第111回 新卒を自社で育てる時代は終わった?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第111回 新卒を自社で育てる時代は終わった?

安田
日本ってほとんどの人が「社員を育てるのは会社の仕事」と思っている気がするんです。特に新卒はその傾向が顕著です。面接で「御社はどのように私を育ててくれますか?」なんて言ってくる学生さんもいるらしいですよ(笑)。

鈴木
会社に育ててもらうのが当たり前だと思っているわけだ(笑)。
安田
そうそう。実際に経営者の中にも、「人を育てることは会社の責任であり役割だ」と思っている人が多いと思っていて。『のうひ葬祭』の経営者である鈴木さんは、これについてどう思われますか?

鈴木
うーん。まぁ正直な話をすると、「最低限の社会人マナー」を会社が手取り足取り教える必要はあるんだろうか、と思いますよ。個人的にはそれは「子育て」の一貫だと思っているので。
安田
ああ、同感です。でも実際に今でも新卒採用してから2年くらいは、名刺の渡し方や電話の取り方、さらには敬語に至るまでみっちり研修するじゃないですか。

鈴木
なんでそういうのを学校で教えないんでしょうね? 大学が就職を斡旋しているんだから、先に最低限のビジネスマナーを教えておけばいいのに。大学のカリキュラムに必須で入れておくべきだと思いません?(笑)
安田
仰りたいことはよくわかります。ただ大学は本来、専門性の高い学問を学ぶ場所であって、就職するために行く場所ではないですからね。…と言いつつも、実態は「日本の大学=就職予備校」になっているわけですが(笑)。

鈴木
でしょ?(笑) 最近の大学生ってほとんど3年生までに必修単位の取得も済んでいるじゃないですか。で、内定ももらって「よし、学生生活の最後は遊ぶぞ〜!」となる前に、ビジネスマナーをしっかり学んでいただく、と。
安田
いいですね。実際に最近では、高等専門学校(高専)や専門学校出身者の方が人気があるそうですからね。卒業した時点ですでに即戦力に近いスキルが身についているので、そういう人のほうが企業側もラクだということで。

鈴木
その方がいいですよね。超有名校以外、「大卒」という肩書を得るために大学に4年間も通うのって、どう考えてもコスパが悪い。それだったら前に安田さんが仰っていたように、早々に「社長」という肩書を得た方がいいかもしれないですね。
安田
そうなんですよ。「超有名大学卒」という肩書がない人は、さっさと社長になって起業して実績を作れば、結果として就職の時にめちゃくちゃ有利になると思いますよ。

鈴木
そりゃそうだ。企業側だって「有名大学卒だけどビジネスマナーは全く身についていません」という学生より、「無名大学卒だけど学生時代に年間3000万円の利益を上げてました」という学生の方が採用したいでしょうしね。
安田
同感です。そういう意味でも、大学もより専門的なカリキュラムを作ってくるかもしれないですね。それこそ「営業部」とか「マーケティング専攻」とか「SNS部」とか(笑)。

鈴木

いや、いいと思いますよ。実際人気出るんじゃないかな。

安田
ええ。ちなみに今って初任給がどんどん高くなっていますよね。特に大手は先陣きって高い給料を払って新卒を囲い込み、「先行投資」で育てているのが現状。私は、今はまだそのスタイルでもいいと思っているんですが、今後は二極化すると考えているんです。

鈴木
ほう、二極化ですか。
安田
そう。どうやっても自社で欲しい学生=即戦力になれる学生には、初任給を35万円、40万円とどんどん上げてでも採用する。でもそれ以外の学生は、今までより低い給与でしか採用しないという。

鈴木
は〜、なるほど。要は「一括採用」「一括育成」ってシステムじゃなくなるってことですね。でも確かに人材紹介だってそうですもんね。スキルの高い人に来てもらいたければ、報酬もたくさん出さないと来てもらえない。
安田
そうそう。「大卒」の資格を得るためだけに大学に進学して、4年間をのほほんと過ごしてきた学生に対して、高い給料を払いながら育成をするのは、どう考えても理に適っていない。ちなみに鈴木さんは経営者として、たとえ無名のFランク大学生でもこのスキルさえあれば採用する、みたいな基準ってありますか?

鈴木
どうやろうなぁ…。僕からしてみれば、学業じゃなくてもなんでもいいから「没頭していたこと」や「これだけは誰にも負けない自信がある」みたいなことがある学生を採用したいですね。それこそ学生時代に起業した経験がある子はすごく興味が湧きます。「経営者視点」で話ができると思うので。
安田
なるほどなるほど。決算書も読めるし、企画書や提案書なんかも作ってきたでしょうしね。さらに自社サービスを売るためのマーケティング力や営業力なんかも持っているかもしれません。

鈴木
そう考えると、大学時代に起業をするっていうのは、その後の就職を有利にするための1つのキーワードになるのかもしれませんね。
安田
いいですねぇ。鈴木さん、学生が社長になって会社を作るのをサポートする新規事業、一緒に立ち上げてみましょうか(笑)。

鈴木
面白そうですね。じゃあ美濃加茂市でやってみますか!(笑)

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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