第308回「カスハラの行き着く先」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第307回「マルチタスクが苦手な高学歴人材」

 第308回「カスハラの行き着く先」 


安田

「カスハラ顧客には対応しません」とはっきり言う会社が増えてきました。

石塚

覚えてませんか?JR山手線で去年、財務省の高級官僚が駅員を殴って人生を棒に振った話。

安田

そんなのありましたっけ?

石塚

駅員さんの暴行事件ってものすごく増えてるんですよ。

安田

こういうニュースを見るたび不思議なんですが。一流ホテルならともかく、こんな安い金額でサービスなんて受けられるはずがない。普通に考えたらわかりそうなもんですけど。

石塚

お客様は神様だっていう思考が強いんですよ、日本は。俺は客だぞ。お客様待遇は当然だっていう。

安田

ここ20年で余計ひどくなった気がします。デフレの影響なんですかね。バブルの頃ってこんなにひどくなかった気がしますけど。

石塚

おっしゃる通り。みんなお金を持っていたから。

安田

心に余裕もあったし。

石塚

余裕もあったから。日本人は心まで貧乏になったんですよ。マクドナルドのデリバリーでポテト1個入ってなかった客が「タダ券よこせ」とか「すぐ持ってこい」とか。

安田

宅配便も午前中指定しかできないんですけど「8時1分に持ってこい」という客がいるそうで。

石塚

午前中指定ができるだけでもすごいんですよ。日本の宅配は。

安田

ですよね。配達員さんも普通に断りゃいいじゃんと思いますけど。出来ないみたいです。

石塚

これはもう会社が守らないと。働く人が本当にいなくなっちゃいますよ。

安田

そう思います。時間通りに持ってきたのに「お風呂に入ってた」とかで「もう1回持ってこい」って言われるそうです。「今日は行けません」って言うと怒鳴り散らされる。

石塚

クレーム対応してる間にどんどん仕事が遅れて、自分の収入が減っていくわけですよ。

安田

はい。「持って行った方が早いから持って行っちゃう」と言ってました。そうすると「なんで最初から持ってこないんだ!」ってまた怒鳴られるんですって。

石塚

システム自体が間違ってるんですよ。現場のクレーム処理を配達員にやらせるから。再配達は割り増し料金を設定しておけばいいだけで。

安田

ですよね。支払いはケチるくせに要求ばかり多くて。

石塚

細かく時間を指定した場合は料金が3倍になりますとか。

安田

再配達は+300円ですとか。その日の再配達は+500円ですとか。

石塚

300円、500円だとちょっと安い気がします。

安田

おお!私も安売り脳になってきているのかも。

石塚

みんな安い金額に慣れすぎなんですよ。基本的には時間指定なしで、何かを指定するんだったら500円、1000円単位で加算されていく。これくらいが標準でしょう。

安田

人件費を考えればそうなりますよね。

石塚

それぐらい貰わないと成り立たない。クレーム対応も含めて、そこを現場に被らせてきたわけですよ。このままだと、どんどん人がいなくなっていきます。

安田

人がいなくなると一番困るのは顧客なわけで。「こういう要望には対応しません」と言わざるを得ないでしょうね。

石塚

やる場合は追加をいただきますと。当然そういう方向になっていきますよ。

安田

顧客は受け入れると思いますか?

石塚

9割以上は受け入れると思います。だからビジネスとしては全く問題ない。

安田

それでもカスハラ顧客は文句を言ってくるんでしょうね。

石塚

そういうクレームは一切現場に対応させず、きちんとルールを決めて守らない客は排除すればいいんです。

安田

現実的に考えたらそうなって行くでしょうね。働き手を確保する方が大変なので。

石塚

タクシーもアプリ予約が普及したらブラック顧客を乗せなくなりますよ。そうやって働き手を守らないと誰も働いてくれないから。

安田

当然と言えば当然の対応ですね。遅すぎたくらいで。

石塚

安田さん、カスハラでいちばん採用に苦戦してる業界ってどこかご存知ですか。

安田

バスや電車の運転手さんじゃないんですか。

石塚

実は公務員なんですよ。正確に言うと地方公務員。区役所、市役所。

安田

なるほど。税金が上がった文句とかを窓口で言うんでしょうね。「誰の税金で食べてるんだ!」とか言ってそう。

石塚

しかも断れないじゃないですか。全部の市民、区民を相手にしなきゃいけない仕事だから。

安田

確かに。「来なくていい」とは言えませんもんね。どうしたらいいんですか?これは。

石塚

カスハラの行きつくところは無人サービスでしょうね。機械相手に文句を言ってもしょうがないから。職員が足りなくなったところから無人に変わっていきますよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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