2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第105回「斜陽産業の末路」
アパレルNo.1だったレナウンがついに倒産しました。
No.1だったのはかなり前ですけどね。
いまは圧倒的にユニクロですよね、1番は。
はい。
コロナが引き金になったって話ですけど。もしコロナがなかったとしても、いずれこうなってますか?
あんまり報道では言われてませんけど、レナウンって1回白旗上げてるんですよ。
え!そうなんですか。
はい。事実上の倒産。確か2010年だったと思います。
事実上?
中国企業の子会社になって、資本がまるっきり変わってるんです。いわゆる「レナウン娘」のレナウンって1回終わってるんですよ。
へえ。そうなんですか。
「よくぞここまで持ったな」「こんど引き受ける会社はないだろうなあ」っていうのが正直なところです。
すでに「日本企業ではなくなってた」ってことですか?
ニッチもサッチもいかなくなって、中国資本に株を持ってもらった。僕は事実上あれを倒産だとカウントしてます。
なるほど。で、その中国にも見捨てられたと。
日本での販売はもう伸びないので。
伸びませんか。
結局レナウンって「百貨店という売り場で服を売る時代」の象徴的な王者なんですよ。
百貨店も厳しいですからね。
アパレルを買う場所が「百貨店じゃなくなっちゃった」ということの証明でもある。
なるほど。
ユニクロは百貨店にもあるけど、どちらかっていうとショッピングモールとか、郊外型ですよね。
そういうイメージです。
さらに、いまや通販で服を買うことに10代20代はまったく抵抗がない。こういう変遷がある中で、多分もう、持ってるリソースをどう使おうとも「再生は厳しい」と見たんでしょう。
記事によると、ヒットブランドが2つしかないんですよね?
どのふたつですか?
『アーノルドパーマー』の傘マークのやつと、あと『ダーバン』っていう、アランドロンがCMに出てたブランド。それ以来ヒット商品がないと。
安田さん『J.CREW』ってわかります?
聞いたことあります。
あれもレナウンです。日本のファッション通販のさきがけです。
へえ。そうなんですか。
正確にいうと、レナウンがJ.CREWの販売権を買って日本で大ヒットさせた。
「レナウンは新しい商品を生み出す力がなかった」って書いてましたけど。
う〜ん。そもそもトレンドというもので動く幅が、すごく小さくなっちゃったので。
トレンドで動く幅?
たぶん安田さんも20年前は、すごくトレンドに敏感だったと思うんですよ。自分が着るものに関して。
確かに。「このブランド」って決めてましたね。
いまはどうですか?ブランドを意識しますか?
う〜ん。「このブランドが欲しい」ってのは、ないですね。
それを圧倒的に加速させてしまったのがユニクロなんですよ。ブランドって結局百貨店にしかないから「百貨店で買わざるをえない」という構図だったんです。
じゃあレナウンは「ブランドを売るアパレル会社」だったんですね。
そのとおりです。
だったらブランドを買うだけじゃなく、自分たちで開発もしないと。そこにエネルギーを注がないのは戦略として致命的ですよ。
百貨店でモノが売れた時代って、正直、楽してたわけですよ。何もしなくても百貨店に来た客の何割かは買ってくから。
それは「売れるブランド」があったからですよね。
そうですね。「ブランドさえあれば売れる」という感覚。三陽商会でいう『バーバリー』みたいなもんです。
三陽商会もバーバリーに契約解除されました。
だから、たぶん時間の問題だと思う。まあ三陽商会はキャッシュリッチだけど。
レナウンもお金がたくさんあって「まだまだ余裕だよ」って言ってるうちに、こうなったって話です。
余裕がありすぎたんでしょうね。
余裕があるがゆえに、組織が頑張らない体質になっちゃた。
じつはレナウンって、アパレル業界では人材輩出企業で知られてるんですよ。
そうなんですか?旧態依然とした会社のイメージですけど。意外ですね。
変化に鈍くて、先進性があまりない社風だから「優秀な人ほど外に出てしまった」っていう構図。
なるほど。
もっと優秀な人が活躍しやすい会社だったら、結果は違ってたかも。レナウン出身で社長をやってる方が何人もいますから。
中には優秀な人がいたってことですね。
結構多かったと思います。
優秀な人は社風に耐えきれなくて出ちゃったと。
やっぱりブランド頼みというか。既存のブランドで百貨店のいちばんいい売場を取れるから。楽して商売できる時間が長すぎたんですよ。
皮肉なもんですね。
はい。うまくいきすぎて「自分たちで何かやろう」なんて必要がなかった。
そういう若者が出てきても「余計なことすんな!」って感じで。
はい。だから、いちばん脂がのってるときに外に飛び出していく。
結果的にレナウンは倒産したわけですけど、最後まで残ってた人材ってどうなるんでしょう。
優秀な人はあらかた出ちゃったからなあ。まあ、好意的に言って1割じゃないでしょうか。好条件で引っ張られるのは。
それは役員クラスとか、そのへんですか?
いや、むしろ現場の技術。たとえばパターンナーとか、生産製造とか、生地を買い付けるとか。まさに腕の世界のところ。
現場のスペシャリストってことですか?
そうです。そこには結構いい人が残ってると思う。
役員はじめ給料の高い管理職は厳しいですか?
一部除いて全員終了でしょうね。
これまでの人脈で「百貨店の上層部にコネがあるよ」みたいなのは。使い物になりませんか?
いまは百貨店自体が余裕もないし、死んでますから。
確かに。
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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。