第156回「いちばん儲かるのは誰?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第155回「ひとつもない?」

 第156回「いちばん儲かるのは誰?」 


安田

AGCがテレビコマーシャルをやりまくってますよね。

石塚

ラジオもすごいですよ。広瀬すずでしょ?

安田

はい。広瀬すずさんが社名を連呼するやつ。

石塚

いま力入れてますね。

安田

これって何のためにやってるんですか? BtoCの企業ではないし。売り上げには直結しないですけど。

石塚

そう見えますよね。

安田

はい。採用目的なのかと思ってたんですけど。広報の人いわく「旭硝子から社名が変わって知らない人も多いから。知名度を上げてます」みたいな感じ。

石塚

そうでしょうね。

安田

でもすごい費用ですよ。

石塚

 AGCって、実は三菱グループの優等生企業。でも一般的な知名度はイマイチであまり知られてないけど、実は業界トップなんですよ。

安田

ほう。

石塚

だから「もっとうちの知名度を上げろ。もっとガンガンCMで知らしめろ」っていう戦略でしょうね。

安田

何のための戦略なんですか?

石塚

簡単に言うと「うちの企業ブランド価値を向上させろ」という経営判断。

安田

つまり一般の人がAGCって聞いたときに「ああ、あの有名な大企業ですね」って言われたい?

石塚

そう。言われたいっていう。

安田

それだけのために、あんなとてつもない広告費を使うんですか?

石塚

はい。

安田

たとえばRIZAPやハズキルーペなら理解できます。CMに100億円つぎ込んでも元が取れる可能性があるから。

石塚

原価が安い商品を、あれだけ高い金額で売れば儲かりますよ。

安田

ですよね。でもAGCの場合は単なる自己満足にしか見えないんですけど。

石塚

節税効果もありますから。

安田

ということは、かなり儲かってる?

石塚

儲かってますよね、AGCは。

安田

石塚さんの持論では「どんな大手も数十年先まで見通せない時代」って話でしたよね。AGCは特別なんですか?

石塚

収益がいいことは確かです。だけど戦略的に「もっとブランド価値を向上させたい」というのがメイン。

安田

どんな戦略なんですか?

石塚

「ああ、あそこがAGCか」っていうふうに一般的な知名度を上げる戦略。

安田

そんなことしても儲からないでしょ?

石塚

発想が違うんですよ。

安田

どう違うんですか?

石塚

たとえばM&Aをするときも「あ、AGCね」ってなるじゃないですか。

安田

そりゃあ、なるでしょうけど。

石塚

その価値は甚大なんです。

安田

そうなんですか。

石塚

安田さんはM&Aとかに興味がないから。 ビジネスの裾野を広げるためにはM&Aは絶対に視野に入れなきゃいけないんです。

安田

それは分かります。でもCMってそんなに効果的なんですか?

石塚

「あの有名なAGC傘下になるんだ」というプレゼンスをつけたい。当然、新卒採用もすごく有利になるじゃないですか。

安田

新卒採用で苦労してるとは思えませんけど。

石塚

採用は二次的な効果ですね。

安田

ということは「AGCの傘下になりたい」というイメージづくりが目的?

石塚

これからグローバルで戦っていこうと思うと、ソフトバンクさんもそうですけど、どんどん世界規模のM&Aをくり返さないといけないですよね。

安田

はい。大きい会社はそれしか生き残る道がなさそうなので。

石塚

そうなると、自社の株価が高ければ高いほど有利でしょ。

安田

「知名度」イコール「株価」ってことですか?

石塚

そこは大きいですよ。買収の条件が「1株につき何株割り当て」という形だとキャッシュを出さなくて済むじゃないですか。

安田

たしかに。

石塚

株券が貨幣になるから、どんどん有利になる。そのためには、もっともっと世間的な知名度とイメージアップが必要なんです。

安田

なるほど。だから広瀬すずさんが連呼してるわけですか。

石塚

そうです。日本全国AGCといえば「ああ、素材のあれ、有名だよね」っていうふうに経営陣がしたい。

安田

そこまで考えてるんですか。

石塚

もちろんですよ(笑)だけど、それだけ収益に余裕があるんでしょうね。「余裕があるときに企業ブランド価値の向上をやろう。節税にもなるし」っていう発想じゃないですか。

安田

「社員の給料を増やすよりはいい」と。

石塚

そうですね(笑)そこに投資しても返ってこないので。

安田

一度あげると上げつづけないといけないですし。

石塚

その通りです。

安田

今後は「人への投資」から「企業価値そのものへの投資」に変わっていくと。

石塚

とくに中間材とか素材のように、一般になじみがない優良企業はそちらに舵を切ると思います。

安田

なるほど。

石塚

これは僕の想像ですけど、電通とか博報堂がけしかけてるんじゃないですか。

安田

なんと!五輪だけじゃなくこんなところでも。

石塚

彼らは頭がいいですから。「収益が良い隠れた優等生」に「ブランド価値上げると、これだけいいことがありますよ」って吹き込んでると思う。

安田

やってそう(笑)

石塚

もうCMでは物が売れないし「どこから広告料をせしめるんだ」ってときに、AGCみたいな会社は格好の、ある意味「カモ」じゃないですか。

安田

素材の会社も世界で戦わないといけないので、買収合戦からは逃れられないですもんね。

石塚

そうなると「世界のトップ3には入っておかないといけないよね」って話になる。

安田

株式交換でいくとなると「自社の株価を上げるために知名度を上げよう」という話になると。

石塚

おっしゃる通り。

安田

そこに電通が登場してくると。

石塚

「テレビCMやるとM&Aがすごく有利になりますよ」みたいな話で。「インテル入ってる」って知ってるでしょ?「おー!あれか!」みたいな。

安田

で、最後に儲かるのは電通。

石塚

そういうことですね(笑)

安田

マスメディアのニュースにはそういう話は一切出てこないですね。

石塚

電通には触れちゃいけないんでしょうね。

安田

石塚さんは触れちゃって大丈夫なんですか?

石塚

僕も来週ぐらいに行方不明になってるかもしれません(笑)

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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