泉一也の『日本人の取扱説明書』第65回「まじめの国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第65回「まじめの国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 

まじめに勉強しよう、まじめに練習しよう、まじめに働こう。

この「まじめ文化」はどこから来たのか。結論からいうと、『失敗への不安』からである。今の日本人は失敗への不安がエネルギー源となっている。『失敗しないように』地道に丁寧に事に臨む。そのまじめさが高品質の商品やサービスを生み出し、倫理観を高めている。

が、こういった「まじめさ」が生み出す価値は、次第にAIとロボットにとって代わられることになる。まじめさでは24時間営業の機械には到底勝てない。

さらにまじめは面白くない。なぜなら不安が動機付けだからだ。生物は自己防衛のために不安という感情を得たわけだが、その不安=防衛をメインにすると、サッカーでいえば守ってばかりのチームなので、ゲームはつまらなくなくなる。そのチームは負けないが、勝ちもしないので徐々に人氣は低迷しチーム自体が消えていく。このままいくと、日本という国は消滅していくだろう。

ここまで読んでどうだろう。日本ヤバイ!どうしたらいいの!?と不安にならなかっただろうか。もしそうなら「まじめ病」にかかっている。なので、そのまじめを逆手にとって、まじめに次を読んでほしい。

不安(守り)を起点としたのはトラウマがあるからである。高所恐怖症は、高いところで怖い思いをした経験が心と体に残り、その時の感覚がいつまでも抜けないのだ。高所は怖いから近寄らない。確かに、怖い思いもしないし、危険を回避しているからいいのであるが、その分世界を狭め、チャンスを失う。

三大心理学者の一人、アドラーはいう。「トラウマなどない」トラウマは幻想である。その幻想にとらわれるのが人間なのだが、この幻想を幻想と認識したら、そのトラウマは消えていく。子供が夜寝る時、天井を見て「お化けがいる」と怖がっていても、電氣をつけたらお化けに見えたのは天井のただのシミとわかり、さらに天井をかけるネズミのオシッコとわかれば、トラウマは次第に消えていく。では電氣をつけてみよう。

日本人の心の根っこにクサビのように刺さったトラウマという幻想。それは、日本最大の失敗、太平洋戦争の敗戦である。明治、大正、昭和と飛躍的に成長し、国は一体感と高揚感と自信に満ち溢れていた。それが、太平洋戦争を経て、愛する家族を失い、食べ物を失い、住む家を失い、挙句に国への信頼をも失った。その喪失感たるや想像を絶する。おそらく日本史上最大のトラウマとなっただろう。

そのトラウマが未だ解消されておらず、日本人の根っこに突き刺さっている。戦争を知らない我々の世代にも、不安の動機付け教育と上の世代への共感を通して、確実に世代間連鎖している。

であるのにも関わらず、なぜ戦後も飛躍的に国は成長をしたのか。それは、ボロボロになった時に救ってくれたアメリカに追従したからである。鬼畜米英に無条件降伏をした後、どんな地獄が待っているかと思っていたら、占領されてもたいして何もなく、逆に自由で豊かになっていくではないか。さらに失望した国(政府)の幹部たちを断罪し、心の象徴天皇はお咎めなしにしてくれた。失恋した後、優しく接してくれた強くたくましく養ってくれた人に心を許したのだ。敵国への怒りよりも、自国への失望がはるかに大きかった証である。

さらに時代はまじめを求めた。世界中で工業化の波が起こり、標準化と大量生産が中心になった。そう、まじめが大活躍できたのだ。根っこは不安であるが、活躍したことでその不安を消すことができた。そして時代はまじめを機械に代替させるようになり、活躍の場が徐々に消えているのが今である。

さあ電氣をつけてみて、何が見えただろう。天井のシミに見えてきただろうか。いや、そんな簡単なもんじゃないですよ、とまじめな回答が返ってきそうである・・

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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