第338回「奨学金返済サポート制度」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第337回「バイト希望の行列ができる飲食店」

 第338回「奨学金返済サポート制度」 


安田

奨学金の返済を「入った会社にしてもらう」という制度を奄美市が作ろうとしていて。

石塚

奄美大島の奄美市ですね。鹿児島の。

安田

はい。制度化することで企業も人を採りやすくなるし、学生は返済がなくなるし、奄美市もちゃんと奨学金が返ってくるし、ってことなんですかね。

石塚

1点だけ不安なのは、奄美市にある会社と奄美市がどういう関係性なのか。

安田

どういう意味ですか?

石塚

要するに奨学金を受けている学生を「奄美市が紹介します」っていう、言わばお見合いを市がやってるんだったら、成り立つと思う。

安田

そこまでやれば人不足解消の効果があると。 

石塚

効果はあると思います。奨学金の借金ってものすごく大きいから。

安田

今の学生はいくら借りるんですか?

石塚

フルに借りれば大体500万ぐらいじゃないですか。500万の借金を「うちが代理に返すから、慌てないで10年利息なしで返してもらえばいいよ」「うちも補助するよ」って。

安田

補助する?

石塚

半分は企業が持ってあげる。

安田

なるほど。

石塚

ただし〇〇年以内にやめた場合は、申し訳ないけど返還してくださいっていう条件付きで。

安田

それは法律的にはOKなんですか?

石塚

「立て替える代わりに働け」は人身売買って言われちゃう。法的にちゃんと整えれば大丈夫です。

安田

あくまでも「返済のサポートをしますよ」ってことですね。代理返還って書いてますもんね。その代わりに途中で辞めちゃった場合は、返してねってことですか。

石塚

はい。債権債務関係の相手が変わるだけですよ。JASSO(日本学生学生支援機構)が債権者じゃなく働いてる会社が債権者になる。

安田

金利はなくなると。

石塚

なくなる。返済のサポートもする。

安田

何年くらい働けばいいんでしょうか?500万円を返すのに。

石塚

10年くらいでしょうね。そうすると返済が年間50万なので月4万ぐらい。そのうち1万5000円くらいを会社が負担してあげる。

安田

10年ぐらいはかかりますよね。5年だったらその倍ですもんね。

石塚

実は全額給付する会社もあるんです。要するにあげちゃうってことなんですけど。板橋区にある会計事務所さんは、学生時代に週1〜2でバイトする条件で給付してます。4年分。

安田

卒業後に就職する条件ですか?

石塚

いや、就職の縛りもないんですって。ただバイトだけしてもらって。

安田

すごいですね。めちゃくちゃ優秀なバイトが集まりそう。

石塚

ただし、それができる会社って、ある程度余裕がないとダメだから。みんな大手企業ですよ。

安田

中小企業がこの制度を活用しようと思ってもしんどいってことですか。

石塚

いや。奨学金の返済サポートならできると思います。やってる会社はまだ少ないですけど。

安田

なんでやらないんでしょうね。こんなに人に困ってんのに。

石塚

先行投資して逃げられたらどうする?みたいな話じゃないですか。西濃運輸は成功した例ですね。

安田

西濃運輸さんは業界大手ですからね。

石塚

だけど西濃運輸がすごく採用力が高いかって言うと、そうでもなくて。そこを埋めるために思い切った決断をされて。僕はすごく評価しますね。

安田

普通の中小企業でも「奨学金の返済をサポートします」って言ったら、効果あるんですか。

石塚

「9割は会社が持つ」って言ったら「なら行こう」って人はいるでしょうね。

安田

実質的な給料アップですもんね。

石塚

おっしゃる通り。別の形での賃金アップなんですよ、これ。

安田

社会保険料が上がるわけじゃないし。会社にとってもメリットがあるかも。

石塚

そうなんですよ。

安田

とはいえユニクロの初任給が33万円の時代じゃないですか。いずれ40万出す会社も出てくるんじゃないですか。

石塚

出てくるでしょ。

安田

そしたら10年も拘束されるより、給料の高い会社に行っちゃいませんか? 

石塚

確かにこの1年で初任給がものすごくインフレしていて。かつてのような奨学金返済支援制度では太刀打ちできなくなってきてるのは事実です。

安田

今ならまだ効果はあると。

石塚

ええ。やらないよりはもちろん効果があります。ただし条件は変わっていくでしょうね。10年ではなく「5年だけ働いてくれたらいいよ」みたいな感じで。

安田

それで元が取れるんでしょうか?

石塚

それでも元が取れるような会社しか生き残っていけなくなるでしょうね。

安田

つくづく厳しい時代ですね。

石塚

毎回言ってますけど、日本で人を雇うのは大変ですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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