第72回 勝ち残る飲食店は「ジャンル選び」から

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第72回 勝ち残る飲食店は「ジャンル選び」から

安田

飲食店をやりたい人って多いと思うんですけど、いざ経営するとなったら「単価が高いけど小さな店」と「単価は低いけど回転率のいい大きな店」と、どっちの方が儲かるんででしょう?


スギタ

うーん、その二択だったら、前者じゃないですかね。「高単価でもわざわざ行きたいと思われる店」をどう作るか。職人の育成の難しさはあれど、結果的にはそっちの方が儲かるし、形にしやすい気がします。

安田

ほう、なるほど。逆に言えば「単価の低い大きな店」だとなかなか差別化が難しい?


スギタ

そうそう。誰でも簡単に作れるレシピでカジュアルに楽しめる店って、世の中に山ほどあるんです。そこから自分たちの店を選んでもらうって、かなり難しいと思いますね。

安田

ああ、確かに。「安くて美味しい焼き鳥屋」なんて、探せばいくらでもありますもんね。


スギタ

そうなんですよ。かといってそこで「SNSでバズらせればいい!」みたいに広告勝負に入っていくのもなんか違う気がして。むしろ最初から「絶対にあそこじゃないとダメ」と思わせる店づくりをしないと。

安田

ふむふむ。でもお店の外観や内装にお金をかければいい、みたいな単純な話でもないじゃないですか。もちろん商品価格を上げるだけでもだめだし。


スギタ

そうですね。それで言うと「誰が作っているか」に価値を感じてもらえるようにしないといけないでしょうね。「店」じゃなくて、「人」に惹かれる構造にしていかないと。

安田

同感です。「個人ブランディング」をどうするかが何より重要な気がします。…だってね、ここだけの話、焼き鳥で2万5000円のコースも何度か行ったことありますけど、味自体は大衆店と正直そこまで変わらないじゃないですか(笑)。


スギタ

わかります(笑)。日本はそもそも食べ物のレベルが高いから、商品自体での差別化って意外と難しいんですよね。特に焼き鳥みたいな庶民的なジャンルは。

安田

イタリアンもそうですよね。頭のどこかで「イタリアンでこの値段か…」と思ってしまう。ただね、フレンチや寿司だとちょっと変わってくる。もともと「相応の値段を出さないと美味しいものは食べれない」という先入観があるのか。


スギタ

ああ、確かに。「2万円もしたけどさすがの味だったね」みたいになることの方が多いかもしれません。お寿司ってジャンル自体が、そういうブランドを持っているのかもしれませんね。

安田

「ハレの日の値段」というか、原価も手間もかかってるのが伝わるので、腑に落ちるというか。そういう意味では今の時代だと2万円のコースって、店側としたらあまり儲からないのかもしれませんよね。


スギタ

ああ、そうかもしれませんね。もっと値上げしていく必要があるのかもしれない。

安田

ええ。2万円の焼き鳥のコースを成り立たせるより、3万5000円の寿司コースの方が難易度も低い気がしますし。


スギタ

うーん、確かに。そうなると先ほど安田さんが仰ったとおり、儲かるジャンルが限定されてきますね。他にフレンチや寿司に並ぶような「高単価OKなジャンル」ってありますかね?

安田

鉄板焼きとかはそうですよね。昔からそうですけど、目の前でステーキやアワビを焼いてくれる演出と高級食材の掛け算がよくできてると思います。ワインとの相性もいいですし。

スギタ

ああ、ワインを入れると一気に客単価も上がりますからね。…こう考えていくと、まずジャンル選びが大事なんだとわかりますね。

安田

まさにそう思います。今後はブランド化できるものじゃないと厳しいと思いますね。…そう考えるとパンよりケーキの方がブランド化しやすい気がします。「◯◯シェフのケーキ」と言われると、ホールで1万円でもありかなと思ってしまいますから。


スギタ

確かにパンで1万円ってなかなか成立しにくいですよね。一時期ネットで1斤6000円の食パン、みたいなのが流行ってましたけど、それでも6000円ですし。

安田

しかもリピートしないと思うんですよ。買っても1回、お土産用でしょう。かたや高級寿司店って、好きな人は何度も行きますもんね。

スギタ

確かに確かに。しかもそれ、海外でも同じですよね。日本以外でも「寿司は高級なもの」として認識されている。そう考えると寿司のブランド力ってすごいですね。

安田

ええ。寿司職人さんは世界に出たらいくらでも稼げますよ。店構えを日本風にこだわって作ればさらに人気が出そうですし。それに比べるとやっぱり焼き鳥ではちょっと難しいのかなと。相場感の金額がガクッと下がってしまう。

スギタ

そうですね。「これ以上は出せないな」っていう価格の天井が寿司よりはかなり低くなる。そしてそういう意味で僕らの業態は焼き鳥に近いんですよね。パン屋やケーキ屋でも、「これぐらいが限界だよね」っていうイメージが付いちゃっている。ここをどう打破していくのかが重要なんだろうなと。

安田

そうですよねぇ。でもやっぱりそこのキーワードも「ブランド化」なんだと思いますよ。既存商品をコツコツ値上げするより、「これまでとは別のブランドを立ち上げました」と始めるほうがいい気がします。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

感想・著者への質問はこちらから

CAPTCHA