第339回「早期退職は実力を見極めてから」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第338回「奨学金返済サポート制度」

 第339回「早期退職は実力を見極めてから」 


安田

このニュース見ましたか?都内の食品加工会社(上場企業)で営業部長だった方が58歳で早期退職した話。

石塚

はいはい。コミュニケーション能力が高く、抜群の営業成績で営業部長に昇進したっていう。

安田

その人が55歳で役職定年を迎えて、95万の月給が60万になって、年収にすると400万ぐらい減っちゃたそうで。58歳で早期退職を決意したけど転職先が全然決まらなかった。

石塚

そりゃそうですよ。

安田

結局この方は「固定給7万プラス歩合で元の会社に戻った」と書いてます。いくらなんでも安すぎませんか?

石塚

いやいや。よく聞く話ですよ。

安田

コミュニケーション能力が高くて、営業成績抜群だった人ですよ。自分で商売やったってもっと稼げるでしょう。

石塚

部長さんですよね。まず現場の仕事から離れて久しいはずなんですよ。つまり人にやらせていて、現場が今どうなってるかなんてことはもう全然わかんない。話も全部古いはずなんです。

安田

なるほど。

石塚

そういう人が転職活動をした時に「この人が言ってる話は現場感がない」「仕事ができる感じがしない」って受け止められるわけです。

安田

じゃあこの方は何をやってたんですか?営業部長として。

石塚

くだらない会議とか、社内調整とか、社内の根回しとか。そういう事ばっかりじゃないですか。

安田

そういうスキルは転職では評価されませんか?

石塚

転職で求められるのは「どうやって商品を売るか」「市場を作るか」あるいは「商品を開発するか」っていう現場スキルです。今最先端の何がどうなってるのかっていう情報がパパっと出るようじゃないと難しい。

安田

採用する側からすればそうでしょうね。

石塚

それがない人に転職のチャンスなんか来ないわけですよ。

安田

転職先として期待してた取引先も「元の会社の肩書きがあったから評価していただけ」っていう。いかにもよくありそうな話ですけど。

石塚

そりゃそうですよ。

安田

困っているときに元の会社の人に「現場の成績が良くなくて助けてほしい」と頼まれた。それで月7万なの?って感じなんですけど。この人が戻って現場の業績が上がるんだったら、もっと払うんじゃないかと思いますが。

石塚

年齢もあるし、結果を見てから判断するってことで歩合を厚くしてるんじゃないですか。

安田

結果的に現場の生産性が上がって業績が良くなるんだったら、歩合はたくさん払ってもらえる?

石塚

払います。ただし、前の年収ほどは無理だと思います。

安田

前の年収が月給95万ってことはボーナスを入れて年収1500〜1800万円ぐらい?

石塚

無理無理。絶対無理ですね。

安田

じゃあ役職定年で月給が60万になって、賞与を入れて800万ぐらいだったら悪くなかったわけですか。

石塚

おっしゃる通り。全然悪くないですよ。しがみついた方がよかったって話なんです。

安田

上場企業でバリバリの営業部長みたいな人でも、転職活動すると仕事がなかったり稼げなかったりするんですか?

石塚

ほぼ全員そうです。

安田

そうなんですか!

石塚

ほぼ全員。

安田

そんな人ばかりで上場企業の組織って成り立つんですか。

石塚

だから大企業ってある意味強いんですよ。余裕があるというか。

安田

すごいですね。それを自分の力だと勘違いしちゃいけないってことですね。

石塚

まあ仕方ないですよ。だって天井高が3メーターぐらいある綺麗なインテリジェントビルで、ガラス張りの会議室で仕事してたら、それは勘違いしますよ。

安田

事業部としての売上を個人の営業力だと勘違いしちゃうんでしょうか。

石塚

そうでしょうね。あと、ここには書いてないんですけど、取引先や下請けとどういう関係性だったか。得てして10人いると8、9人ぐらいはたかるんです。

安田

たかる?

石塚

「いつも石塚さんにお世話になってるんで、今日一席設けました」って誘われて。「おう」みたいな感じで。そういう話が多いです。一軒目ご馳走になったら、じゃあ二軒目は僕がお持ちますからなんて人ほとんどいない。

安田

すごい世界ですね。

石塚

逆に、業者さんに勘定を回したり、おねだりしたりしない、綺麗な仕事をする人は「安田さん、退職したらうち来ませんか?」って逆に言われますよ。

安田

そういう人って石塚さんの見立てでは何割くらいいるんですか?

石塚

1割ぐらいじゃないですか。

安田

そんなに少ないんですか。じゃあ9割はしがみついた方がいいと。

石塚

語弊を恐れずに言うと、ある時期から会社に暇潰しに来てるような人が多いんですよ。

安田

そんなの自分でわからないんですか。

石塚

いや、もう自分を変えられないんでしょうね。本当は長い人生を考えたら、出世が止まった時点で「降格してもいいから現場に戻してください」って言うべきなんですけど。

安田

いや、そんな人いないでしょ(笑)

石塚

たまにいらっしゃるんですよ。

安田

本当ですか?30代ぐらいだったら分かりますけど。

石塚

安田さん、30代で見切りつける人は誰もいないです(笑)出世競争が一段落して「ああ自分は外れたな」って思う時が来るんですよ。

安田

なるほど。

石塚

その時に決断できるかどうか。ここが一番大事なんです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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