2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第155回「ひとつもない?」
第156回「いちばん儲かるのは誰?」
AGCがテレビコマーシャルをやりまくってますよね。
ラジオもすごいですよ。広瀬すずでしょ?
はい。広瀬すずさんが社名を連呼するやつ。
いま力入れてますね。
これって何のためにやってるんですか? BtoCの企業ではないし。売り上げには直結しないですけど。
そう見えますよね。
はい。採用目的なのかと思ってたんですけど。広報の人いわく「旭硝子から社名が変わって知らない人も多いから。知名度を上げてます」みたいな感じ。
そうでしょうね。
でもすごい費用ですよ。
AGCって、実は三菱グループの優等生企業。でも一般的な知名度はイマイチであまり知られてないけど、実は業界トップなんですよ。
ほう。
だから「もっとうちの知名度を上げろ。もっとガンガンCMで知らしめろ」っていう戦略でしょうね。
何のための戦略なんですか?
簡単に言うと「うちの企業ブランド価値を向上させろ」という経営判断。
つまり一般の人がAGCって聞いたときに「ああ、あの有名な大企業ですね」って言われたい?
そう。言われたいっていう。
それだけのために、あんなとてつもない広告費を使うんですか?
はい。
たとえばRIZAPやハズキルーペなら理解できます。CMに100億円つぎ込んでも元が取れる可能性があるから。
原価が安い商品を、あれだけ高い金額で売れば儲かりますよ。
ですよね。でもAGCの場合は単なる自己満足にしか見えないんですけど。
節税効果もありますから。
ということは、かなり儲かってる?
儲かってますよね、AGCは。
石塚さんの持論では「どんな大手も数十年先まで見通せない時代」って話でしたよね。AGCは特別なんですか?
収益がいいことは確かです。だけど戦略的に「もっとブランド価値を向上させたい」というのがメイン。
どんな戦略なんですか?
「ああ、あそこがAGCか」っていうふうに一般的な知名度を上げる戦略。
そんなことしても儲からないでしょ?
発想が違うんですよ。
どう違うんですか?
たとえばM&Aをするときも「あ、AGCね」ってなるじゃないですか。
そりゃあ、なるでしょうけど。
その価値は甚大なんです。
そうなんですか。
安田さんはM&Aとかに興味がないから。 ビジネスの裾野を広げるためにはM&Aは絶対に視野に入れなきゃいけないんです。
それは分かります。でもCMってそんなに効果的なんですか?
「あの有名なAGC傘下になるんだ」というプレゼンスをつけたい。当然、新卒採用もすごく有利になるじゃないですか。
新卒採用で苦労してるとは思えませんけど。
採用は二次的な効果ですね。
ということは「AGCの傘下になりたい」というイメージづくりが目的?
これからグローバルで戦っていこうと思うと、ソフトバンクさんもそうですけど、どんどん世界規模のM&Aをくり返さないといけないですよね。
はい。大きい会社はそれしか生き残る道がなさそうなので。
そうなると、自社の株価が高ければ高いほど有利でしょ。
「知名度」イコール「株価」ってことですか?
そこは大きいですよ。買収の条件が「1株につき何株割り当て」という形だとキャッシュを出さなくて済むじゃないですか。
たしかに。
株券が貨幣になるから、どんどん有利になる。そのためには、もっともっと世間的な知名度とイメージアップが必要なんです。
なるほど。だから広瀬すずさんが連呼してるわけですか。
そうです。日本全国AGCといえば「ああ、素材のあれ、有名だよね」っていうふうに経営陣がしたい。
そこまで考えてるんですか。
もちろんですよ(笑)だけど、それだけ収益に余裕があるんでしょうね。「余裕があるときに企業ブランド価値の向上をやろう。節税にもなるし」っていう発想じゃないですか。
「社員の給料を増やすよりはいい」と。
そうですね(笑)そこに投資しても返ってこないので。
一度あげると上げつづけないといけないですし。
その通りです。
今後は「人への投資」から「企業価値そのものへの投資」に変わっていくと。
とくに中間材とか素材のように、一般になじみがない優良企業はそちらに舵を切ると思います。
なるほど。
これは僕の想像ですけど、電通とか博報堂がけしかけてるんじゃないですか。
なんと!五輪だけじゃなくこんなところでも。
彼らは頭がいいですから。「収益が良い隠れた優等生」に「ブランド価値上げると、これだけいいことがありますよ」って吹き込んでると思う。
やってそう(笑)
もうCMでは物が売れないし「どこから広告料をせしめるんだ」ってときに、AGCみたいな会社は格好の、ある意味「カモ」じゃないですか。
素材の会社も世界で戦わないといけないので、買収合戦からは逃れられないですもんね。
そうなると「世界のトップ3には入っておかないといけないよね」って話になる。
株式交換でいくとなると「自社の株価を上げるために知名度を上げよう」という話になると。
おっしゃる通り。
そこに電通が登場してくると。
「テレビCMやるとM&Aがすごく有利になりますよ」みたいな話で。「インテル入ってる」って知ってるでしょ?「おー!あれか!」みたいな。
で、最後に儲かるのは電通。
そういうことですね(笑)
マスメディアのニュースにはそういう話は一切出てこないですね。
電通には触れちゃいけないんでしょうね。
石塚さんは触れちゃって大丈夫なんですか?
僕も来週ぐらいに行方不明になってるかもしれません(笑)
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。