泉一也の『日本人の取扱説明書』第41回「内向型の国」

日本ではその苦しさが基本にあるので、俳句、能、禅といった文化活動で、その苦しさをうまく緩和しながら、内向型が幸せに表現できる世界を作り上げた。これらの文化は日本の独特の資産になっている。一方、生計を立てるこの社会は外向型の主戦場であるため、内向型が埋もれてしまっている。内向型は見える化できないので、評価の指標がなく、その本人も自己の肯定感が低くなる。評価されずさらに自己肯定感を下げているというのは、宝を粗末にしているということ。

俳句、能、禅的なものが、経済活動の中にあれば、内向型は自由に表現して幸せに生きていける。早くに引退せずとも、もっと自由に表現ができるのだ。言葉少なく、顔も見せず、じっとしていることに価値が生まれる。そこでは、外面的なプロダクトよりも内面的に醸成されるものが価値となる。そういった価値を生み出し流通させる。そこで生計が得られるようになった時、外向と内向の共存が果たされる。

外向型な人は外交的、社交的で花がある。発信し、人々を先導することができる。多くの人を巻き込むこともできる。一方、内向的な人は、自分の世界観を醸成することで、新しい文化を生み出すことができる。外向型の人が商人となって、内向型の職人が生み出したものを流通させることができる。今、日本では内向の宝が粗末にされていて、職人たちがどんどん減っている。ものづくり日本が危うい。

日本語では人材育成を能力開発というが、「能」という言葉があるように、本来の日本の教育は内向の力を開発することなのだ。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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