7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第61回「リストラされるのはどの部門?」
キリンのニュース見ました?
どんなニュースでしたっけ?
「外部人材5割超えOK」っていう。つまり新卒は全社員の半分以下ってことですよ。これって日本の大企業にしたら劇的なことですよね。
まあ、そうでしょうね。
社内で育てた人材だけでは「もう無理だ」っていう結論を出したということ。
ビール業界って、環境が急激に変わっちゃったんですよね。
それはどのように?
いわば“お殿様業界”なんですよ。だって日本中どこの店舗行っても、大手数社のビールしか置いてないじゃないですか。
まあそうですよね。
100社ぐらいあって競争激しいとか、ないじゃないですか。
ないですね。キリン、サッポロ、アサヒだけ。
あとサントリー入れても4社でしょう。
そうですね。どうしてそんなに少ないんですか?
酒税というものがあって、旧大蔵省以来の。
酒税ですか?
はい。財源としてすごく大きいから、やたらなとこに免許下ろせない。
地ビールっていうのもありますけど。
地ビールってちょっと増えたけど、ぜんぜん競合にはならないんですよ。
どうして?
ビールを年間通じて生産するには、巨大設備が必要。だから設備装置を持てる大企業で、かつ酒税免許もあるので、限られたプレーヤーしかいない。
なるほど。安泰だったと。
はい。
でも人口が減ってきて、若者は酒を飲まなくなって。
そういうことですね。どんどん海外へ出ていくしかない。グローバル化していって、海外のメーカーとも資本提携して。
そうなるとやっぱり外部の人材を入れざるを得ないと。
おっしゃるとおり。今までは定期的にシーズンに合わせて新商品投入すりゃあ、バカでも売れた。それがこの10年「おかしいな、ぜんぜん売上増えないどころか減ってくじゃないか」みたいな。
ようやく気がついたと。
気がついた時には「これ、手が付けられないぐらいまずい話ですよ」って。だからもう根本的に変えなきゃいけない。
ようやく重い腰を上げた。
まあ20年遅いですけどね。でも、やらないよりはいい。
結局、答えとしては、外部の人材を入れる以外に方法はないんですか?
ないですね。
それはなぜ?
キリンって本当に視野が狭い会社なんですよ。
ナンバーワン企業なのに?
王者キリンが長すぎて、それが当然になっちゃった。「トップだから、うち」みたいな。
だいぶ前にアサヒに抜かれましたよね。
そこはやっぱり三菱グループだから。三菱金曜会の会合には当然のようにキリンが並ぶわけですよ。
それで安心してたと。
「王者キリンが滅びるはずはないだろう」って。
で、足元に火がついた。
認めざるを得ないところまできちゃった。でも人材はいない。どうする?みたいな。
おそらくマーケティングとか販促のところは、大胆に外部人材を起用してくると思いますね。
内部の人材にはそこは任せないと?
任せられない。
へぇ。
次に45歳以上のリストラを大規模でやると思います。
やっぱりやりますか。
一方で製造部門は優秀だし、むしろ人手不足だから定年延長をしてでも「残ってください」っていう話になると思う。
じゃあリストラ対象はマーケティングと販促の部門?
あとは現場と本社をつなぐ“連絡将校”みたいな部署。そこにいちばん無駄な人がいるわけですよ。
そんなところに人がいるんですか?
いますいます。会議するのが仕事みたいな。
現場の営業マンはお店回ってるわけでしょ?キリンといえども。
まあ、ぬるいですけどね、正直言うと。
そうなんですか。
「王者キリンだから置いて当然ですよね」みたいな。
そんなので置いてくれるんですか?
ダメに決まってるじゃないですか。サッポロさんなんかは「飲食店を育てる」ってことを昔からすごく熱心にやってます。
キリンは何がすごいんですか?
醸造の技術とか生産設備に関してはトップクラスなんですけどね。消費者が支持しなくなってきたってことなんでしょう。キリンというブランドを。
それはなぜ?
だから、努力しなかったからですよ。
営業現場において?
現場だけじゃなく、ブランディングとか見せ方とかに関しても。
でも品質とか味とかには、自信を持ってるわけですよね。
そのとおり。
そこには長らくのファンもいるわけですよね、きっと。
そうです。
それだけでは通用しなくなってきてると。
難しいですね。特に20代30代のファンが少なすぎるんで、キリンは。
販売とかブランディング部門の役員は、社内では力を持ってないんですか?
いや、持ちすぎるぐらい持ってますよ。
ですよね。なのに外部からどんどん人を入れちゃうわけですか?「自分たちは無能だ」って認めてるに等しいですけど。
社長・会長がそういう判断をしたってことでしょうね。
じゃあ、その部門にいた人材はいらなくなるってことですか?
40歳以上の人材はほぼ要らない。出されるでしょうね。
出されますか。
出されます。長年甘やかされて育ったから大変だと思いますよ。
他社が欲しがる人材ではないと。
「ノー」です。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。