第299回「初任給30万円時代の新卒採用」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第298回「早死にする職業ランキング」

 第299回「初任給30万円時代の新卒採用」 


安田

上場企業では新卒初任給30万円が普通になってきてます。

石塚

30万はもう普通ですね。下手すると40万という会社も出てきてる。

安田

それに合わせて既存社員も全員上がっているのかと思いきや。そうでもないみたいですよ。

石塚

そうなんですよ。これが日本らしいっていうのか。

安田

キャリアがあるのに新人と変わらない給料で。下手したら新人より安い人も出てくるんでしょうね。

石塚

新卒はもうお客さん扱いだから。

安田

だけど既存社員がそれで不満を持って辞めちゃったら本末転倒ですよね。

石塚

上場企業や大手企業というのはそこに矛盾を抱えているわけですよ。

安田

なぜそんな矛盾を放置してるんですか?

石塚

人事の部長、次長、課長のラインっていうのは、自分の仕事の評価、今後の出世のために新卒採用をやっているので。長期視点なんて誰も持ってないんですよ。

安田

なんと。「今年の新卒はこんなにいい人が採れました」みたいなことしか考えてない?

石塚

そう。考えてないです。

安田

5〜9年目の年収が新入社員とあまり変わらなくなっていて。実際に辞めていく人が出てきてますけど。

石塚

そりゃそうですよ。

安田

会社としては辞めてほしいわけじゃないですよね。5〜9年目って稼ぎ頭でしょうし。辞めてほしいのはもっと上の年代でしょう。

石塚

人材をどう活用するか、資源・資産としてどう設計するかっていう、全体戦略がないんですよ。

安田

ないんですか。

石塚

大企業ってもう完全な分業制なので。

安田

そんな体制で大丈夫なんですか?全体の人材戦略がないって致命的な気がするんですけど。

石塚

全体の人事制度を変えるなんて大企業ではもう一大プロジェクトで。誰もやりたくない。

安田

そうは言っても誰かがやらないと。大変なことになりますよ。

石塚

だけど現実そうなんですよ。「私が関わるべきところはちゃんとやりました」「それは私の仕事じゃありません」って、もう大企業お得意の話です。

安田

ある意味すごいですね。それで回ってるわけですから。経営トップはどう考えてるんでしょう。

石塚

経営層も今はタッチしたくないんじゃないですか。どうせあと10年もしたら1番去ってほしい50代以上はほとんどいなくなるから。

安田

それまでは見て見ぬ振りですか。せめて30代までは新卒に合わせてベースアップしてあげればいいのに。

石塚

上げたら上げたで他の世代から文句言われるし。めんどくさいんでしょうね。

安田

全員を上げない限りどこかで不公平感は生まれますからね。

石塚

そうなんですよ。元々50代、60代はスキルの割りに上げ過ぎているので。

安田

まずはそこがいなくなってから、という感じでしょうか。

石塚

おっしゃる通り。10年後にはそこがいなくなるから。そこからドラスティックに変えていこうと思ってるんでしょう。

安田

その割には新卒だけが歪に上がってますけど。

石塚

そうしないと新卒が採れないから。

安田

上場企業といえども採れませんか。

石塚

上場企業は上場企業同士で取り合ってるから。だから最低30万〜ってなるんですよ。

安田

中小企業には30万円なんて絶対に無理ですよ。

石塚

初任給で30万以上の値札がつく人は旧帝大か早慶クラス。そこを採ろうとすれば30万円だけど1.5流を採って伸ばすというやり方も当然あるわけですよ。

安田

1.5流以下の大学なら30万円払わなくても採用できると。

石塚

そういう差って厳然としてありますから。大多数の企業は初任給をそこまで引き上げられないんです。

安田

中小企業はそこを狙うしかない?

石塚

いや、大企業は初任給が高いけど途中から上がらなくなる。そこから抜けてきた人を狙うのもありですよ。

安田

なるほど。大手からこぼれ落ちてくる人を狙っていくと。

石塚

大手に限らず数年で辞める人はどんどん増えていきます。その中には当然、社会人になってからスキルが伸びた人たちもいるわけじゃないですか。

安田

そうですね。

石塚

中小企業はそこを狙うべきなんですよ。スキルを伸ばしてきた1.5流とか、あえて2流の第二新卒とか。どうしても新卒採用したいなら相当研修に力を入れなきゃ。本気で教育研修に予算と時間をかけない限りまともな新卒は採れないですよ。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから