたお金がかかるわけですよね。

石塚

そうなりますね。

安田

だったら解雇規制なんか緩めずに、大手にそのまま押し込んでおいたらいいじゃないですか。

石塚

それではもう、大企業が持たないってことですね。

安田

まだいっぱい、お金を溜め込んでそうですけど。

石塚

いや、もうギリギリ。ラストチャンスです。

安田

確かに。不正疑惑とか、身売りする大企業とか、出て来てますもんね。

石塚

でも結局、政治家は選挙のことを考えるから。「解雇やめろ!」っていう民意を恐れて、ハードランディングはしないような気がします。

安田

じゃあソフトに。気がついた時には「これって解雇規制の緩和じゃないか」みたいな感じで?

石塚

どういうカタチかは分かりませんが、大手企業で大々的なリストラが起こることは間違いないです。

安田

でも、そんな危機感を感じないんですけどね。大手企業の年配の人からは。

石塚

僕にはそれが、よく分からないんですけど。

安田

もし逃げ切れないと思ってたら、もうちょっとその準備をしませんか?普通は。

石塚

たとえば、どんな準備ですか?

安田

副業で稼ぐとか、休みの日に中小企業に行って修行させてもらうとか。

石塚

そんなことが出来る人なら、会社から「残ってくれ」って真っ先に言われますよ。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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