この対談について
国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。
第22回 日本と海外の官僚同士のつかず離れずな関係
今日は「日本と海外の官僚の関係」について聞いていきたいと思います。政治家が海外に行くとき、その手配を官僚がすると思うんですけど。
そうですね。政治家に同行して一緒に行くこともありますし。
そうですよね。そういう場合には、官僚同士の交流とか情報交換も当然あると思うんですよ。なんとなく「政治家同士」より「官僚同士」の方が仲いい気もするんですけど、実際どういう付き合いなんですか?
一番よく会うのは国際交渉をする担当者同士で、それはもう頻繁に会いますよね。最近で言うとTPP交渉のような大きな交渉のときは、政治家が行く前にひたすら官僚同士で話を詰めるので。
ああ、政治家は最後に行ってサインして握手するだけだと(笑)。
まあ究極的にはそれに近いところはありますけど(笑)。
ということは、やっぱり政治家同士より官僚同士の方が何倍何十倍も交流するわけですよね。レーガン大統領と中曽根さんが「ロン・ヤスの仲」とか言われてましたけど、実はそれよりも圧倒的に官僚同士の方が仲良くなっていくんじゃないですか。
うーん、顔見知りには当然なりますけど、国同士って利害が対立する関係なので、たとえ友好国同士でも一線は越えません。9割ぐらい合意できている交渉でも、最後の10%とか5%の例外事項をゴリゴリ交渉しますし。
へぇ。でも、9割合意できたのなら仲良しな気もしますけど。
一般社会だとそうでしょうね。国同士の交渉だと、最後の最後まで議論しているので、結局ずっと喧嘩してるような状況なわけです。
北朝鮮の拉致問題でも小泉さんが直接行って連れ帰ってきましたけど、あれも当然いろんな方が準備をしてるわけですよね。
北朝鮮はなかなか難しい事例ですけど、拉致問題の交渉のときにはその辺りに詳しい外務省の役人が準備を進めていましたね。秘密裏に、いろいろなルートを駆使して。
へぇ。やっぱりそういう準備があってこその結果なんですねぇ。ちなみに日本と交流のある国にはすべて担当者がいるんですか?
いますね。ロシアの官僚と会ってる官僚も、ウクライナの官僚と会ってる官僚もいます。
ということは表に出ている情報より、遥かにお互いの状況がわかっているわけですよね。今回の戦争についても、世間的にはロシアが圧倒的に悪いと言われてますが、ロシア側の言い分もロシア担当の官僚さんは知っていると。
もちろん知ってます。そして、そういう重要な情報は国に報告しますよね。あらゆる情報を分析した上で国として判断するわけですから。
なるほど。ちなみに情報収集とか交渉は英語でするんですか。それとも、ロシアの場合ロシア語で?
ロシア語でしょうね。というのも、外務省にはそれぞれの言語の専門がいるんです。その国の言語で交渉した方が、より多くの情報を取って来れるので。
すごく小さな国の場合はどうなんですか? アフリカにはとんでもない数の言語があると言われていますけど。
どこまで網羅しているかわからないですけど、外務省ではおそらく50ヶ国語程度は専門職の方がいらっしゃるのではないでしょうか?
ははぁ。カバーっていうのはネイティブレベルですか。
向こうの方とお話がきちっとできるとか、その国に留学をしていたとか、そういうレベルですね。
政治的な交渉をするわけですから、片言では駄目ですもんね(笑)。
もちろんそうですね(笑)。外務省の中では英語は当たり前なので、アラビア語の専門の方は、アラビア語と英語の2か国語を話せる。更に3ヶ国語に詳しいという方も大勢いらっしゃいますね。
やっぱり酒井さんも3ヶ国語ぐらいは話せるんですか?
いや、私は全然喋れないんですけど(笑)。昔中東の担当をしてたことがありまして。シリアとかレバノンとか。
私は喋れないんですけど(笑)。ただ、アラビア語に詳しい方と一緒にいたので、挨拶ぐらいはできるようになりましたね。
へえ。いずれにせよ、海外の官僚さんともかなり密にやり取りすると。でもそうすると、ロシア担当とウクライナ担当が仲悪いとかアメリカ担当と中国担当が仲悪いとか、そういうことにはならないんですか。
正直、なりますよね(笑)。
なるんですか(笑)。「いや、そう言われてもこっちはこっちの事情があるんだよ」みたいな(笑)。
私が当時いた課は、中近東全体を担当している部署で。つまりアラビア語の国とイスラエルが同じ課の担当なわけですよね。
イスラエルとアラブの国って喧嘩してましたけど。そこが同じ課なんですか(笑)。
広い意味で中東に分類されますからね。イスラエル担当1人に対して、アラブの国はエジプトとかサウジアラビアとか国数が多くて、担当も10人くらいという構成になってましたね(笑)。
なるほど。傍から見てるとちょっとかわいそうですね(笑)。
もちろん官僚同士で喧嘩するわけではありませんけど、それぞれ自分の担当する国の新聞を読んだり、その国の人と話をして情報を上げているわけで。偏見を持たない人でも日々積み重なると、どうしても担当する国に意識が向きがちというか。
まあ、情も湧くでしょうしね。
あと、向こうの官僚が日本の大使館に来ることもあるんですが、そこで本国では絶対喋らない人同士が会っちゃったりするわけです(笑)。
あらら(笑)。でもそういう場面が見られるのは面白いですね。一方で、すごく仲良くなって「この立場じゃなくなった後も仲良くやろうぜ」みたいになりそうな気もするんですけど、どうなんですか?
そういうこともありますね。実際に、本国では仲の悪い国同士の外交官を交流させるプログラムも日本の外務省主催でやったことがありました。また、海外だと、企業出身者が外交官になったりするので、海外の企業、財閥の方との付き合いも続きますし、そういう関係性の中では家族ぐるみで付き合いをしてる人もいますから。
なるほど。お互いに国益を背負っているからこそ、官僚でいるうちは一線を引いたお付き合いなんですね。ありがとうございます。勉強になりました。
対談している二人