7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第46回「業界が消滅するとき」
第47回「Xデーはいつなのか」
豊田章男さんの発言がネットで叩かれてます。
「終身雇用」は無理って、言っちゃいましたね。
過去最高の30兆円の売上だそうです。
はい。業績は過去最高ですね。
役員も2億ぐらい報酬取ってて、ネットでは「ふざけんな!」みたいになってます。
「終身雇用」の話と「役員報酬が高すぎる」っていう話は、切り分けて考えなきゃいけないと思いますよ。
まあそうですよね。完全に感情的になってますね。
はい。
じゃあ、終身雇用に関してはどうなんですか。過去最高の業績でも無理なんでしょうか?
終身雇用に関しては、これはもう当然の話で、無理に決まってるんですよ。
トヨタでも?
無理、無理、絶対無理ですよ。
さすがにトヨタだったら、いけるんじゃないかと思ったんですけど。
だって、会社の寿命のほうが、どんどん短くなっていくじゃないですか。
それは、トヨタといえども?
もちろんですよ。もしモータリゼーションそのものが、完全に電気自動車に移り変わってしまったらどうですか。
どうなるか分からないと。
たとえば中国は内燃機関が遅れてたので、一気にハイブリッドを越えて電気自動車にいった。その分、いま逆にリードしちゃってるわけですよ。
電動バスとか、すごく進んでるらしいですね。
面白い時代で、遅れてたのが逆にアドバンテージになって、先を行ってしまう。
キャッシュレスとかも、そうですよね。
決済もそうじゃないですか。中国の方がずっと進んでる。あれ、相当焦りあると思いますよ。
とはいえトヨタは過去最高売上ですよ。
いまの時点はね。でも、怖さしか感じないと思います。何がどう追ってくるかわからないし。
もうちょっと業績下がってから、それこそ電気自動車にやられて「もう無理」となったら、世の中も納得すると思うんですけど。
そんな悠長なこと言ってられないですよ。
そこまで切羽詰まってるようには見えないですけどね。
自動車って、新車出してから8年というのがひとつのスパンなんです。
ひとつのスパン?
新車でコケると8年間負け続けるんですよ。
なんと!8年間も負け続け。
新車で売れないってことは中古車市場もだめだから。8年間にわたってマイナスがずっと続くんですよ。
怖いですね。
逆に売れると、そのあとの8年って読めるんですよ。
なるほど。じゃあ、トヨタにとって今の業績は織り込み済みだと。
そういうことです。問題はこの先。
ハイブリッドの特許を公開してましたよね。トヨタは。
ハイブリッド車やガソリン車が、もしある日パタッと売れなくなったら「どうすんの?」っていう恐怖感があると思う。
あのトヨタが?恐怖感ありますかね。
大企業って抱えてる人間が大きいから、ネジが逆に回ったら恐ろしいじゃないですか。
そんな最悪の事態まで考えますか。
豊田章男さんの発言を聞いてると「トヨタが車を売れなくなったらどうするか」ってことを必死になって考えてるように感じますね。
現場は言われたことを一生懸命やってると思いますよ。
じゃあ、誰向けですか。もしかして日本の大企業を代表して発表したってことですか?
はい。そうだと思います。
ということは、他の大企業も次々にあの流れで発表するんですか?
おっしゃるとおり。「トヨタが言ってるんですから、ウチだってそうせざるを得ません」って、労働組合向けにも話せるじゃないですか。
便乗しちゃうわけですね。
あれだけ影響力のある企業がそれを発信するってことは、もう、そっちでシナリオができてるんですよ。
でも、トヨタの社長にしたら、なかなかしんどい役回りじゃないですか。
いつものことじゃないですか。
経団連の会長に頼まれたんですかね。
うーん、まあ、あうんの呼吸があるんじゃないでしょうか。
あうんの呼吸ですか。
トヨタはトヨタで「いつ言おうか」と思ってたし、「こういうタイミングだから、うちも『終身雇用は難しい』って言います」って。
ちなみに「いつか言わなくちゃいけない」「もう無理だね」っていうのは、何年ぐらい前から分かってたんですか。経営陣は。
バブルはじけてからずっと。この20~30年そうじゃないですか。
それをずっと引きずり続けてきたわけですか?
そうですよ。
でも、トヨタの社長といえども、無理だからって「いきなり解雇」はできないですよね。
もちろん。
じゃあ、どうなっていくんですか?
選挙が終わってから、解雇規制の法律を緩める圧力をかけますよね、当然。
緩めるっていうことは、つまり「お金を積めば解雇していいよ」ってことになる?
おっしゃるとおり。
指名できるってことですか?「あなたは解雇」みたいな。
それも含めて「一定の要件を満たせば解雇OK」というふうに踏み出したい。
一定の要件っていうのは、どういうのが予想されるんですか?
本人とこういう点に合意すれば、何年分の給与で解雇OKとか。
でも、希望退職で辞めてくれないような人は、絶対合意しないんじゃないですか。
どこまで法律で認めるか分かりませんけど、使用者側に有利に法規制を変えるんじゃないですかね。
使用者側に有利に?
ボタンをピッと押したら切り離される、っていうふうにしたい。
それはもう実質的に、条件うんぬんじゃなくて解雇OKってことなんじゃ?
まあ、そうでしょう。
そうなりますか?
たぶん経営者はみんな、中国みたいなモデルを望んでると思うんですよ。
中国のモデル?
中国は報償も高いんですが、その代わりに「ダメって言ったらダメ」みたいな。「もう終わり」って言ったら終わり。
そこまでドラスティックに変わりますかね。
やらざるを得ないでしょね。
政治家は決断しますか?
そのときの社会状況にもよりますけど、まず選挙の問題がありますよね。「解雇規制緩めます」なんて言った瞬間に、たぶん落とされると思うんで。
間違いないです。
だから選挙が終わってから。
ということは、次の選挙後って感じですか?
まあ、可能性はあると思いますよ。
最短だったらいつ頃ですか?
オリンピックが終わったら、いろんなことが一斉に始まる気がしますね。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。