第126回 「美しい仕事」を支える「喜び」の往復

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第126回 「美しい仕事」を支える「喜び」の往復

安田

藤原さんのメルマガに書いてあった「美しい仕事」の話が面白くて。


藤原

ああ、ありがとうございます。芸術作品ではなく日常的に使える商品にこそ、職人の仕事の美しさが現れるという話ですよね。

安田

そうそう、昔の桶職人や包丁を作る人みたいに、個人の名前がついていない商品にこそ本物の技があると。


藤原

ええ。名もなき職人が作った器や包丁であっても、「この道具は手になじむ」「この切れ味は違う」と語り継がれていくような仕事こそが、本当の美しさだと私は思っていまして。

安田

確かにそうだなぁと思いながらも、一方でやっぱり自分の名前を残したいという野心もあるじゃないですか。一旗揚げたいとか、いい仕事をした人だと思われたいとか。そこのバランスをどうとっているのかが聞きたかったんです。


藤原

深いですよね。具体的に名前を残したいという人もいると思いますけど、大半の人は「自分がやった仕事だとわかったら嬉しい」くらいの感覚なんじゃないかと。名前そのものより、自分の仕事の痕跡が残ることに喜びを感じるんだと思います。

安田

ははぁ、なるほど。


藤原

例えば自動車って大量生産で分業の象徴みたいなものですけど、いい車には「あの人が開発担当だったからこの機能がある」と語り継がれるケースがありますよね。

安田

名前は車体に刻まれなくても、その人の仕事は確かにそこにあるということですね。


藤原

ええ。一人一人の職人の仕事がプロダクトに反映されていく。それが私の言う「労働と美が一致する」世界観なんです。

安田

ということは、名前を残そうとした時点でそれは二流だということになりますかね。ひたすら使いやすい食器を作り続けていたら名工と呼ばれるようになった、という順番が大事というか。


藤原

順番はものすごく大事ですね。名前ありきではなく、自分の仕事に誇りを持ってより良いものを作ろうとするところに美が宿る。結果として名が残ることはあっても、名を残すために仕事をするのとは全く違いますから。

安田

ただ現実問題として、昔は目利きの商社的な人がいて、道具を見ただけで一流か二流かわかって値段をつけてくれたらしいんですよ。でも今の時代、一般の消費者にそれがわかるのかなと。商品の素晴らしさをある程度伝えることも必要なんじゃないかと思うんです。


藤原

確かに伝えることは非常に大事ですし、どっちも正しいと思っています。美しい仕事をしながらも「この人のこだわりがあるからこそ、この形になっている」と伝えていく。そしてお客さんの声を作り手にフィードバックしていく。この行き来がとても大事なんです。

安田

ああ、なるほど。いわゆる内的報酬というやつですね。お金じゃなく、仕事そのものから得られる喜び。


藤原

ええ。伝えて、喜ばれて、その声が返ってくる。その行き来があれば、名前を残すわけじゃなくても十分な喜びが得られると思うんです。

安田

でもそれで満足するには、相当成熟していないといけない気もします。私も「境目研究」という切り口を自分で考えて発表していますけど、それをいろんな人が流用するわけです。「使っていいですか」と言ってくれる人もいれば、黙って使う人もいる。


藤原

いろんな人がいるわけですね。ちなみに安田さんはそういうのは気にされるんですか?

安田

正直まったく気にならないんですよ。自分が考えた切り口が広がるのは素直に嬉しいですから。ただ「あの人が言ってるの、安田さんが元ネタじゃないか」と言ってくれる人がいることが、実は救いになっていたりもする。広まるのは嬉しいけど、誰一人知らなかったらやっぱり寂しいなと(笑)。

藤原

それはそうですよね。すべてが他人の手柄になるというのはさすがに耐えられないでしょう。

安田

「現代のベートーベン」と言われた佐村河内さんの事件がまさにそうですよね。裏で曲を作っていた人は、自分の曲が愛されることで満足できたはずなのに、「皆を騙していることが我慢できなかった」と。

藤原

全く同感です。分業が進むと、一つの商品ができるまでにいくつもの人の手がある。最初の工程の人にはお客さんの喜びが直接伝わりにくいんですよ。

安田

最終的に店頭に並ぶところからは遠いですし、お客さんの反応を直接見ることもないですからね。そうなると、そこにどうやって喜びを届けるかですよね。

藤原

ええ。だからこそ隣の工程の人が「あなたの仕事、素晴らしかったよ」と伝えていく。お客さんへの発信だけでなく、逆方向に伝えていくことも仕事の一部だと思うんです。

安田

確かになぁ。完成品に携わった全員の名前を刻むのは難しくても、「こういう人が実はこういう仕事をしているんだよ」と会社として発信していくことが、今後は必要なんじゃないかという気がしますね。

藤原

必要だと思います。やり方やバランスは企業の文化に合わせて様々でいいと思いますけど、作り手にスポットライトを当てていくところにこそ、良い人材も集まってくるんじゃないかなと。

安田

「この会社は自分の仕事をちゃんと見てくれる」と感じられるかどうかは、働く側にとって大きいですからね。でも一方で「名前を残そうとする仕事は本物じゃない」と言われると、それもその通りだなと思ってしまって……難しい問題ですね。

藤原

それでいうと、名前を残そうとするのは本物じゃないと言い切ってしまうのは、ちょっと語弊がある気もしますけどね。

安田

そうですね。自らが望んでいなくても名前が残ってしまうケースもあるでしょうし。

藤原

ええ。そういえば昔のイギリスの陶芸家バーナード・リーチさんは、結果的に有名になったことに葛藤を抱えていたそうです。名もなき職人の美しさが大事だと信じながら、自分がどんどん有名になっていく矛盾に悩んだと。

安田

なるほどなぁ。やっぱり順番の問題なんでしょうね。残そうと思ってやるんじゃなく、結果的に残るのが本物という気がします。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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