第59回 健康ブームの時代に、ケーキができること

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第59回 健康ブームの時代に、ケーキができること

安田

最近、若者の間で「タバコ吸わない、酒飲まない」が当たり前になってきましたよね。世界的にも「健康ブーム」が来ているなと感じます。


スギタ

そうですね。若いうちからジムに通ったりして。うちの会社でもタバコを吸う人は一人もいませんし。

安田

健康にいいものを食べて、無理せずストレスをためない生き方が主流になりましたよね。そうなると、スイーツの立場ってどうなんだろうと思って。「甘くてカロリーが高い」という点だけ見ると、健康にいい感じはしないじゃないですか。


スギタ

確かに。そこだけを見ちゃうと、美味しいとはいえ体への負担が気になりますよね。

安田

そうなんですよ。だからといって、「体にいいケーキ」を作ったとして、果たしてそれが売れるんだろうかと。お酒と同じで、ちょっと体に悪いからこそ美味しい、みたいな部分もある気がして(笑)。


スギタ

そうですね(笑)。そういえば僕も一時期、「自分が作っているもので誰かの健康を損ねていたらどうしよう」と悩んだことがありました。ちょうど父が病気になって、健康への意識が高まっていた頃でもあって。

安田

なるほど。ケーキ屋さんだから砂糖は欠かせませんし、バターや生クリームも使いますもんね。


スギタ

そうなんです。それで「白砂糖は本当に必要なのか?」と考えるようになって、グラニュー糖や上白糖を使わずにケーキを作ってみたりもしたんです。でも味としてはあまりプラスにならなくて。

安田

やっぱりそうですよね。食べた瞬間の「美味しい!」というあの感覚に、砂糖はやっぱり不可欠な気がします。


スギタ

ええ。仰る通り「美味しいケーキ」に砂糖は欠かせない。それは味のためだけじゃなくて、例えばグラニュー糖は結晶度が高いので、製菓としての仕上がりも安定して舌触りもよくなったりするので。

安田

は〜、なるほど。味はもちろん、質を上げるのにも大事だと。


スギタ

そうなんです。そういう試行錯誤を経て、行き過ぎた健康志向もどうなのかな、と思うようになって。今は「誰かの心を満たすもの」を作ってるんだ、と考えるようにしています。食べた人が「これで明日も頑張れる」と思ってもらえたら、すごく幸せだなと。

安田

健康って体だけじゃなくて、メンタル的な効果も大きいですからね。毎日大量に食べていたらそりゃダメですけど、美味しいスイーツを食べて気分転換するくらいなら全然いい。やっぱりお酒と同じですね(笑)。


スギタ

確かに確かに。僕自身もよくないと思いつつ、毎日飲んでしまってます(笑)。やっぱりアルコールを飲むと気持ちの切り替えになるんですよ。

安田

私も以前は毎日飲んでたので、その気持ちはよくわかりますよ。ケーキもお酒も、まさに「心のご褒美」なんですよね。ある意味、「心の健康食品」と言えるかもしれない(笑)。


スギタ

本当にそうですね(笑)。とはいえお客様の体の負担はなるべく少なくしたいので、添加物も極力避けたいとは思ってます。例えばマカロンのきれいな色を出すにも植物由来や天然の着色料を選ぶようにしたり。

安田

ははぁ、そういう心配りは消費者にとっても嬉しいですね。そういえば最近は韓国スイーツがブームみたいですけど、色がすごくカラフルじゃないですか。

スギタ

そうですね。あのカラフルさが魅力でもあるんでしょうけど、そのぶん着色料は結構使ってるんじゃないかな。

安田

やっぱりそうですよねぇ。ということは、海外ではそんなに成分を気にしないんですかね。アメリカで初めてケーキを見た時も、甘さと大きさに驚いたんです。日本のケーキに食べ慣れていたからか、甘すぎて食べられないんですよ。しかも巨大で(笑)。


スギタ

わかります(笑)。僕もハワイに行ったとき、「これはちょっと無理かも…」と思いましたもんね。可愛げがないというか、もはや別の食べ物みたいで。それでいうと、ヨーロッパは日本のケーキに近いんですけど。

安田

ああ、確かに。言われてみるとそんな気がしますね。

スギタ

もともと日本のケーキ文化がフランスなどヨーロッパをベースにしてるので、繊細さや甘さの加減も近いんです。パリのケーキは宝石のような華やかさがあって、ドイツやアルザスの方だと素朴で美味しい。どちらかというと日常に寄り添ったケーキが主流ですね。

安田

なるほど。国によってケーキの文化にも違いがあるんですね。昔の日本の駄菓子もわりと派手な色のものが多かったですけど、今はそういう色のお菓子って減ってきてるのかもしれませんね。

スギタ

そうかもしれません。鮮やかすぎるとちょっと怖いですしね(笑)。美味しくて心が満たされるのが一番大事ですけど、そのうえで体への負担も抑えられたら理想ですね。

安田

同感です。やっぱり「美味しいものを少量」が一番いいんでしょうね。

スギタ

そう思います。大量じゃなければ、人生を豊かにしてくれるものだと思います。お酒と一緒で(笑)。

安田

その通りですね。ほどほどに楽しみましょう(笑)。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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