第135回 故人を「AI復活」させる?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第135回 故人を「AI復活」させる?

安田
最近、亡くなった人をAIで再現してくれるサービスが出ているってご存知でした?

鈴木
はいはい、なんか見たことあります。ちょっとした物議を醸しているみたいですね。
安田
そうなんですよ。大切な人を亡くしたショックを緩和できるって人と、逆にすごく執着が残ってしまうことを危惧している人と、賛否がかなり分かれているらしいです。

鈴木
亡くなった本人の気持ちもありますよね。本人は果たしてAIとして再現されることを望んでいたのかどうか。
安田
仰る通りで。実際に美空ひばりさん手塚治虫さんのAIがあるんですけど、「こんなんじゃない」って意見が多いらしいです。特に身内の方からの反対が強いらしくて。

鈴木
本人が「AIで蘇らせてくれ」って言ってたなら別ですけど、亡くなった後にはもう本人の意思を確認できないですもんね。
安田
ちなみにアメリカでは8割が「故人のAI再現には反対」なんですって。そういうものへのタブー感が強いみたいで。

鈴木
へ〜、ちょっと意外ですね。アメリカこそ、そういうことをやりそうなのに。
安田
ちなみに鈴木さんはどう思います? 亡くなった人をAIで復活させることについて。

鈴木
僕は敢えてやらんでもいいんじゃないかなぁと思います。AIでどれだけ緻密に再現したとしても、他人の手が介在している以上、それは本人ではない。故人は決して生き返らないんですよ。逆に言えば、遺された人は「その人のいない世界」をしっかり生きていく必要があるわけで。
安田
ふ〜む、なるほど。じゃあ仮に今、鈴木さんが20代だったとして、お子さんたちもまだ小さいのに余命があと数年しかないとしますね。で、奥さんから「子どもたちのために、あなたのAIを作って残してあげて」って言われたらどうします?

鈴木
「それはあなたから伝えてよ」って言います(笑)。AIなんて残しません(笑)。
安田
やっぱりそうですか(笑)。とは言え、今のAI技術ってどんどん進化しているじゃないですか。実際、生きているうちに様々なデータを取り込んでおくことで、本人の思考に限りなく近いAIができるみたいですよ。

鈴木
あぁ、なるほど。確か以前の対談でも「社長の分身AIを作ればいい」って話、しましたよね。
安田
そうそう。だから例えばアインシュタインとか織田信長とか田中角栄とか、そういう偉大な人物たちのAIであれば、「人類の資産」として存在していてもいいような気もしていて。鈴木さん、このあたりはどうですか?

鈴木
う〜ん。古い考えかもしれないけれど、僕は本や書物で残していけば充分なんじゃと思いますね。
安田
わざわざAIでリアルに再現させる必要はない、と?

鈴木
というか、そもそも「誰かに直接アドバイスを求める」というスタンスは違うんじゃないかなと。彼らの言葉や意見を受け取って、その上で「自分の頭で考える」ということが必要なわけで。
安田
なるほどなるほど。すごくわかります。

鈴木
でしょう? 例えば聖書の中の話も、実際にイエス・キリストが言ったかどうかわからないけれど、数々の逸話を聞いた人たちが自分なりに解釈して広めていったからこそ、ここまで広まったと思うんですよ。
安田
確かに。もし99.9999%、イエス・キリストと同じ判断・同じ発言をするっていうAIがあったとしたら、ここまでのものになってない気がします。いろんな人が自分の頭で考えて、それを本に書いたり言葉で伝えていった。だからこそ今のキリスト教があると。

鈴木
そういうことです。だから僕としては、むしろ書物のほうがいいような気がするんです。
安田
私は、自分で書いたメルマガをたくさんネットに投稿していますけど、その理由が、言葉はずっと残るから、でして。100年前200年前にこんなことを書いていた人がいるんだな、というのをずっと残したいんです。でも仰るように、それは文字として残れば充分なんですよね。

鈴木
やっぱりそうですよね。もしかすると今後は、生前から「死後にAIにはしないでくれ」っていう意思表示も必要になるのかもしれない(笑)。
安田
本当ですね(笑)。鈴木さん、ぜひエンディングノートには、財産分与やお墓とか仏壇だけでなく「AIでの復活」についても触れる項目を入れておいてください!

対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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