地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第59回 健康ブームの時代に、ケーキができること

そうですね。若いうちからジムに通ったりして。うちの会社でもタバコを吸う人は一人もいませんし。

健康にいいものを食べて、無理せずストレスをためない生き方が主流になりましたよね。そうなると、スイーツの立場ってどうなんだろうと思って。「甘くてカロリーが高い」という点だけ見ると、健康にいい感じはしないじゃないですか。

そうですね(笑)。そういえば僕も一時期、「自分が作っているもので誰かの健康を損ねていたらどうしよう」と悩んだことがありました。ちょうど父が病気になって、健康への意識が高まっていた頃でもあって。

ええ。仰る通り「美味しいケーキ」に砂糖は欠かせない。それは味のためだけじゃなくて、例えばグラニュー糖は結晶度が高いので、製菓としての仕上がりも安定して舌触りもよくなったりするので。

そうなんです。そういう試行錯誤を経て、行き過ぎた健康志向もどうなのかな、と思うようになって。今は「誰かの心を満たすもの」を作ってるんだ、と考えるようにしています。食べた人が「これで明日も頑張れる」と思ってもらえたら、すごく幸せだなと。

本当にそうですね(笑)。とはいえお客様の体の負担はなるべく少なくしたいので、添加物も極力避けたいとは思ってます。例えばマカロンのきれいな色を出すにも植物由来や天然の着色料を選ぶようにしたり。

やっぱりそうですよねぇ。ということは、海外ではそんなに成分を気にしないんですかね。アメリカで初めてケーキを見た時も、甘さと大きさに驚いたんです。日本のケーキに食べ慣れていたからか、甘すぎて食べられないんですよ。しかも巨大で(笑)。

わかります(笑)。僕もハワイに行ったとき、「これはちょっと無理かも…」と思いましたもんね。可愛げがないというか、もはや別の食べ物みたいで。それでいうと、ヨーロッパは日本のケーキに近いんですけど。

もともと日本のケーキ文化がフランスなどヨーロッパをベースにしてるので、繊細さや甘さの加減も近いんです。パリのケーキは宝石のような華やかさがあって、ドイツやアルザスの方だと素朴で美味しい。どちらかというと日常に寄り添ったケーキが主流ですね。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。