泉一也の『日本人の取扱説明書』第50回「間の国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
「こんにちは」と「さようなら」。この言葉の語源を知らないと「ボーっと生きてんじゃねーよ」と5歳の女の子に怒られます。毎日使っているのに、説明できる人はほとんどいないでしょう。
子供の頃に挨拶の基本としてたたき込まれますが、なんでそんな言葉やねん!?と「疑い」を持つ人は意味を探そうとします。疑いを持たない純粋な人は、言われたまま思考停止させます。反発をする人はただ嫌だといってこれまた思考を停止させます。唯一「疑い」という不純物を持つ人のみ思考を発展させて本質へたどり着くのです。
本質とは言葉に潜む日本文化。人と関係を結ぶ起点となる挨拶に、日本人がどのよう関係性を築いているのかがわかる。「こんにちは」は「今日は」。つまり「今日は」という主語を言って終わっている。今日がどうかその続きは省略しているのだ。今日はいい氣分なのか、いい天気なのか、何も言わない。「さようなら」は「左様なら」という接続詞だが、そのあとの言葉がない。省略しているとしたら、こんな言葉だろう。
こんにちは、
お元氣ですか?
おかげさまで元氣です。
左様ならご機嫌うるわしゅう。
邪魔くさくて全部を言わなくなったという理由もあろうが、露骨に全部言わない方が美しいというのが本質だろう。言わないのに感じ合うやりとり。言わないけど伝わり合う美しさ。これが「お淑(しと)やか」なのだ。お淑やかとは穏やかな美しさである。穏やかとは表にでない隠れた安心感。隠れた安心感に品がある。「こんにちは」と「さようなら」は、品のある隠れ挨拶なのである。
HelloはHi!と同じで相手を呼び止める言葉。Good morningは相手が良い朝でありますようにという祈り。Good byeはGod be with youの省略形なので、これも相手への祈り。英語の挨拶は私からあなたへという矢印がしっかりしている。日本では私と相手の間を曖昧にして感じ合う。関係性を築く入り口が全く違うことがわかっただろう。
日本人は漠とした「間」に文化を作ってきた。西洋人はこの日本人の曖昧さに苛立ちを覚えるが、それは致し方ない。日本人は西洋人の露骨な主張に品の悪さを感じるが、それも致し方ない。私のように英語がどうしても自分の感性に合わない人は日本人らしいとも言える。ぜひ誇りにして欲しい。
挨拶という常識を疑うことで、日本文化をより深く味わえ、他国の文化を理解できたように、「疑い」という不純物が成長のスタートである。このコラムをここまで読んで、ほんまかいな、うまいこと納得させられただけじゃないかと感じたら、それは成長の原点である「疑い」を持っている証拠である。
疑いがない真っ白な人材は教育しやすい。そういって新卒採用をしている会社があるが、左様なことをしていたらその会社の未来は・・・。本当に「さようなら」な会社なのである。
泉 一也
(株)場活堂 代表取締役。
1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。
「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。