全く同じ商品やサービスを高い値段で売ったら、
売れるはずがない。
当たり前の話である。
同じ品質のものを、いかに安く生産するか。
管理を徹底し、無駄を省き、ミスをなくす。
競争力を高めるための経営努力。
それなくして市場で戦えないことは明白である。
だがその努力が、
経営者のやるべき最低限の努力であることも確かだ。
無駄なコストをかけず、安くて良い商品を顧客に届ける。
物が不足し、人口が増え続けるような時代であれば、
それで十分だったのかもしれない。
しかし、今のような人口減少社会、
そして物が溢れる社会においては、不十分と言わざるを得ない。
利益を確保するためには、
もう一手先の経営努力が必要なのである。
その一つが、更なる価格競争力のアップ。
すなわち安売りである。
一円でも安く売ることが健全な経営努力である
と考えている経営者は多い。
だがそれは間違いである。
きちんと経営努力をした上での適正価格。
それを更に下げようとすると、
企業は疲弊のスパイラルに巻き込まれる。
なぜなら、それ以上の安売りには、従業員や外注先、
仕入先の犠牲が不可欠だからである。
出来るだけ安い費用で、出来るだけ多くの仕事をさせる。
その結果が今のデフレ社会である。
販売先や納品先から押し付けられた安い仕事を、
今度は自分の仕入先や外注先に押し付ける。
その負の連鎖が、この社会を生み出しているのだ。
そしてこの連鎖の最も大きな問題は、
誰も儲かっていないということ。
もちろん、一部の会社は儲かっている。
大きなマーケットを抱え、負の連鎖の頂点に立つ会社。
安い代わりに大量に販売する会社だけが儲かっていく。
劇的に販売量が増えるのならば、値引きするのもいい。
だが販売量が増えず、
小さなマーケットでビジネスをしているのなら、
適性以上の値引きは自殺行為でしかない。
無駄をなくし、ミスを減らすことによって、価格を下げる努力。
それは健全な経営努力である。
だが健全と言えるのはそこまで。
経営者が次にやるべきは、高く売るための努力である。
ここに取り組まない限り、
小さな企業は絶対に豊かにはならない。
高く売ることができれば、従業員の待遇は良くなる。
採用力も高まり、人手不足による苦労からも解放される。
仕入先や外注先にも適正な費用が払えるので、
優良顧客として大切にされる。
いいこと尽くめなのである。
まず、自社の顧客をじっくりと眺めてみる。
安いという理由で選んでいる顧客が大半かもしれない。
だが必ず、安さ以外の理由で選んでいる顧客がいるはずだ。
その顧客にとことん寄り添ってみる。
どんな価値を感じてくれているのか。
どうやったらその価値はもっと大きくなるのか。
高く売るためには信念が必要だ。
なぜ高いのか。
何を妥協したくないのか。
商品やサービスのクオリティと、それを支える人たちの待遇。
絶対にそれを妥協しないという信念。
それがきちんと伝わった時、
価格以外の理由で選んでくれる顧客が増えていくのである。
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