さよなら採用ビジネス 第57回「大企業は外資化する」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第56回『女を見る目がない男?』

 第57回「大企業は外資化する」 


安田

そういえば、日産がまた人員整理するみたいですよ。

石塚

確か1万人規模でしたね。

安田

元々4,000人って言ってたのが倍ぐらいになっちゃって。「基本的には海外の工場で働いてる人」ってことですけど。日本にも影響ありますか?

石塚

あるでしょうね。

安田

あれは、ぶっちゃけゴーンさんの影響ですか?イメージ悪くなって売れなくなっちゃった、みたいな。

石塚

いや、事件というよりも、ゴーンさんのCEO時代の施策がよくなかった。

安田

戦略が間違ってたってことですか。

石塚

要するに売れるクルマをつくれなかったということですね。

安田

なるほど。

石塚

それともうひとつ。マーケット自体がシュリンクしてきている。

安田

それは他のメーカーにとっても同じですよね。

石塚

はい同じです。トヨタもメルセデスもみんな影響を受けてます。

安田

じゃあ日産だけの話ではないと。

石塚

だから他のメーカーも人員整理してくると思いますよ。

安田

でも一方で大企業は新卒に力を入れてますよね。いきなり初任給1,000万払うとか。

石塚

若くて優秀な人間はいくらでも欲しいんですよ。

安田

片方で人件費を削りながら、もう片方で高い初任給を払ってる。なんか矛盾を感じるんですけど。

石塚

経験年数というものが、仕事のクオリティーと比例しなくなったということですね。

安田

それはどういう意味ですか?

石塚

「固定観念のない若くて優秀な人間」に任せたほうが、良い結果が出やすい。それを大企業が認めてる証だと思います。

安田

でも、石塚さんの話では「大企業は序列と格が大事で、絶対にそれを崩さない」ってことでしたけど。

石塚

一国二制度ですよ(笑)

安田

え?一国二制度ですか。

石塚

香港みたいなもんですよ。

安田

ってことは、これまで通り「序列と格の組織」もちゃんと残ると。

石塚

はい。二つの制度が並存する。

安田

なんと!

石塚

大企業が一気に黒から白に変わるってことはあり得ないんで。

安田

そんな、いびつな組織に優秀な人が入って来ますかね。

石塚

そこに永遠に居ようなんて思ってないでしょうから。

安田

外資に入るような感覚ですか?

石塚

近いんじゃないですか。ワンプロジェクト終わったら出ていくかもしれない。

安田

なるほど。でもそれで企業の側は大丈夫なんですか?

石塚

お互いにメリットがあるんじゃないですか。

安田

その後流出するのは仕方ないと。

石塚

それは止められないですからね。プロジェクトで利益が出るなり、マーケットができるなりすればOK。

安田

そこまで割り切ってますかね。

石塚

「それを認めざるを得ない」という方向に、舵を切ったってことじゃないですか。

安田

仮にそれがうまく行ったとして、既存の組織はそのまま残っていくわけですよね。

石塚

はい。

安田

彼らはいったい何をやるんですか?

石塚

「その他を頑張ってください」ってことですね。

安田
それは「既存の事業」を頑張るってことですか?
石塚

はい。

安田

でも、それでは食えなくなってるじゃないですか。

石塚

そしたら、給与と成果が合わないところから「順番に下りてください」って。

安田

え?じゃあ根本的な解決にはならないですよ。

石塚

それどころか定年がもっと早くなるかもしれませんよ。僕の予想では10年以内に日本の大企業の9割は外資系になると思います。

安田

えっ、どういうことですか?

石塚

だって、純粋日本資本だけでやれる会社なんて、まずないでしょ。これだけ展開がグローバルになっていくと。

安田

それは資金調達ができないから?それともノウハウがないから?

石塚

どっちもある。だから「このグループの傘下に入ったほうがいいよね」って流れになる。

安田

じっさい、シャープや日産はそうですもんね。

石塚

はい。

安田

でもその2社は業績が悪くなって、致し方なく外資が入ってきたじゃないですか。

石塚

おそらく今後は、業績が好調でもそうなっていきますね。

安田

かなりの拒否反応が現場から出そうですけど。今、日産も相当揉めてますよ。

石塚

まあそうですけど、日本人って外圧とか黒船に弱いですから(笑)外資の中に入ったほうがダウンサイジングも簡単なんですよ。

安田

ダウンサイジングですか。

石塚

はい。日本人の、日本人による、日本人に対するリストラは難しい。

安田

確かに。しがらみとか凄そうですもんね。

石塚

「我々はグローバルカンパニーになりました。ジャパンは8,000人ダウンサイジングお願いします」って言われたほうが「そうだよな」ってなるじゃないですか。

安田

たしかに。ゴーンさんが来て「ルノーが言ってるんだったらしょうがない」ってなりましたもんね。

石塚

でしょ。たとえば武田薬品工業だってこの10年で急速にグローバル化して「あの日本人社員どこに行ったの?」っていうぐらい減ってる。

安田

え!そうなんですか?

石塚

そうですよ。今はもうグローバルカンパニーになっちゃったんで。

安田

じゃあトップも外人さんですか?

石塚

そうです。経営会議メンバー20人のうち日本人は4人だけ。

安田

グローバルで生き残ろうと思うと、やっぱり日本人のトップじゃ難しいですか?

石塚

残念ながらそうですね。これからどんどん資本合併して外国人トップが増えていきますよ。

安田

合併して日本人がトップになる可能性は?

石塚

そこはフェアなので、優秀であればもちろんあります。でもほとんどならない。

安田

それはどうしてですか?

石塚

なれる人がいないから。

安田

あれだけ優秀な人を採って、何十年もかけて育ててるわけじゃないですか。

石塚

それは日本限定のガラパゴスの話じゃないですか。

安田

グローバルでは通用しないと。

石塚

だって格と序列と上下関係の中で培われた「根回しスキル」なんて、まったく要らないし通用しないじゃないですか。

安田

じゃあ日本人はどうなるんですか?

石塚

労働者としては優秀ですから重宝されると思いますよ。

安田

日本人による純粋な日本企業はもうなくなってしまうと?

石塚

残れるのはせいぜい一部の財閥系だけ。ほとんどは外資になると思います。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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