7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第53回『生業と家業と企業』
第54回「店舗を増やす快感」
「いきなり!ステーキ」の調子が落ちてきているみたいです。
はい。落ちていますね。ニューヨークの事業も縮小してますし。
ちょっと拡大し過ぎたんじゃないですか? 2、3店舗でやっとけば、みんなに好かれる「安くておいしいステーキ屋さん」でいけたんじゃないかと思うんですけど。
これは2つ理由があって。なぜ日本の小売業・飲食業は拡大をするのかっていうのがひとつ。
もうひとつは?
渥美俊一っていう、この業界にいまだに隠然たる影響を与えている人物。この存在が大きいですね。
渥美俊一さん?すみません、私は知らないです。
渥美俊一さんっていうのは、元々は東大で学生運動してたんですけど、卒業して読売新聞入るんですよ。
新聞記者ですか?
はい。経済部配属で商業界の取材をするようになった。で、探究心が強くて昭和30年代に自費でアメリカに行くわけです。
30年代に自費で行くってすごいですね。
先見の明があったんでしょうね。で、アメリカでいろんな小売・外食業のビジネスを見て衝撃受けるわけです。
ちなみに昭和30年頃って、まだ外食チェーンはなかったんですか?日本には。
まったくない。要するに“町のメシ屋”しかなかったわけですよ。
なるほど。
スーパーマーケットもない。だから、まだダイエーもない、イオン、ジャスコもない、西友もない。
たしかに私が子供の頃は市場で買い物してましたね。
そこに渥美さんがアメリカで見たビジネスモデルを持ち込むわけです。
なるほど。
日本に圧倒的な豊かさをもたらすために、読売を辞めて「日本リテイリングセンター」というのを創業する。
日本リテイリングセンター?
今でいう外食・小売業の創業者たちを集めた研修なんですけど、その内容がすごい衝撃だった。
ファミレスとかもそこから始まったんですか?
おっしゃるとおり。ニトリの似鳥昭雄さんとか、すかいらーくの横川4兄弟とか。
錚々たるメンバーですね。
はい。「とにかく大きな店舗をつくり、それをチェーン展開していく。すると仕入が安くなって、どんどん利益率が上がる」という渥美理論。
いわゆる「チェーンストア理論」ですね。今では普通のことですけど。
当時は衝撃だったんですよ。横川4兄弟はあまりの衝撃で、そのまま箱根に泊まり込んで作戦会議をしたそうです。
へえ。
その影響が今も外食業界には残っていて、「店舗を増やしていくことが正義なんだ」っていうがあります。
時代は変わりつつありますけどね。
あまりにも衝撃が強すぎた。これが1点目。
2点目は?
「いきなり!ステーキ」に関していえば、店舗を増やして大量に買い付けして、仕入コストを下げないことにはあの価格が維持できない。
じゃあ最初の頃はどうしてたんですか?1~2店舗だった時期もあるでしょ。
いや、彼は元々、拡大を前提につくってますね。
「このビジネスモデルなら100店200店できる」っていうのを前提に1店舗目からつくってたってことですか?
元々は1軒の料理屋さんで始めたコック上がりの方なんですけど。直営店で伸ばすことにやっぱり限界を感じたんでしょうね。
なるほど。
だから「いきなり!ステーキ」は徹底してFC店舗ですよね。
1店舗で「こだわりの店」をやって長続きさせるというビジネスもありますけどね。
そういうものとは根本的に違うビジネスモデルなんですよ。多店舗展開の外食業って食品メーカーに価格を決定されるんです。
だって仕入を下回る売値って、つけられないじゃないですか。
それはそうですね。
そうすると、スケールメリットを追わざるを得ないんですよ。
でも「日本を豊かにするために」っていう目的は、もう終わってるんじゃないですか。
おっしゃるとおり。
外食業で働いてる人達って賃金も安いし、労働時間は長いし、はたして豊かさをもたらしてるのかっていう。
ですね。
たしかに牛丼は安いけれど、それって豊かさなのかな?って気もします。
いやホントにおっしゃるとおりです。
じゃあ失敗だったってことですか?チェーンストア理論は。
全部が失敗だったとは思いません。
失敗の部分もある?
求人募集の視点から見ると失敗でしょうね。そこで働くことのステータスがものすごく低いので。
人が集まらないビジネスモデルですよ。チェーン店は。
アルバイトにしても、人気があるのはスターバックスぐらいですね。
「いきなり!ステーキ」にしても「鳥貴族」にしても、伸びて来たと思った途端に勢いが落ちるじゃないですか。
落ちて来ますね。
たぶん飽きちゃうんですよ。
次から次に、いくらでも新しい業態が出て来ますから。
にもかかわらず、なぜ皆さん店舗を増やしたがるんですか?やっぱ仕入値抑えて利益を出すためですか?
事業構造で言うとそうですね。でも根本は社長の快感じゃないですか。
社長の快感?
だって経営者だったら、しびれるような快感じゃないですか。「どこに行ってもウチの店がある」っていう。
うーん、ちょっと時代遅れな快感って気がするんですけど。
まあね。でも外食・飲食業って、そういうのが好きな経営者が多いんだと思います。
必ずしも1店舗がいいとは言わないですけども、続けていくためには「これ以上拡大しないほうがいい」っていうラインがあると思うんですよ。
ありますね。2〜3店舗でずっと長く愛され続けてるイタリアンとか。
それを守っていけば「お客さんに愛されながら豊かな人生を送れるのに」って思っちゃうんですけど。
いや、おっしゃるとおりですよ。業態にもよるけど、実入りだけで言えば5・6店舗やってる社長が一番お金持ってるんじゃないですか。
そうですよね。
しかし、そこが外食経営の魔力なんですよ。成功するとそこで止めることができない。
ギャンブルと似てますね。
どんどん増やしたくなっちゃう。店舗を増やす快感に勝てなくなっていくんですよ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。