このコラムについて
小さなブルーオーシャン?
何だかよく分からないよ。ホントにそんなので商売が成り立つの?
と思っている方は多いのではないでしょうか。何を隠そう私もそのひとりでした。私は人一倍疑り深い人間なのです。そこで・・・私は徹底的に調べてみることにしました。小さなブルーオーシャンなんて本当にあるのか。どこに行けば見られるのか。どんな業種なら可能なのか。本当に儲かっているのか。小さなブルーオーシャン探求の中で私が見つけた答えらしきもの。それはきっとみなさんにとっても「何かのヒント」になるはずです。
第11回「隠れた貢献にスポットを当てるというビジネス」
これまでに、採用の支援や組織活性の支援、研修等で、多くの企業に携わらせていただきました。経営者や社員の皆さんに話を聞いていると、経営者は良い会社にしたいと言いますし、社員さんたちはきちんと評価してほしいと言います。
数年前に、当時流行っていた企業診断を、いくつかの会社で行ない、その診断結果を見て面白いことに気づきました。どんなに良い診断結果が出たとしても、給料と福利厚生に関して、社員が満足することはないということ。常に、給料と福利厚生に関しては不満を持ち続けるのです。しかし、そんな診断結果が出ると、経営者はなんとか改善したいと、給料や福利厚生の充実に投資をしてしまう…。
いまでも、高い給料を支払えば、優秀な人材を採用できると思っている社長に会うことがありますが、はっきり言うと、給料を高く設定しても、優秀な人材は採用できませんし、高い給料を支払ったからと言って、仕事ができるようになるわけではありません。
経営者にとって、給料や福利厚生以外の部分で、社員が満足度高く働いてもらうというのは永遠の過大なのかもしれません。
海外では当たり前。第三の給与で、組織が変化していく。
「第3の給与」ってご存知ですか?
給料でもありません。ボーナスでもありません。
「第3の給与」とは、社員同士が送り合えるボーナスのこと。
このITサービスを展開しているのが、Unipos株式会社さん。
どういうものかというと、給料には俸給、成果給とあるが、それに続くのが「ピアボーナス」というもの。俸給や成果給は、会社に対する貢献を上長が定量的に数値化して決め付与するもの。一方でピアボーナスは、金額としては一番小さいが、自分がいいと思った人に直接渡すことができるという。これが「第3の給与」と言われるゆえんである。
例えば…
創業133年、平均年齢45歳、2014年までメールアドレスやPCさえなく、ITとはほぼ無縁だった「ITリテラシーゼロ」を自認していた老舗企業。この企業で販促用のポスター制作に長年携わってきた女性スタッフは、最初は手書きから始まり、今ではイラストレータも使いこなし、みんなが使いやすいポスターを作ろうと自らのスキルを地道にブラッシュアップしてきたといいます。だからと言って、社内のみんなから感謝されることなど、ほとんどなかったといいます。この企業が、第3の給料、「Unipos」を導入して変わったというのです。これまで一緒に働いてきた別拠点の同僚から思いがけず感謝のメッセージを受け取ったとき、ちゃんと見ていてくれた人がいるんだと知り、心の底から嬉しかったといいます。
実は、この「ピアボーナス」という仕組み自体は、それほど珍しくありません。とくに海外の企業では積極的に取り入れられています。海外企業では、上司が部下に金券を送るのはごく一般的なことで、会社から送られた金券は、一定額まで課税対象外になっていることが多いのです。そのためピアボーナスを同僚間で交換するのも、違和感なく受け入れられるという企業文化があったりするのです。
小さなブルーオーシャンを生み出しているものは何なのか?
このITサービスは、2017年にサービスを開始して、2019年段階で200社ほどの企業が導入していると言います。
改めてUniposは、「〇〇さん、こういうことをしてくれてありがとう、100円」といったように、従業員同士が、感謝のメッセージを少額の成果給とともに送りあうサービス。お互いの貢献を認め合い、そのやり取りを社内のみんなが見えるようにすることで、信頼し合える組織づくりを支援しているわけです。
つまり、感謝の言葉とともに、ピアボーナスという少額の成果給を従業員同士で送りあうプラットフォームを取り入れ、社内の「感謝の流通」革命を起こしているということでしょう。これまで社内で気付いてもらえなかった、あるいは見過ごされてきた「見えづらい貢献」にスポットライトが当たるようにし、拠点をまたいで「感謝」が飛び交い、前向きなコミュニケーションが活発化する。世代を超えたコミュニケーションがどんどん生まれる、ということなのでしょう。
このビジネスを知った時、「貴社の商品(サービス)は何か?」という質問を思い出しました。これを単純にITシステムという商品を売っているのであれば、受け入れられることはなかったと思います(特に前述したITリテラシーの低い老舗企業など)。しかし、社内の信頼づくり、組織活性という観点で見れば、一過性の研修を導入するよりもよっぽど成果が出るのは明らかです。さまざまな組織理論がある昨今で、「感謝」で「第3の給料」を発生させるというわかりやすさが小さなブルーオーシャンを生み出しているのではないかと思います。
佐藤洋介(さとう ようすけ)
株式会社グロウスブレイン 代表取締役
大学(日本史専攻)を卒業後、人材コンサルティング会社に16年間勤務。ソフトウェア開発会社、採用業務アウトソーシング会社、フリーランスを経て、起業。
中小企業の人材採用、研修に携わる一方で、大学での講義、求職者向けイベント等での講演実績も多数。人間の本質、行動動機に興味関心が強い。
国家資格キャリアコンサルタント、エニアグラムファシリテーター、日本酒ナビゲーター。