第79回 なぜケーキ屋はパン屋の「人手不足」を解決できるのか?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第79回 なぜケーキ屋はパン屋の「人手不足」を解決できるのか?

安田

スギタさんは長年、飲食業界でビジネスをされていますが、もし全く違うBtoBの事業をやるとしたら、どんなことを考えますか?


スギタ

BtoBですか。あまり考えたことがなかったですね。どうしても商品ありきで、toCの視点になってしまうので。

安田

スギタさんなら色々できそうですけどね。飲食業に特化した採用サービスとか人材育成、商品開発のサポートなどもありますし。


スギタ

祖父が製造卸の会社をやっていた影響もあって、法人向けに商品を卸す、BtoBtoCの形は考えたことがあるんです。駅や空港には実際に卸していたこともありますし。あとは美容院向けの商品を開発して、全国的に置いてもらえないかなとか。

安田

なるほど。あくまで商品を軸に考えるわけですね。ではもし仮に今、スギタさんが「人材ビジネスを一緒にやらないか」と誘われたらどうしますか? 飲食業界は深刻な人手不足ですから、ニーズはすごくあるわけで。


スギタ

人材ビジネスですか。正直、僕が関わることで劇的に人が採用できるようになるイメージは湧かないかもしれない(笑)。それよりも「オペレーションの改善」や「サービスの質を向上させる」という支援の方が価値を提供できる気がします。

安田

ほう、なるほど。具体的には?


スギタ

僕自身、飲食店での実務経験もありますし、ホスピタリティについても学んできましたから。現場に入ることで、より少ない人数で効率的に回せるようになったり、スタッフの気配りでリピート率が上がったり、といった貢献はできるかもしれないなと。

安田

ああ、なるほど。でもそれって結果的に採用課題の解決につながる話ですよ。例えばオペレーションが改善されて10人でやっていた仕事が7人で済むようになれば、人手不足は解消しますし。


スギタ

ああ、そうか。結局そこにつながるわけですもんね。

安田

そうですよ。あるいは客単価やリピート率が向上すれば、給料などの待遇面も上げられる。そう考えれば「採用力アップ」のサービスとして打ち出すこともできるわけです。


スギタ

ははぁ、確かに。言われてみれば、僕が初めてパン屋を立ち上げた時、同じような経験をしました。ケーキ屋での常識をパン屋に持ち込んだら、「なんでこんな非効率なやり方をしてるんだろう?」と思うことがたくさんあったんです。

安田

ほう、面白いですね。


スギタ

そこでケーキ屋の発想でオペレーションを大きく変えた結果、少ない人数と短い労働時間で、高いパフォーマンスを出せるようになって。もしかしたら同じ飲食業の中でも、そういう「当たり前の壁」を壊せる可能性があるかもしれない。

安田

まさにそれですよ。業界の人が「これは絶対必要だ」と思い込んでいる先入観を、スギタさんのような異業種の視点から覆す。それによって「待遇改善」や「採用力アップ」という、大きな価値が生まれるわけです。


スギタ

なるほどなぁ。パン屋のコンサルティングなんて、考えたこともありませんでした。でももう15年も前の話ですし、今更需要があるかどうか……。

安田

いやいや、絶対にありますよ。ちなみに商品開発の分野ではどうですか? 例えば、全く関係ないIT企業から「異業種のアイデアが欲しいので開発会議に参加してください」と依頼されたら、興味は湧きますか?

スギタ

それはすごく興味が湧きますね! 新しいことにチャレンジするのは大好きなので、ぜひやってみたいです。ただそこで僕が何か面白いアイデアを出せるかは、全く未知数ですけど(笑)。

安田

きっと出てくると思いますよ。スギタさんが現場で培ってきたノウハウと、採用や商品開発、オペレーション改善といった課題を掛け合わせれば、面白いBtoBビジネスが生まれるはずです。


スギタ

ははぁ、安田さんと話していると、いつも視界が広がります。僕らはつい「オペレーションを改善する」という目先の課題に囚われがちですけど、それが「採用課題の解決」という、より大きなストーリーに繋がるわけですね。

安田

そうそう。そのストーリーを設計するのが大事なんです。目先の課題を解決するだけでは、根本的な変化は生まれませんから。

スギタ

いやあ、本当に勉強になります。いつか現場が落ち着いて時間ができたら、ぜひ安田さんと一緒にBtoBビジネスに挑戦してみたいです。

安田

ええ、ぜひやりましょう。楽しみにしています。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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