第75回 料理とお酒のペアリングに隠された、変えられない「本質」

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第75回 料理とお酒のペアリングに隠された、変えられない「本質」

安田

以前からスギタさんと話してみたかったテーマがありまして。「お酒と食事の組み合わせ」についてなんですけど。


スギタ

おお、最高のテーマですね! 個人的にもすごく好きな分野です。

安田

よかった。というのもね、どこの国のお酒も、その土地の料理と見事にマッチするじゃないですか。和食には日本酒が、フランス料理にはワインが、焼肉にはマッコリが、ソーセージにはビールがピッタリ合う。これって、なぜなんだろうと思って。


スギタ

言われてみればその通りですね! それが当たり前すぎて、疑問にすら思っていませんでしたけど。安田さんはどう思います?

安田

私なりにいろいろ考えた結果、「先にお酒があって、そのお酒に合うように料理が進化していったのではないか」と思い至りまして。


スギタ

ははぁ、なるほど! 面白いですね。食事に合わせてお酒を造るより、既にあるお酒に合わせて料理を工夫する方が、はるかに自然ですもんね。すごく腑に落ちます。

安田

でしょう? 何千年も前からその土地で飲まれてきたワインや日本酒という「変えられないもの」があって、それにフィットするように、人々が知恵を絞って多様な料理を生み出してきたんじゃないかと。


スギタ

個人的にも、それが正解だと思いますね。フレンチやイタリアンにはワイン、お刺身には日本酒、みたいなベストな組み合わせは、「たまたま見つかった」わけではないと思います。

安田

そうですよね。別の言い方をすれば、料理の方がアレンジが簡単だったんだと思うんです。ワインも日本酒も長期間をかけて作るわけで、なかなか簡単には変えられない。


スギタ

ふむふむ。料理なら別の食材を使ってみたり、味付けを変えてみたりと、いろいろと工夫がしやすいですもんね。つまり食文化はお酒を軸に発展してきたわけか。すごいなぁ。まあ最近は「酒は百薬の長」という言葉も過去のものになってしまって、「少量でも体に悪い」なんて研究結果も出てきていますけど。

安田

そうなんですよね。健康志向はもちろん素晴らしいことだと思うんですが、それが極まって、文化的な側面まで軽視されがちなのはどうかなと思います。


スギタ

わかります。ただ「健康にいいか悪いか」だけで判断されたら、何千年も続いてきた食文化が台無しになってしまう。それは人類にとって大きな損失ですよね。

安田

そうそう。そういえば以前、日本酒の蔵元さんに「海外で日本酒を売りたい」と相談されたとき、「まず和食を広めるべきだ」と提案したことがあるんです。日本酒を売りたいなら、日本の食文化も一緒に売るべきだと思って。


スギタ

確かにその方が自然に浸透していきそうですもんね。日本酒だけ持っていって「さあ買ってくれ」と言っても、なかなか魅力が伝わりきらない。

安田

そうなんです。日本料理をあれこれ知って、生わさびと練わさびの違いまでわかるようになってくれば、自動的に日本酒自体ももっと楽しめるようになっていくわけで。


スギタ

仰るとおりですね。お刺身と日本酒はセットで飲みたいし、お刺身を美味しく食べるなら、絶対に生わさびの方がいい。そういう感覚は不可欠なんでしょう。

安田

そうなんです。「お酒はお酒、料理は料理」だと考えるとすごくもったいない。ビジネス的に考えても、その2つは絶対にセットで売った方がいいよなと。

スギタ

同感です。お菓子も同じで、フランスの風土や文化、材料があったからこそ生まれた「本質」がある。向こうで食べるバゲットが格別に美味しいのも、そういうことだと思うんです。

安田

まさに。変えられない歴史や文化に敬意を払い、その上で自分たちに何ができるかを考える。その姿勢が大事だということですね。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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