泉一也の『日本人の取扱説明書』第46回「身体の国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
ある人物を紹介しよう。
「A君は相手のことなど気にせず物を言う。他人から言われたくない弱点をズバズバ言うが、どういう訳か説明が上手。自分に言われると気分が悪くなってムカつくが、人をこき使うような厚かましい輩にもズバッと言いよるから、すっきりする。尊敬しているやつだが、付き合うのはホント大変」
イメージが湧いただろうか。同じ人物を別の表現で紹介しよう。
「A君は歯に衣着せぬ物言いをする。耳が痛いことをスバズバ言うが、どういう訳か口がうまい。自分に言われると胸糞悪くなって腹が立つが、顎で人を使うような面の皮が厚い輩にもスバっと言いよるから胸がすく。一目おいているやつだが、付き合うのはホント骨が折れる」
印象の違いがわかるだろか。後者の方が、A君により「人間味」を感じたはずである。紹介する側の「A君への親近感」も感じただろう。この違いはどこからきたか。そう、後者では歯、耳、口、胸糞、腹、顎、面、胸、目、骨といった体の部位の慣用句を使ったのだ。この身体を使った比喩表現で肌感覚が伝わる。なんともすごい言葉である。
言葉にも表れているように、身体感覚の繊細さは日本文化に根ざしている。手先が器用なのも関係しているだろう。武士道では「腹腰」を大切にする。腹を割る、腹を括る、腹を切る、腰を据える、本腰を入れる。及び腰ではいけないのだ。武士は日常から文武を通じて、腹腰の中心にある丹田を鍛える。現場で体を張らず、口だけの評論家が嫌われるのは、武士道が残っているからだろう。
しかし現代は、身体表現がいかに巧みでも評価されない。日常ほとんど使わない英語は巧みだと評価され、血の通ってないロジカルシンキングがはびこっているのは首をかしげたくなる。本来の日本語を学んでも評価されないのは、日本という国の礎が崩れているからだ。日本語を苦心し伝承してきた先祖の涙に沈む姿が見えるだろう。もし見えたなら、日本人としての血が騒がないだろうか。
ここまで読んで腑に落ちただろうか。このコラム「目の付け所がシャープだな」と膝を打ったはずだ(ドヤ顔)。そんなシャープも台湾の企業に買収された。こうして日本文化は海外に売られている。京都に訪問する日本人が減り、外国人が増えているように外国人が買い占め出した。なぜなら、日本人は敗戦で骨抜きにされたので、その価値を知らないからである。このテーマになると鼻息が荒くなって、お尻が見えなくなる。いかん、いかん。もう読者はお腹いっぱいだろうからここら辺でやめよう。
このコラム、少しでも日本人の骨身にしみれば本望である。
泉 一也
(株)場活堂 代表取締役。
1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。
「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。