地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第97回 好きなことを仕事にしてもモチベーションが続かない理由

今日はあらためてパティシエという職業について、リアルな部分をお聞きしたいんです。以前もお話ししましたけど、基本的に皆「ケーキ作りが好き」でこの世界に入ってくるわけじゃないですか。

でもせっかくパティシエになったのに辞めてしまう人がすごく多いと仰っていましたよね。好きなことが仕事になったのに、なぜ続かないのか。外から見ると「毎日ケーキに囲まれて羨ましい仕事」だと思うんですけど…。

もちろんケースバイケースなんですが、実際に現場に入ってみると、待っているのは毎日同じ仕事の繰り返し。うちのような小規模店ならまだしも、大きな繁盛店になると分業が徹底されていますから、尚更です。

例えば「ロールケーキ担当」になったら、もう朝から晩までひたすらロールケーキを巻き続けるんです。来る日も来る日も、毎日毎日、朝から晩までロールケーキ。そうなるとやっぱり人間、飽きてくるんですよね。

ええ。握る人、巻物を作る人、お刺身の準備をする人と分かれていて。巻物担当の人は若いのに巻き方がめちゃくちゃ上手なんですよ。「すごい技術だなあ、いい仕事だなあ」なんて当時は呑気に見てましたけど、今の話を聞くと、あれは本人にとってはなかなかキツイ仕事だったのかもしれませんね。ひたすら巻物を巻き続けるわけですから。

そう思いますよ。お寿司ならまだネタや作るものの種類があって気分転換になるかもしれませんが、ケーキ屋さんの工場では本当に「同じもの」を作り続けることになるので。しかも量も半端じゃないですから。巨大なボウルで卵を泡立てて、手で混ぜて、という重たい作業を延々と繰り返すことになります。

そうなんです。それに経営的な視点で言うと、機械が止まっている時間はコストでしかないので、ミキサーは常に回し続けなきゃいけない。何か物が入っていないと電気代の無駄ですから。そうなると人間も機械の一部として、止まらずに動き続けることが求められるんです。僕が修業していた繁盛店もそうで、ひたすらカスタードクリームを炊くだけの人とかもいましたから。

そうなんです。接客もお客様とのやり取りですし、商品を覚えるという意味ですごくいいことだとは思うんですけど。やっぱり「ここでケーキを作れるようになりたい」という憧れを持って入った子からすると、「いつになったらケーキを作れるんだ」と心が折れてしまう。

そうなんですよ。それにいざ作れるようになっても、仕事としてお金をもらうようになった瞬間、大好きだったお菓子作りが「やらなければならないこと」に変わってしまって、だんだんつまらなくなっていくという側面もあります。

ははぁ、趣味と仕事の違いですね。切手収集が趣味の人がいたとして、それを仕事にしたら楽しくなくなるのと一緒なわけだ。私もジムでお金を払ってトレーニングしてましたけど、お金をもらって重いものを運ぶ仕事は嫌ですもん(笑)。お金をもらうと逆につまらなくなるというか。

確かに(笑)。うちの娘もお菓子作りが大好きで、よくキッチンを占領して作ってるんです。ストレス解消になったり、楽しかったりするらしいんですよ。でも「将来パパのお店をやりたい?」って聞くと、「絶対やりたくない」って即答しますから(笑)。

笑。半年くらい現場に入れたら、お菓子作り自体を嫌いになっちゃうかもしれないですね。私も包丁研ぎが好きなんですが、これが仕事でお客さんの包丁を1日100本研がなきゃいけないとなると、多分嫌いになりますよ(笑)。

切れなかった包丁がスパスパ切れるようになる達成感がいいんですよ。でも料理に関しては、子どもができてから苦痛になっちゃって。子どもって結構好き嫌いがあるじゃないですか。そうすると、子どもが食べる料理の中でローテーションを組まなきゃいけない。

そうなんです。「今日は何にしようか」って考えて買い物をして、毎日同じようなものを作っていると、料理が好きだったはずなのに苦痛になってきちゃって。そう考えると、スギタさんは毎日同じものを作っていて飽きないんですか?

僕の場合は、性格的に「微細な変化」を楽しめるタイプなんだと思います。毎日同じものを作っているとはいえ、お菓子作りやパン作りってどうしても物理現象というか、ちょっとした混ぜ方や温度で状態が変わるんですよ。

そうです。少しでも何かが変われば、結果に出るので。昨日よりちょっといい状態にできたとか、そういうのを注意深く見ていくのが個人的には楽しいというか。だから勝手に自分のチーズケーキを「サグラダ・ファミリア」って呼んでるんですけど(笑)。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。


















