第91回 お金だけではない、「内的報酬」という支払い方

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第91回 お金だけではない、「内的報酬」という支払い方

安田

仕事の報酬には二つあると言われていて、一つは給料やボーナスといった「外的報酬」。もう一つは、仕事そのものの楽しさや、人から感謝される喜びといった「内的報酬」です。


スギタ

ああ、なるほど。言わば「金銭的なもの」と「精神的なもの」ですね。

安田

そうそう。今は外的報酬、つまり給料がどんどん上がってますけど、それには限界がある。だから内的報酬も高めなくちゃいけないって言われているんです。そのあたり、どうですか?


スギタ

うちで内的報酬といえば、お客さんから「ここのケーキ大好き」「美味しかった」って言っていただけることがまず浮かびますね。社内のアンケートでも「この仕事をやっててよかったと感じた瞬間」を聞くとそういう声が圧倒的に多い。

安田

やっぱりそうですよね。ただすべてのお客さんがそうではなくて、一切内的報酬を払わない、つまりお店への感謝とか一切言わない人もいるじゃないですか。


スギタ

そうですね。まぁ、わざわざ言わないだけで、内心はすごく美味しいと感じてくださってるのかもしれません。単にシャイな方もいらっしゃいますしね。

安田

それはそうかもしれませんけどね。ただお店の人としても、内的報酬を払ってくれるお客さんを自然と大事にするようになっていくらしいですよ。


スギタ

ああ、でも言われてみるとそうかもしれません。特にカフェをやってたときは、お客様の滞在時間も長いし、会話の機会も多い。そうなると「今日も美味しかったよ」って声をかけてくださるお客様には、やっぱり好印象を抱きますもんね。

安田

お店の人だって人間ですから。最近行ったお寿司屋さんでも、なんで寿司屋になったか聞いたら、子どもの頃に「美味しい美味しい」って食べてもらえたことが嬉しかったからって言ってました。


スギタ

飲食業をやっている人は、そういうキッカケで始めた人が少なくないと思いますね。僕もその気持ちがすごくわかるから、お客さんとしてお店に行ったときは「ごちそうさまでした」とか「美味しかったです」とか、意識して言うようにしていますね。

安田

なるほど、素晴らしいですね。まさに「内的報酬を支払ってくれるお客さん」だ。


スギタ

いやまぁ、そんなに大層なものでもないんですけど(笑)。でも自分が言われたら嬉しいし、どうせなら気持ちのいいお客さんでありたいですから。安田さんもそういうタイプじゃないですか?

安田

そうですね。別にお店の人にえこひいきして欲しいと思ってるわけではないんですけど(笑)。料理って手間もかかりますし、仕込みとか大変ですし、本当に美味しかったときには何とか喜びを伝えたいっていう気持ちになりますね。


スギタ

すごくわかります。SNSに載せようと、写真をたくさん撮ってくれる人もお店の人からしたら嬉しいんでしょうけどね。正直なところを言えば、写真を撮り忘れるくらい夢中で食べていただけるのが一番嬉しい。

安田

ああ、なるほど。宣伝になって売上が上がるという意味では、むしろ外的報酬に近いのかもしれませんね。それよりも、「この人が来ると心がすごくハッピーになる」みたいなお客さんでありたいものです。


スギタ

確かにそうですよね。ちなみに安田さんは普段、そういう点で何か意識されていることはありますか?

安田

そうですね。基本的には作ってくれた人の想いに寄り添いたいなと思ってます。温かいものは温かいうちにできるだけ食べるとか、ゆっくり味わって食べた方がいいものはそうするし、「どういう気持ちで作ったのかな」と考えるようにしています。

スギタ

ああ、素晴らしいお客様だ(笑)。お寿司も握りたてを食べてほしい、みたいなものありますもんね。

安田

そうそう。そういうのはすごく意識しますね。トイレに立つタイミングも気にしたりして。


スギタ

いや〜、素敵なお客様だなぁ。安田さんは飲食のプロではないのに、そういう職人の心理をすごくよく理解されているんですね。

安田

どんな仕事でも根本は同じなんだと思いますよ。どうせお金を払うなら、相手にも喜んでもらって、お互いに気持ちの良い時間を過ごしたいじゃないですか。タクシーに乗った時も、仕事を外注した時も、まずは「ありがとう」を伝える。

スギタ

ああ、その考え方はすごくいいですね。

安田

人生においてはお金を稼ぐ場面より、お金を使う場面の方が多いですから。そこで感謝を伝えることで、相手にとっての仕事が単にお金をもらう手段ではなくて、それ自体が楽しいことに変わるといいなと思っているんです。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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