さよなら採用ビジネス 第43回「プロファイルの極意」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第42回「生き残ればひとり勝ち」

 第43回「プロファイルの極意」 


安田

求人票をつくるときのポイントを教えて欲しいんですが。

石塚

とにかく「求職者目線」でつくることですね。

安田

よく「求職者の立場で考えなきゃいけない」って言うじゃないですか。

石塚

はい。それが基本ですね。

安田

具体的にどう違うんですか?「企業目線の求人票」と「求職者目線の求人票」って。

石塚

まずシンプルに言うと「何やってる会社なのか」「どういう仕事なのか」という説明が、すべて予定調和なんですよ。

安田

予定調和?

石塚

つまり「もうこのレベルは分かってるよね」っていう。

安田

知識があること前提で、説明してるってことですか?

石塚

そうです。たとえば配送の仕事も、その会社によって違うじゃないですか。

安田

単にドライバーとかじゃなくて。

石塚

今どき「ドライバー募集」とか書いてたら、絶対採用できないですよ。

安田

まあ、ドライバー採用は難しいですよね。

石塚

いや、そうじゃないんです。ドライバーという職種だから採用できないわけではない。

安田

やりようによっては採れると。

石塚

現に採れてます。採れないのは「何を運ぶ会社か」「何をやってもらう仕事か」というのが分かりづらいから。

安田

そのぐらいは書いてそうですけどね。

石塚

書いてあるんですよ。でもこれがやっぱり求職者目線じゃなくて、すごく企業目線。

安田

たとえば?

石塚

もし中学2年生が社会科見学に来て「ゼロから説明する」ってなったら、違う説明しますよね。

安田

確かに。

石塚

前提知識のない人に「よく分かってもらう」ってのは、簡単そうで難しいんですよ。

安田

たとえば営業だったら「ルートセールスです」とか「企画営業です」とか、それなりに分かりやすく書いてますけど。これもダメですか?

石塚

話になりませんね。

安田

じゃあ、営業だったらどう書けばいいんですか?

石塚

営業のやり方だって、いろいろあるじゃないですか。

安田

いろいろ?

石塚

たとえば新規開拓するのに、紹介なのか、イベント集客営業なのか、広告打っての反響営業のか。それによってターゲットは変わりますよね。

安田

そんなに細かく変えるんですか。

石塚

当然です。そもそも「これ、営業じゃないですよね?」っていう営業職も、結構世の中には多いんですよ。

安田

営業じゃない営業?

石塚

「これ、要は定期的にお客様のところに行って、契約更新の確認するだけの仕事でしょ」と。

安田

言われてみれば、確かにそうですね。

石塚

それによって、好き嫌いとか、得意不得意って、変わるじゃないですか。

安田

ガンガン電話するのが得意な人もいれば、そうじゃない人もいる。

石塚

ガンガン電話はできないけど、「コツコツメール打つのは得意」って人が成果をあげる営業職もあるわけですよ。

安田

なるほど。それをひとくくりに「営業職」にしちゃうと、誰が向いてるのかわからないってことですね。

石塚

そうです。で、次に重要なのは「求職者が欲しいのに、企業がいちばん出さない」情報。

安田

ネガティブな情報ってことですか?

石塚

いや、違います。「こんな人が応募できますよ」という情報を載せるってこと。

安田

え?それはさすがに載せてるでしょ。

石塚

これが載ってないんですよ。「この仕事には、こんな人がもちろん応募できますよ」っていうのが、まずほとんど書いてない。

安田
それは採用条件みたいなものとは違うんですか?「資格を持ってる」とか。
石塚

資格でくくれる仕事は分かりやすいじゃないですか。でも営業の仕事とかって、分かりにくいでしょ。

安田

「求めている人材」が分かりにくいってことですか?

石塚

「応募していいのかどうか分からない」ってことです。

安田

応募していいかどうか?

石塚

たとえば「営業経験がある人優遇」とか書きますよね。

安田

はい。書きますよね。普通に。

石塚

そうすると「一定レベルの営業経験がないと、難しいのかな」って思うじゃないですか。

安田

まあ、思う人もいるでしょうけど。

石塚

要は、求職者からすると「分かりにくい」ってことなんですよ。で、よく分からない仕事には、応募なんかしない。

安田

なるほど。よくわかる仕事の中から選ぶってことですね。

石塚

求人情報って溢れてますよね?

安田

はい。溢れてます。

石塚

でも「こんな人にピッタリ向いてます」っていうのを分かりやすく説明してる求人って、全体の1割もないんですよ。

安田

そんなに少ないんですか?

石塚

安田さんも採用業界長いですけど、おなじみの採用条件の書き方ってあるじゃないですか。

安田

ありますね、はい。風通しのいい社風とか、やりがいとか。まあ、どこの会社も似たようなものになっちゃいますけど。

石塚

ですよね。どの求人も同じ。そうすると、それを見てもよくわからない。

安田

何が分かればいいんですか?

石塚

これは「私にぴったりの求人だ」ってことが、まっさらな人にも分かる。そこが最大のポイント。

安田

まっさらな人ですか?即戦力で、うちのビジネスモデルにピッタリで、経験もあって、能力もあって……っていう人が欲しいと思うんですけど。

石塚

そんな夢のような即戦力採用は不可能ですよね?

安田

まず無理ですね。だから「未経験だけど、ウチの仕事にピッタリ合いそうな人」を見つけることが大事だと。

石塚

おっしゃるとおり。そこが超重要です。

安田

で、未経験なだけに「どういう人が向いてるか」が、選ぶ側にも分からないと。

石塚

そういうことですね。

安田

そこを分かりやすく見せてあげれば、応募者が増える。

石塚

そうなんですよ。とにかく親切に、分かりやすく書くこと。

安田

たとえば「未経験歓迎!どんな人でも大丈夫!」って書いておくのはどうなんですか。

石塚

そんなの怖くて行けないじゃないですか。

安田

そうですか?

石塚

だって、値段が書いてない寿司屋みたいなもんですよ。安田さん、入れます?

安田

いや、怖いです(笑)

石塚

それと、もうひとつ。ターゲットの人数が多ければ多いほど「応募が少なくなる」ということ。

安田

それは、どうしてなんですか?

石塚

刺さり方が弱くなるからです。

安田

「私に対する求人だ」って、捉えてもらいにくくなるということですね。

石塚

そういうことです。過去の経験とか、性格とかタイプによって、誰に対する求人かを分かりやすくする。

安田

たとえば?

石塚

直近の例で言うと、「中学・高校を欠席したことがない人」というのやりました。

安田

真面目ってことですか?

石塚

「部活もいまいち、勉強も苦手、だけど考えてみたら中学・高校、俺、休んだことないなぁ。そんなあなたに、うちの会社とこの仕事はピッタリです」って、はっきり書く。

安田

そこまで絞り込むんですか?

石塚

そのほうが「俺だよ、これ」って分かるじゃないですか。

安田

なるほど。

石塚

私は最低でも、そのエリアにいるターゲットが10人以下になるまで絞り込みます。

安田

でも、絞りすぎてゼロになっちゃったらダメなわけでしょ?

石塚

もちろん。そこがプロファイリングの難しいところです。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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