第209回「無人化へのハードル」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第208回「優秀の定義を見直そう」

 第209回「無人化へのハードル」 


安田

「JR九州の車掌さんが会社を訴える」という対談をやりましたよね。覚えてます?

石塚

もちろん。

安田

ついにJR九州が車掌という仕事を廃止して、無人化・省人化に乗り出すそうです。

石塚

もう当然そうなるなっていう。

安田

「付き合ってられない」ってことですか。

石塚

テクノロジーの発展が人の労働を変えるの典型例ですね。

安田

医者でも初診時の誤診率が60%以上あると言われてまして。人の命を預かる運転士とかドクターみたいな仕事は、人間のほうがミスする時代になりました。

石塚

JR西日本で、カーブを曲がれなくてマンションの1階に突っ込んだ、壮絶な事故があったじゃないですか。

安田

ありましたね。

石塚

JR福知山線事故だと思いますけど。ダイヤが遅れて、焦ってものすごいスピードで突っ込んじゃって。

安田

そうでした。

石塚

あれって、まさに人間だからでしょ。ダイヤに遅れるとものすごく詰めらるから。

安田

確かに人間ならではですね。AIを詰めてもしょうがないし。

石塚

自動運転には「焦り」とかがないじゃないですか。

安田

「また怒られる」なんて考えないですもんね。

石塚

「おまえ何やってんだ!」みたいな日勤教育もないし。毎日、毎日、壮絶に詰められることもないし。

安田

北海道の観光船事故も、似たようなものかもしれないですね。

石塚

根本は同じですよ。

安田

データでは「今日は無理」となっていたみたいです。

石塚

AIが判断してたら中止だったでしょうね。風速や波の高さを計測して「ダメ」ってなったら作動しないとか。

安田

人間だから「行けるんじゃないか」って思っちゃうんでしょうね。

石塚

そうなんですよ。感情が入ってくるから。

安田

高齢者の自動車事故と同じですね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

「オレは大丈夫だ」って思いながら、間違った判断をしちゃう。

石塚

感情がある限り人間と事故は切り離せないですよ。

安田

インフラ系の仕事って、どんどん無人化・省人化していくんですか。

石塚

間違いないです。運転の正確性とか安全や人間心理の問題。それにもうひとつ大きな側面があって。

安田

ほう。何ですかそれは?

石塚

なんだと思います?安田さん。

安田

人件費の削減以外にってことですか?

石塚

そうです。

安田

人件費削減でも安全面でもなく・・・何でしょう。わかりません。

石塚

じつは車掌さんって、ものすごいクレームを受けるんですよ。クレームが高じて乗客から暴力を振るわれたり。

安田

たまにニュースで見ます。暴力を振るった乗客の話とか。

石塚

すごく増えてるんですよ。酔ってる人が多いんですけど。会社でいろんな嫌なことがあるじゃないですか。

安田

八つ当たりですか!?

石塚

完全な言いがかりですね。「何分間停車します」って車内放送すると、「俺は急いでんだよ!」「お客さん、ちょっと冷静に」「なに言ってんだおまえは!」ボッカーン!って。

安田

車掌さんに怒ってもしょうがないのに。

石塚

そうなんですよ。でもそこに車掌さんがいると感情が爆発しちゃう。

安田

自動運転だったら腹を立てようがないですもんね。

石塚

そうなんですよ。いまクレーム対応が苦で車掌さんが辞めてしまうケースが多くて。無人化はひとつの対応策になります。

安田

「エッセンシャルワーカーの給料を増やそう」って動きがあるじゃないですか。だけど構造的に人件費は増やせない。

石塚

そうですね。

安田

「人間がやるにはキツイ」って仕事は、もうテクノロジーで無人化して、他の仕事に移っていけばいいと思うんですけど。

石塚

反対する人も多いんですよ。そこで働いていて、その職を奪われると困る人がいるから。

安田

もっと楽な仕事に移ればいいじゃないですか。

石塚

なかなか、そういう仕事もつくれないし。

安田

その仕事でしか食えない人がいる間は、人を使いながらやらざるを得ないと。

石塚

日本には労働法があるので。AI化が進まない大きな理由です。

安田

少なくとも、若い人の採用はやめたほうがいいんでしょうね。上が抜けるのを待って無人化するとか。

石塚

そうすると、また年次構成がいびつになっちゃうわけですよ。労働法があるために、すべてバランスが悪くなっている気がします。

安田

新しく会社を作るのはどうですか?完全自動運転のタクシー会社とか。運転手を雇ってる会社は価格競争で勝てなくなります。

石塚

一般道を走る自動運転は相当難易度が高いらしいです。

安田

完全自動運転にはなりませんか。

石塚

タクシーはICTとアプリで便利になっていく方向ですね。

安田

アプリを使えない高齢運転手もいるでしょ。

石塚

必要は発明の母で「しょうがねえな」って覚えるんですよ。覚えられない人は退場するしかない。

安田

だけど辞めさせるわけにもいかないじゃないですか。それこそ労働法があるので。

石塚

おっしゃる通り。現実的にはその方たちが退場するのを待つしかない。

安田

そんな余裕あるんですか。

石塚

DXやICT化の最大の敵って「ベテラン社員」なんですよ。

安田

そうでしょうね。

石塚

自分が25年30年と積み上げてきたものをマニュアル化すると、1年生でもやれるようになっちゃうわけですよ。

安田

いいことじゃないですか。

石塚

それを「いいことだ」って言えるのは経営者だけなんです。

安田

なるほど。

石塚

ベテラン社員からしたら「仕事を奪われる」って思っちゃう。社内の抵抗はすごいですよ。

安田

国を挙げてそういうことになってるわけですか。

石塚

その通りです。

安田

JR九州さんも、社内では反発があるんでしょうね。

石塚

いや、ものすごいですよ。みんなエモーショナルに「われわれの権利を奪うな!」とか言って。

安田

自分で自分の首を絞めてるような気がするんですけど。

石塚

解雇規制がもっとゆるければ、最初は痛みを伴うけど、また活躍できる仕事を覚えられるわけですよ。

安田

恋愛もフラれたときはつらいですけど、次の恋が始まればいい思い出になりますからね。

石塚

おっしゃる通り。「よかった。君に出会うためにあの別れがあったんだね」って思う日が来るんですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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