さよなら採用ビジネス 第37回「もうキャリアアップは要らない」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第36回「正しい大企業の辞めどき」

 第37回「もうキャリアアップは要らない」 


安田

アメリカでは何かにつけて「自己責任」みたいなことを、言われるじゃないですか。

石塚

アメリカは個人社会ですから。個人の権利と個人の責任はセットなんですよ。

安田

日本の場合は個人というより組織ですよね。みんなの責任、みんなの権利、みたいな感じ。

石塚

その傾向が強いですね。

安田

でも今後は「会社に人生を預ける」のではなく、「人生のリスクを自分で背負う」時代になると思うんですけど。

石塚

ならざるを得ないでしょうね。

安田

でも、それって「日本人に合ってない」という気もするんですけど。どうなんですかね?

石塚

うん、合ってないと思います。

安田

やっぱりそうですよね。「組織の一員」という生き方が合っている人って、結構いますよね。日本人は。

石塚

日本人って「契約によって仕事を考える」というより「権利・義務だけで仕事を考えない」という傾向の方がはるかに強いんですよ。

安田

その傾向が強いと、どうなるんですか?

石塚

仕事をすること自体に意味を見いだす。あるいは「誰々のためだからやる」とか。

安田

顧客志向ってことでしょうか?

石塚

お客さんのためかもしれないし、上司のためかもしれない。「自分が人の役に立ってる」とか「人によろこばれている」っていう実感を持ちたい。

安田

それが日本人の労働観ってことですか?

石塚

そういう価値判断軸がすごく強い。

安田

外国人は、もっと契約寄りなんですか?

石塚

めちゃくちゃ契約寄りですよ。

安田

もっとドライってことですか?

石塚

どっちがいいとか悪いではなく、どちらにも良い部分と悪い部分があるんですよ。

安田

たとえば、どのような?

石塚

日本の会社って、大企業にしても中小企業にしても「社員は家族」っていう考え方がベースにあるんですよ。

安田

家族的経営ってことですよね?

石塚

はい。家族が円満なうち、つまり会社の状況がよくて特に問題がなければ、これ凄くうまくいくんですよ。

安田

円満でなくなると、大変だと。

石塚

家族でも「浮気しちゃった」とか「急激に家計が悪くなった」とかで、バラバラになったりするじゃないですか。

安田

残念ながら、バラバラになることはありますね。

石塚

会社はもっとシビアですから。経営危機になると「いままで家族だったけど別れなきゃいけない」っていう頻度が増える。

安田

そうなると家族経営は脆い?

石塚

情で繋がっていた分、それがなくなると求心力が一気に下がります。

安田

でもそれって、もう昔の話なんじゃないんですか?いまの若い人は、個人の価値観を大事にしてる気がしますけど。

石塚

僕は、その議論にいつも違和感を覚えます。現場を見てると真逆なんですよ。

安田

そうなんですか?

石塚

たとえばスマホって、便利な分、コミュニケーションが軽いじゃないですか。

安田

軽いですよね。

石塚

軽いからこそ「みんなの中の自分」とか「みんなは自分をどう思ってるのか」みたいな意識が強くなってる。

安田

確かに。LINEとか、仲間内の評判とか、すごく気にしてますね。

石塚

仲間意識が強いから報酬に対しても「お金、お金」って言わないんですよ。

安田

ということは、いまの若い子って「所属したい欲求」が強いってことですか?

石塚

僕らの年代よりも、ずっと強いと思います。

安田

ということは、家族経営みたいなものが合っていると?

石塚

20代ってことで言うと、昔に戻ってるような気がします。

安田

へぇ!そうなんですか。

石塚

80年代より前に戻ってる感じがします。

安田

80年代より前?

石塚

できれば転職はしたくない。自分の居場所を見つけられて、長く安定して働ける会社に就職をしたい。だからキャリア意識とか、そういうものは後退してる。

安田

でも現実問題として、終身雇用なんてもう約束できないじゃないですか。若者だってそこは自覚してるんじゃないですか?

石塚

うーん。まあ、あえて言うと、低位安定をギリギリまでやる感じがします。

安田

低位安定をギリギリまで?

石塚

つまり「会社が苦しいんだったら、給料上げてもらわなくてもいいです」「年収低ければ、それなりに生活するすべは持ってますから」っていう。

安田

それでも、そこに所属していたいってことですか?

石塚

居場所があるのであれば。

安田

居場所っていうのは何ですか?人間関係ですか?

石塚

そこは大きいですね。

安田

でも単に「仲がいい人がいる」ってだけじゃないですよね?

石塚

「自分が必要とされてる感」ですね。自分なりの役割みたいなものを実感できる場所。

安田

じゃあ、居場所があれば「給料上がらなくてもいい」ってことですか?

石塚

そういう層が「かなり増えた」ってことだと思うんですよ。

安田

でも経営者は「給料を増やさないと人が採れない」って思ってますよ。かなりズレてますね。

石塚

僕が「もう日本人の職業紹介は無理だ」って思ったのは、それも理由です。

安田

「辞めない」ってことですか?

石塚

昔の自分の常識が通じない。

安田

昔の常識?

石塚

キャリアと報酬が「階段のように上がっていく」ということに、モチベーションを感じないんですよ。

安田

なんと!

石塚

もちろん全員じゃないですよ。そういう人もいますけど、ものすごく減った感じがします。

安田

じゃあ、ある程度生活ができて、それがうまく回っていくのであれば、べつに階段上らなくてもいい?平地でもいいってことですか?

石塚

おっしゃるとおり。

安田

でも、それ20代っておっしゃいましたけど、結婚して、家族ができたら変わるんじゃないですか?

石塚

どうなんでしょうねえ。彼らが妻帯者になって、どんな家庭になるのかはわかりませんけど。

安田

家族ができたら、家とか家具とかも買いたくなるんじゃないですか?

石塚

親世代にはなかったシェアリングエコノミーのおかげで、物を所有するよりも「リスクはあまり取らず」「身近な幸せを求めて」生活レベルは質素に。お金をかけない。

安田

達観した生き方ですね。

石塚

消費の量とか、豪華な暮らしとか、高いものを所有するためとか、明らかにそういうモチベーションでは回ってない。

安田

それが現場の実感ですか?

石塚

転職相談をやってた時の実感ですね。

安田

でも発想を転換すれば、新しい経営スタイルが可能になりますよね?

石塚

おっしゃる通りです!僕いつも、それを提案するんですけど。

安田

ですよね。居場所と持続可能な環境を用意してあげれば、報酬が上がらなくても頑張ってくれる。

石塚

実際にそうなってますから。

安田

そういう会社でも、生き残っていけると?

石塚

いや、むしろ、そういう会社にしていかないと、成り立っていかないです。

安田

まず何を変えたらいいんですか?

石塚

何もかも。実態に合わせて、人の管理、人の評価、人の配置を考えていかないと。

安田

多くの会社は、実態に合っていないということですか?

石塚

その通りです。実態として社員と人事評価制度が、かい離してます。このままじゃ崩壊するっていうのが、僕の現場実感ですね。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから