第49回 焼きたてチーズタルトから学ぶヒット商品の作り方

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第49回 焼きたてチーズタルトから学ぶヒット商品の作り方

安田

売れる商品って味がいいだけではダメで、見せ方やネーミングも大事じゃないですか。スギタさんの作るケーキパンは、その辺りがすごく考えられているなと思うんです。そういう意味では、スギタさんはパティシエであると同時に、コンセプトプランナーでもありますよね。


スギタ

ああ、確かに。そういうことを考えるのは好きですね。

安田

そんなスギタさんから見て、「このコンセプトはすごい」と感じたものはありますか? 自分が作った商品以外で。


スギタ

ベイク」という焼きたてチーズタルトのブランドは、売り方も含めて素晴らしいなと思いましたね。北海道の老舗「きのとや」の息子さんが立ち上げたチーズタルト専門店なんですが、この店ができたときには正直「やられたな~」と。

安田

へぇ、そんなにすごいんですね。どこでそう感じたんですか?


スギタ

一言で言うと、単一ブランド・単一商品というスタイルですね。「この一品のみ」という潔さにも感心しましたし、その一品をどうしたら最も美味しく食べてもらえるかが考え抜かれていて痺れましたね。

安田

ははぁ、なるほど。その方が全国での多店舗展開もしやすそうですしね。最初からそういう構想があったんでしょうか。


スギタ

それは当然あったと思います。実際、同じように単一商品を売るスタイルの新しいブランドを次々立ち上げていらっしゃいますし。チーズタルトの次はザクザク食感のシュークリーム、続いてアップルパイと言った感じで。

安田

ほう、なるほど。1つの店で複数の商品を扱うわけじゃなく、独立した別ブランドとして展開するということですね。


スギタ

ええ。そこがビジネスとしての肝なんだと思いますね。「商品ごとにブランドを分けて展開する」という唯一無二の戦略だなと。

安田

なるほどなぁ。そういえば今って、チーズタルト以外にも焼きたてのタルトが買えるお店がいろいろありますよね。そういうトレンドに「ベイク」も乗ったという感じなんですかね。


スギタ

ああ、いえ、むしろ最初にこの形を確立したのが「ベイク」なんです。そもそも「きのとや」で人気商品だったチーズタルトを、より売りやすい形で展開したもので。

安田

ああ、そうだったんですね。他店はむしろ「ベイク」を参考にしたわけか。商品だけじゃなく、その売り方も含めて。


スギタ

そういうケースも多々あったでしょうね。それくらい「ベイク」は見事でしたから。バームクーヘン専門店とか、シュークリーム専門店なんかも増えていますが、それもどこかで「ベイク」の影響を受けたものかもしれません。

安田

なるほどなぁ。ちなみに私も商品開発やコンセプト作りをお手伝いすることが多いんですが、難しいのは「売れる商品を作る」ことより「売れ続ける」ことなんですよね。


スギタ

ああ、確かにそうですね。「ベイク」も今は売却されて別の会社が運営してますけど、スタート時のような爆発的な人気とまでは言えないですから。プロダクトライフサイクルでいうと、成熟期に入っているということなのかもしれませんが。

安田

以前はすごく並んでましたけど、今はいつでも買える状況になっていますもんね。それだけ店舗数も増えて、オペレーションが円滑に回っているということでもあるんでしょうけど。ちなみに最初から売却を見据えていたんでしょうかね。


スギタ

うーん、可能性はあるでしょうね。出口戦略まで考えてのスタートだったとすると、本当にすごいですけど。

安田

抜群のビジネスセンスですよね。とはいえ「売れ続ける」ということを考えると、ブランドの供給量を調整するのも大事ですよね。例えば「とらや」の羊羹がコンビニで気軽に買えたら、ブランド価値は下がってしまう気がします。


スギタ

そのあたりのバランス感は重要ですよね。逆に「八天堂」のくりーむパンは、最初は並ばないと買えない商品でしたけど、今は通販や海外展開も始めていろんな場所で手に入るようになっています。

安田

ああ、なるほど。そっちのパターンで成功しているケースもあるということですね。ともあれ、当初ほどの人気がキープできているかと言うと、なかなか難しいんだろうなと。


スギタ

確かにそう考えると「売れ続ける」って本当に難しいですよね。商品バリエーションを増やしたり、販路を広げることはもちろん必要ですけど、ブランドの価値を保つことも考えなければいけないわけで。

安田

カルティエやロレックスなどのヨーロッパの老舗ブランドは、短期的なブームが来ても絶対に量産しないらしいですよ。200年、300年後を見据えているからこそ、ブランド価値を守ることを優先するんでしょう。


スギタ

へぇ、すごい。でも確かに、そういった大手はブランドの歴史が違いますもんね。

安田

そうなんですよ。今は大きな会社に買収されましたけど、元々は家族経営でやっていて、「何百年先もこのブランドで食べていくんだ」という考えがあったんだと思いますね。


スギタ

面白いなぁ。でも短期的な成功を目の前にすると、つい波に乗りたくなる気持ちもわかるんです。「この波に乗らないと次はないんじゃないか…」という強迫観念みたいなものもありますし。

安田

わかります。かといって慎重になりすぎても、一度も波に乗れずに終わっちゃったり。


スギタ

ええ、まさに。そのさじ加減が、ビジネスの難しさでもあり、面白さでもあるんでしょうね。


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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