泉一也の『日本人の取扱説明書』第96回「金が腐る国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第96回「金が腐る国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

腐ると臭い。臭いが美味しい。日本人はそれを知っているので、豆腐を食らう。豆腐は豆を腐らせているわけではないのに、豆が腐ると書く。

腐っている豆は豆腐ではなく、納豆。

煮豆を神棚にお供えしたところ、しめなわに付着していた納豆菌が働き、豆が変に腐った。勇氣がある人物なのか食い意地がはっていた輩が口に入れた。「美味しいやないか!」これが納豆の誕生説である。

神に納めた豆なので「納豆」というのだが、腐った豆に価値が生まれた。神様が「腐るという価値」を与えてくれたのだ。現代ではこの腐る現象が「発酵」であると分かっているが、昔の日本人は「腐る価値」は自然の豊かさであると知っていた。ただその豊かさを得るには、神の力(自然の力)を借りて「腐らせる」ことが必要であると。

逆に腐らないものは不自然である。腐らないものは豊かであるように感じるが、本来は豊かでない。保存料がたくさん入っている食品が売れなくなったのを見てもわかるだろう。「保存料無添加」の表示が目立つ。

自然界の中で最も腐りにくいものはゴールド(金)である。今わかっている自然界の中で最も酸化しにくい(錆びにくい)物質である。

日本人はそのゴールドに「お」をつけて「お金」と呼ぶ。価値を交換する道具(=貨幣)のことをお金と呼ぶ。お金は腐らない。さらに人類はお金を放っておいてもその価値が増える仕組み(=錬金術)を作った。「複利」という金利システムである。金融機関にお金を預けると、指数関数的にその価値が増えるのだ。自然界とは真逆である。昔の錬金術師たちはゴールドを科学的に生成しようとし、ことごとく失敗したが、遂にmoneyを仕組みで増やす「金融」を発明したのだ。

漫画「鋼の錬金術師」は、ゴールドでなく「命」を錬成させようとする物語であるが、人間のお金に対する強欲さを命に対する強欲さに置き換えて表現している、素晴らしい作品である。

世界はこの金融システムの中で、お金という不自然な道具を元に、価値の交換という経済活動をしている。お金とは人間の強欲「もっと欲しい」が投影される不自然な道具であることを忘れてはいけない。そう、自然界には存在しない「腐らないもの」を使って、強欲を流通させながら命を生かしているのだ。

日本人はその不自然さを知っていたので、お金中心の経済を作らなかった。日本人が選択したのは「米の経済」である。加賀百万石というように、今でいうGDPをお米で表し、米中心の経済にしたのだ。藩を統治する武士たちの給与は米であり、その量を「石(こく)」で表した。

米は腐る。保存はもって5年。腐るからだれも溜め込まない。5年以内には使い切る。自然界のルールに合わせて、価値を交換したのだ。米とお金の違いはそれだけでない。お金は便利だが、そのお金には作った人や稼いだ人たちの「想い、汗」は感じられない。お米からはそれが伝わる。なぜなら、田んぼで働いているお百姓さんと、その仕事を通して育っていく美しい稲を見ているからだ。

「金持ち父さん貧乏父さん」とかいう本が売れていたが、働かないでお金を得るという不労所得の世界を描いていた。自然界の法則とは真逆であることがわかるだろう。

鋼の錬金術師でも描かれていたが、「強欲」と「人間の知恵」の先にあるのは、破滅である。自然界という大きな力に浄化される。同じく金融という錬金術の先にあるのは、破滅である。マルクスとその後をついだエンゲルスは「資本論」にて、恐慌が起こる必然性を説いたが、金融資本主義の成れの果ては、目下我々が体験しようとしているところである。

鋼の錬金術師のように、破滅を最小にとどめ、そこから学びを得ることが人間にはできる。危機に瀕して学び進化してきたのが人間だからだ。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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