この対談について
株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。
安田
今日は「相続」のことについて鈴木さんにお聞きしたいことがあるんです。というのも最近、「農地の相続」で困っている人が多いらしいと聞きまして…。
鈴木
あぁ、よく聞きますよね。親が農家をやっていたけど、自分は継がなかった場合の相続とか。
安田
そうですそうです。100坪くらいの農地があるけれど、現実問題としてそれを相続しても活用できない。かといって
「相続放棄」をするなら、農地以外も放棄しなくちゃいけなくなるじゃないですか。
鈴木
相続は「0か100か」なので、そうなりますね。だからほとんどの人は、モヤモヤしつつも結局相続することになる。
安田
ええ。だから相続後に「無料でいいから誰かこの農地を使ってくれ」って思っている人も多いらしくて。で、それを聞いていたら、なんだか「空き家」と似ているなと思ったんです。…ちなみに鈴木さんのやられている
『相続不動産テラス』にも、こういった案件の相談はきますか?
鈴木
きますね〜。「空き家と一緒に農地も全部もらってください」って相談されるんです。でもね、実は農地って
一般の人は買うことができないんですよ。
安田
え、そうなんですか?
鈴木
はい。
農地法で「農業従事者でないと農地は買えない」と定められていて。自治体によっては特例もあって、例えば僕のいる
美濃加茂市は「相続する場合に限って」一般の人でも農地が買えるんですけど。でもそれはあくまでも「家」とセット。
安田
…ということは、「農地だけを売りたい」っていうのはダメ?
鈴木
ダメなんです。農地を売りたいんであれば、「相続した家」とセットで売り出すしかない、というわけです。
安田
ははぁ…「家は必要だけど農地はいらないから売りたい」は通らないということか。それって例えば家と農地の距離が離れていたとしてもダメなんですか?
鈴木
ダメです。多少の距離があったとしても、「その農地を維持するための家なんだ」と見做されてしまいます。ちなみに農地って、相続したら「農地」としてしか利用できないんですよね。
安田
え、そうなんですか。じゃあ相続した農地を、勝手に潰して駐車場にしちゃうのもダメ?
鈴木
ダメです(笑)。「農地除外申請」をすれば農業以外の用途でも使えるようになるんですけど、なかなか大変なんです。
安田
そうなんですねぇ。でもそんなに難しいなら、そもそも農地を購入したいって人があまりいないんじゃないですか? 仮に家がついてくるとしても。
鈴木
仰るとおりです。だって実際問題、その家と土地を買う=「農業をしなきゃいけない」ってことなんだから(笑)。ちなみに相続が大変な土地として「山」もあります。
安田
山なんて、そのまま放置しておけばよさそうですけど。
鈴木
でももし山で何かがあったら、持ち主の責任になってしまう。だからある程度の管理は必要になるんですよ。木を間引きしたりとか。
安田
そうか、それはなかなか大変そうですね。間引きといっても、素人が簡単にできるものでもないだろうし。
安田
フォレンタ? なんですか、それ。
鈴木
自分の持っている山を区画に分けて、それを年間数万円で貸し出すんですって。借り主は、そこでキャンプしたり焚き火したり遊んだり…みたいな使い方をする。都市部の人がこぞって借りているそうですよ。
安田
へぇ〜面白いビジネスですね。借りるだけなら精神的負担も少ないし、山の持ち主としてもお金が入ってくるわけですから、Win-Winだ。でも、農地はなかなかそんなふうにはできなさそうですね。
鈴木
そうなんです。だから国は真面目に「農地を活用していく道」を探さなきゃいかんやろうと思いますね。実際今の日本って
食料自給率がすごい低いわけで、本当は今こそどんどん農地で食べ物を作るべきなんですけど。
安田
本当ですね。一度国が買い上げて、農業をやりたい人にすごく安い値段で売ってあげるのもいいかもしれない。
鈴木
なるほどね。「何年以上農業をやり続けてくれたら、その農地はあなたのものになりますよ。だからちゃんと耕作してね」っていう。
安田
そうそう。そうやってもっと臨機応変に国のルールも変わっていけばいいんでしょうけど。日本はそういう面での柔軟性がないのが残念ですね。
対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役
株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。
