7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第36回「正しい大企業の辞めどき」
大企業に入ったら「あとはもう安泰」っていう時代じゃ、なくなりました。
盲目的に働き続けるのは、かなり危険ですね。「辞める」ということも視野に入れながら働くべきです。
辞める覚悟を持って働く、ということですか?
辞めるという選択肢を「持ってなくちゃいけない」ってことですね。
その選択肢って、どういう場合に出てくるんですか?適切な辞めどきってあるんですか?
まず、大企業ではたらく「最も大きい弊害」っていうのは、上司なんですよ。
上司ですか?
はい。上司と半ば固定した関係を作られてしまうので。もろに人生に影響します。
そんなに強固な関係なんですか?
もう絶対ですね。その上司が、たとえば「自分の可能性や自分のよさ」をまったく認めてくれないとします。
全否定されるってことですか?
たとえば自分のやり方を押しつけて「おまえはダメだ」とか、「おまえは必要ないんだ」「俺の言うことを一から十まで聞けばいいんだ」みたいな。
それは辛いですね。
そういう上司の部下になって、半ば閉塞状況に陥ったときは、もう躊躇なく辞めたほうがいいと思います。
上司を変える希望とか出せないんですか?
会社によりけりですけど、もちろん異動希望を出してみる価値はありますね。
それで希望が通らない時は辞めたほうがいいと。
価値観が固定化した上司に判断をされて、それが思いっきりマイナスのほうに振れてるときは、環境を変える以外ないですね。
じゃあ、辞める決断をするとしたら、まず上司ってことですか。
はい。もう1つは、会社との相性。
会社との相性ですか?
会社によって仕事の進め方が、かなり違います。それが合わないのであれば、根本的に合わないんで、合うところへ行ったほうがいい。
「仕事の進め方との相性」ってことですね?
そういうことです。
なるほど。でも「石の上にも三年」って言われるじゃないですか。たとえば「この上司は絶対に無理」ってなった時に、入って1年で辞めちゃっていいものなんですか?
辞めていいと思います。
なんと!「石の上にも三年」は考えなくてもいいと。
これは僕の持論ですけど、自分にとってネガティブなことをひたすら我慢し続けるって、心にも体にも決してよくないですよ。
まあ、よくないですけど。せっかく苦労して大企業に入ったのに。
そもそも、その「石の上にも三年」っていうのは、何の根拠もないですよ。
あると思いますけど。
どんな根拠ですか?
たとえば「いい大学出てるから仕事ができる」という時の根拠と同じ。
それって根拠ないじゃないですか。
いい大学に入るために「頑張ってコツコツ勉強した人」っていう根拠ですよ。
努力できる人ってことですか?
そうです。だって「なんだこいつ、入って半年で辞めちゃったの!?ちょっとも我慢できないやつだな」みたいな見られ方はしませんか?
それは辞める理由によりますね。
辞める理由?
真剣に考えて「自分に合わない」っていう結論を出したのであれば、それは悪い判断ではないと思います。
でも「その会社に入る」って決めたのも自分ですよね?
はい。だから自分の判断ミスを率直に認めて、方向を変えたほうがいい。
自分の判断ミスを認めることが大事だと?
それを正当化したり、誤魔化したりしたらダメです。「判断間違えました。すみません」「おかげさまで、合わないってよくわかりました」と。
そんなので、いいんですか?
「なんとなく」とか、ただ「合わない」とかじゃなくて、自分なりの深さというか、「自分なりにいろいろ考えた結果」っていうプロセスが大事。
それが入社半年でも構わないと?
長いか短いかって主観的なものでしかないので。主観対主観を比べたところで唯一絶対解ってないじゃないですか。
主観対主観?
たとえば安田さんが1年で辞める、僕は2年で辞めるっていう時、それ比べられないと思うんですよ。
人によって答えを出す時間は違うと?
だってそうでしょ。「なんで1年で辞めるんだ」って言われても、安田さんには安田さんなりの考え方があるわけで。
確かにそうですね。
周りの人に「なんで3年もたないんだ」って言われても、そんなの答えようがないですよ。
なるほど。じゃあ明確な理由があるのなら、早くてもぜんぜん問題ないと?
問題ないです。
ちなみに、受け入れる側はどうなんですか?「大手から大手の転職は難しい」って話でしたけど。
若い場合は十二分に「大手から大手」はあり得ます。
なるほど。早く決断したほうが、かえってそこは有利だと。
はい。そういうケースは、よく知ってます。
何歳ぐらいまでが可能なんですか?
20代までです。
なるほど。じゃあ、大手から中小への転職はどうですか?これも難しいって話でしたけど。
その流れも当然あるでしょうね。20代であればまったく問題ないです。
じゃあ、方向を変えるなら、早いほうがいいわけですね。
一度でも就業経験をして、半年でも仕事した人って、やっぱり新卒と比べても明らかに違いますよね?
それは「仕事ができる」ってことですか?
仕事ができるとかできないとかいう前に、仕事や会社というものを「自分で体感してる」ってことが大きいんですよ。
体感した後のほうが、間違えずに判断できると?
求人情報や仕事の情報を見た時に、感じ取り方がかなり具体的ですよね。
確かに、新卒は抽象的な「雰囲気」とかで選びますもんね。
だって、働いたことがないと分からないじゃないですか。
分かりませんね。
たとえば会議の進め方とか、意思決定の仕方とかも、半年真剣にやったんであれば「合う合わない」が分かるようになる。
新卒の時よりもマッチング度合いが高くなると?
前の会社で合わなかった部分って、必ず確認するじゃないですか。
そりゃあ、するでしょうね。
「会議はどんなふうに進められるんですか?」とか「1日の仕事の流れを教えてください」とか聞けば、「ここはダメだな」って自分なりのジャッジができる。
知名度とかイメージとかで、選んじゃいますもんね。新卒は。
「実態は違うんだ」っていうことが分かってるはずなんで。自分なりの軸ができてるほうがマッチング度合いは高くなります。
なるほど。
第二新卒で、就職し直した人って、割とうまくいってる場合が多いです。
たとえば大手から中小に流れる人だったら、結構いいポジションで拾われたりもするんですか?
中小って、そういう人を新卒で採れないですから。
まあ、採れないですよね。
働く側も現実目線が加わってるので、意外にいいマッチングだったりするわけです。
なるほど。じゃあ、大手を辞めるなら20代ってことですかね?
はい。合わないという結論が出てるなら、辞めるのは早い方がいいです。
「石の上にも三年」とかの我慢は必要ない?
まったく意味がないです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。