さよなら採用ビジネス 第61回「リストラされるのはどの部門?」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第60回『銀行はいつ終わったのか』

 第61回「リストラされるのはどの部門?」 


安田

キリンのニュース見ました?

石塚

どんなニュースでしたっけ?

安田

「外部人材5割超えOK」っていう。つまり新卒は全社員の半分以下ってことですよ。これって日本の大企業にしたら劇的なことですよね。

石塚

まあ、そうでしょうね。

安田

社内で育てた人材だけでは「もう無理だ」っていう結論を出したということ。

石塚

ビール業界って、環境が急激に変わっちゃったんですよね。

安田

それはどのように?

石塚

いわば“お殿様業界”なんですよ。だって日本中どこの店舗行っても、大手数社のビールしか置いてないじゃないですか。

安田

まあそうですよね。

石塚

100社ぐらいあって競争激しいとか、ないじゃないですか。

安田

ないですね。キリン、サッポロ、アサヒだけ。

石塚

あとサントリー入れても4社でしょう。

安田

そうですね。どうしてそんなに少ないんですか?

石塚

酒税というものがあって、旧大蔵省以来の。

安田

酒税ですか?

石塚

はい。財源としてすごく大きいから、やたらなとこに免許下ろせない。

安田

地ビールっていうのもありますけど。

石塚

地ビールってちょっと増えたけど、ぜんぜん競合にはならないんですよ。

安田

どうして?

石塚

ビールを年間通じて生産するには、巨大設備が必要。だから設備装置を持てる大企業で、かつ酒税免許もあるので、限られたプレーヤーしかいない。

安田

なるほど。安泰だったと。

石塚

はい。

安田

でも人口が減ってきて、若者は酒を飲まなくなって。

石塚

そういうことですね。どんどん海外へ出ていくしかない。グローバル化していって、海外のメーカーとも資本提携して。

安田

そうなるとやっぱり外部の人材を入れざるを得ないと。

石塚

おっしゃるとおり。今までは定期的にシーズンに合わせて新商品投入すりゃあ、バカでも売れた。それがこの10年「おかしいな、ぜんぜん売上増えないどころか減ってくじゃないか」みたいな。

安田

ようやく気がついたと。

石塚

気がついた時には「これ、手が付けられないぐらいまずい話ですよ」って。だからもう根本的に変えなきゃいけない。

安田

ようやく重い腰を上げた。

石塚

まあ20年遅いですけどね。でも、やらないよりはいい。

安田

結局、答えとしては、外部の人材を入れる以外に方法はないんですか?

石塚

ないですね。

安田

それはなぜ?

石塚

キリンって本当に視野が狭い会社なんですよ。

安田

ナンバーワン企業なのに?

石塚

王者キリンが長すぎて、それが当然になっちゃった。「トップだから、うち」みたいな。

安田

だいぶ前にアサヒに抜かれましたよね。

石塚

そこはやっぱり三菱グループだから。三菱金曜会の会合には当然のようにキリンが並ぶわけですよ。

安田

それで安心してたと。

石塚

「王者キリンが滅びるはずはないだろう」って。

安田

で、足元に火がついた。

石塚

認めざるを得ないところまできちゃった。でも人材はいない。どうする?みたいな。

安田
今後はどうなるんですか?元々いた社員と外部から入ってくる社員の間で、権力争いみたいなものが起こるんですか。
石塚

おそらくマーケティングとか販促のところは、大胆に外部人材を起用してくると思いますね。

安田

内部の人材にはそこは任せないと?

石塚

任せられない。

安田

へぇ。

石塚

次に45歳以上のリストラを大規模でやると思います。

安田

やっぱりやりますか。

石塚

一方で製造部門は優秀だし、むしろ人手不足だから定年延長をしてでも「残ってください」っていう話になると思う。

安田

じゃあリストラ対象はマーケティングと販促の部門?

石塚

あとは現場と本社をつなぐ“連絡将校”みたいな部署。そこにいちばん無駄な人がいるわけですよ。

安田

そんなところに人がいるんですか?

石塚

いますいます。会議するのが仕事みたいな。

安田

現場の営業マンはお店回ってるわけでしょ?キリンといえども。

石塚

まあ、ぬるいですけどね、正直言うと。

安田

そうなんですか。

石塚

「王者キリンだから置いて当然ですよね」みたいな。

安田

そんなので置いてくれるんですか?

石塚

ダメに決まってるじゃないですか。サッポロさんなんかは「飲食店を育てる」ってことを昔からすごく熱心にやってます。

安田

キリンは何がすごいんですか?

石塚

醸造の技術とか生産設備に関してはトップクラスなんですけどね。消費者が支持しなくなってきたってことなんでしょう。キリンというブランドを。

安田

それはなぜ?

石塚

だから、努力しなかったからですよ。

安田

営業現場において?

石塚

現場だけじゃなく、ブランディングとか見せ方とかに関しても。

安田

でも品質とか味とかには、自信を持ってるわけですよね。

石塚

そのとおり。

安田

そこには長らくのファンもいるわけですよね、きっと。

石塚

そうです。

安田

それだけでは通用しなくなってきてると。

石塚

難しいですね。特に20代30代のファンが少なすぎるんで、キリンは。

安田

販売とかブランディング部門の役員は、社内では力を持ってないんですか?

石塚

いや、持ちすぎるぐらい持ってますよ。

安田

ですよね。なのに外部からどんどん人を入れちゃうわけですか?「自分たちは無能だ」って認めてるに等しいですけど。

石塚

社長・会長がそういう判断をしたってことでしょうね。

安田

じゃあ、その部門にいた人材はいらなくなるってことですか?

石塚

40歳以上の人材はほぼ要らない。出されるでしょうね。

安田

出されますか。

石塚

出されます。長年甘やかされて育ったから大変だと思いますよ。

安田

他社が欲しがる人材ではないと。

石塚

「ノー」です。



石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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