2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第209回「無人化へのハードル」
「JR九州の車掌さんが会社を訴える」という対談をやりましたよね。覚えてます?
もちろん。
ついにJR九州が車掌という仕事を廃止して、無人化・省人化に乗り出すそうです。
もう当然そうなるなっていう。
「付き合ってられない」ってことですか。
テクノロジーの発展が人の労働を変えるの典型例ですね。
医者でも初診時の誤診率が60%以上あると言われてまして。人の命を預かる運転士とかドクターみたいな仕事は、人間のほうがミスする時代になりました。
JR西日本で、カーブを曲がれなくてマンションの1階に突っ込んだ、壮絶な事故があったじゃないですか。
ありましたね。
JR福知山線事故だと思いますけど。ダイヤが遅れて、焦ってものすごいスピードで突っ込んじゃって。
そうでした。
あれって、まさに人間だからでしょ。ダイヤに遅れるとものすごく詰めらるから。
確かに人間ならではですね。AIを詰めてもしょうがないし。
自動運転には「焦り」とかがないじゃないですか。
「また怒られる」なんて考えないですもんね。
「おまえ何やってんだ!」みたいな日勤教育もないし。毎日、毎日、壮絶に詰められることもないし。
北海道の観光船事故も、似たようなものかもしれないですね。
根本は同じですよ。
データでは「今日は無理」となっていたみたいです。
AIが判断してたら中止だったでしょうね。風速や波の高さを計測して「ダメ」ってなったら作動しないとか。
人間だから「行けるんじゃないか」って思っちゃうんでしょうね。
そうなんですよ。感情が入ってくるから。
高齢者の自動車事故と同じですね。
おっしゃる通り。
「オレは大丈夫だ」って思いながら、間違った判断をしちゃう。
感情がある限り人間と事故は切り離せないですよ。
インフラ系の仕事って、どんどん無人化・省人化していくんですか。
間違いないです。運転の正確性とか安全や人間心理の問題。それにもうひとつ大きな側面があって。
ほう。何ですかそれは?
なんだと思います?安田さん。
人件費の削減以外にってことですか?
そうです。
人件費削減でも安全面でもなく・・・何でしょう。わかりません。
じつは車掌さんって、ものすごいクレームを受けるんですよ。クレームが高じて乗客から暴力を振るわれたり。
たまにニュースで見ます。暴力を振るった乗客の話とか。
すごく増えてるんですよ。酔ってる人が多いんですけど。会社でいろんな嫌なことがあるじゃないですか。
八つ当たりですか!?
完全な言いがかりですね。「何分間停車します」って車内放送すると、「俺は急いでんだよ!」「お客さん、ちょっと冷静に」「なに言ってんだおまえは!」ボッカーン!って。
車掌さんに怒ってもしょうがないのに。
そうなんですよ。でもそこに車掌さんがいると感情が爆発しちゃう。
自動運転だったら腹を立てようがないですもんね。
そうなんですよ。いまクレーム対応が苦で車掌さんが辞めてしまうケースが多くて。無人化はひとつの対応策になります。
「エッセンシャルワーカーの給料を増やそう」って動きがあるじゃないですか。だけど構造的に人件費は増やせない。
そうですね。
「人間がやるにはキツイ」って仕事は、もうテクノロジーで無人化して、他の仕事に移っていけばいいと思うんですけど。
反対する人も多いんですよ。そこで働いていて、その職を奪われると困る人がいるから。
もっと楽な仕事に移ればいいじゃないですか。
なかなか、そういう仕事もつくれないし。
その仕事でしか食えない人がいる間は、人を使いながらやらざるを得ないと。
日本には労働法があるので。AI化が進まない大きな理由です。
少なくとも、若い人の採用はやめたほうがいいんでしょうね。上が抜けるのを待って無人化するとか。
そうすると、また年次構成がいびつになっちゃうわけですよ。労働法があるために、すべてバランスが悪くなっている気がします。
新しく会社を作るのはどうですか?完全自動運転のタクシー会社とか。運転手を雇ってる会社は価格競争で勝てなくなります。
一般道を走る自動運転は相当難易度が高いらしいです。
完全自動運転にはなりませんか。
タクシーはICTとアプリで便利になっていく方向ですね。
アプリを使えない高齢運転手もいるでしょ。
必要は発明の母で「しょうがねえな」って覚えるんですよ。覚えられない人は退場するしかない。
だけど辞めさせるわけにもいかないじゃないですか。それこそ労働法があるので。
おっしゃる通り。現実的にはその方たちが退場するのを待つしかない。
そんな余裕あるんですか。
DXやICT化の最大の敵って「ベテラン社員」なんですよ。
そうでしょうね。
自分が25年30年と積み上げてきたものをマニュアル化すると、1年生でもやれるようになっちゃうわけですよ。
いいことじゃないですか。
それを「いいことだ」って言えるのは経営者だけなんです。
なるほど。
ベテラン社員からしたら「仕事を奪われる」って思っちゃう。社内の抵抗はすごいですよ。
国を挙げてそういうことになってるわけですか。
その通りです。
JR九州さんも、社内では反発があるんでしょうね。
いや、ものすごいですよ。みんなエモーショナルに「われわれの権利を奪うな!」とか言って。
自分で自分の首を絞めてるような気がするんですけど。
解雇規制がもっとゆるければ、最初は痛みを伴うけど、また活躍できる仕事を覚えられるわけですよ。
恋愛もフラれたときはつらいですけど、次の恋が始まればいい思い出になりますからね。
おっしゃる通り。「よかった。君に出会うためにあの別れがあったんだね」って思う日が来るんですよ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。