第11回 AI政治の未来

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第11回 AI政治の未来

安田
今はいろんな仕事がAIに置き変わっていくと言われているんですけど、酒井さんから見て「官僚」と「政治家」だと、どっちの方がAIに置き換わりやすいと思いますか?

酒井
面白い質問ですね(笑)。まあ、どっちも置き換わりやすいでしょうね。
安田
へえ、どっちもですか。政策決定をするには、人間の独特の感性みたいなものが必要な気もしますが。

酒井
まず官僚側からいくと、社会課題に対していろんな情報をインプットした上で、具体的にどうするかを決める仕事ですよね。つまり情報収集とデータ分析、及びそれに基づいた意思決定なわけで、AIと親和性は高いと思います。
安田
ああ、なるほど。でも、日本のお役所って、いまだに必要のないハンコを押さないといけないような、テクノロジーの最先端からはほど遠いイメージがあるんですけど。

酒井
まあ確かに、効率化すべき業務はかなりあると思います。でも現実的に考えて、過去のデータベースを一つ一つ目で追いながら新たな法律を組み立てるって、そんなのはAIに頼んだ方が全然早いわけで。
安田
官僚の世界では「AIを導入して自分の仕事がなくなったら困る」とは考えないんですか?いわゆる会社員だと、自分がいないと仕事が回らないようにしてる人も多いと思うんですけど。

酒井
そもそも、仕事がなくなると思ってないんでしょうね。今は役所の人が忙しすぎて反射的にしか仕事ができていないところがあるので。
安田
へえ、そんなに忙しいんですか。何にそんなに時間を取られてるんですか?

酒井
事務作業とか、政治家の方と話をしたり、そのための資料を作ったり。
安田
それらを全部AIでやれたら、その分の時間を他に使えるわけですね。

酒井
まさにそうですね。現場の経営者の話を聞いたり、最先端の工場を見学したり、あるいは自分で論文を読んで勉強しようとする人は多いと思います。
安田
AIに雑務を頼むことで、官僚が本来やるべき仕事ができるようになると。政治家についてはどうですか?国会答弁もAIで作れるようになってきたと思うんですけど。

酒井
最近は経産省でもやり始めてますしね。質問も一部アウトソーシングしている政治家の先生もいらっしゃるので、質問もAI、答えもAIだったら、けっこういい議論ができるのかもしれないですね。
安田
もう政治家さんをAIに置き換えなくても、議論の中身をAIで作ってたら、実質的にAIに置き換わっているみたいなもんなんじゃないですかね。

酒井
そういう捉え方もできると思います。
安田
そうなると、政治家さんも面倒な仕事をAIに任せて、本来の仕事に集中できるようになると。

酒井
ええ。みんながどう思ってるかを聞くとか、どうしたいかを考えるところに集中して、その後のまとめたり分析したりするような具体的な作業は、むしろAIを入れた方がいいでしょうね。
安田

少子高齢化対策とかも、AIの方がまともな答えを出してくるんじゃないか、という気もします。


酒井
まあ、やっぱり人間だと偏りも出てきますからね。
安田
そういう意味では、AIは忖度しないですからね。

酒井
そうですね(笑)。絶対必要な政策であっても、今の政治情勢じゃ通らないとか、総理が反対するだろうな、と考え続けていると、どうしても人間は現実的に実現可能な政策に偏りがちです。でも、そんなのAIに投げたら忖度せずに答えてくれますから。
安田
逆に忖度して作ってよって言ったら、今度は忖度した答えを返してくれますしね(笑)。

酒井
ええ(笑)。人間の方がその辺の切り替えに苦労している気がします。役所に残っている元同僚に話を聞いても、日々の折衝に疲れてきていて、新しいことを考えるマインドが摩耗してるんです。
安田

そういう時にもAIを使えば、「僕の意見じゃなくてAIに客観的にって言ったらこう出たんです」って政治家にも国民にも堂々と言えると。


酒井
そうそう。摩耗したマインドをリフレッシュする上でも、AIの客観的な視点は必要なんだと思います。
安田

確かに、そういう使い道はありそうですよね。あとは「AIが選挙民になって候補者を選ぶ」って話があるんですけど、実はもうすぐそこまで来ているような気がしていて。


酒井
なるほど、そんなに遠くない未来の話だと。
安田

つまり、候補者がたくさんいて誰がどういうこと言ってるのか、実はみんなよくわかってない。だから「誰に投票すればいいか」をAIに聞いて投票すると。でもそれって結果的に「AIが選んだ候補者」ですよね。


酒井
そうですね。でも、方向性として私は全然賛成ですね。政治家はAIに自分の身を脅かされるわけですから、AIの評価軸を気にするようになっていく。
安田
ああ、「AIに選ばれるような政治的発言」をするようになるんでしょうね。

酒井
ええ。とは言え「いい政治家とは何か」っていうのは非常に難しい問いではあるんですけどね。
安田
確かに。例えば、「地元にばっかりいて国会で何もしない人」と、「国会で質問をいっぱいするけど地元に帰らない人」と、どっちがいい政治家かと言われても悩みますよね。

酒井

そうですね。さらに言えば、最近は一つの論点に絞って選挙に通ってる議員の先生も増えてきてるので。

安田

つまり、全部のことをやるんじゃなくて環境問題だけ、とかですか。


酒井

そうです。今だと、「表現の自由」に関してはものすごく熱心なんだけど、他は常識的に考えますとか、他はAIの通りにやります、とか。

安田

なるほど、「未来の政治」が少し具体的に見えてきた気がします。酒井さんにとってはちょっと答えにくい質問だったと思いますけど(笑)。


酒井
いえいえ(笑)。面白い論点でした。

 


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

Twitter  Facebook

経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

感想・著者への質問はこちらから