価値と価格の境目

バンクシーの絵が29億円で落札された。
なぜあんな落書きが29億円もするのだ!
と疑問が浮かぶ人は多いだろう。
だがもっと驚くべきことは、この絵が3年前に
破壊されてしまった絵であるという事実である。

この絵は3年前に1億7000万円で落札されたのだが、
落札した瞬間に額縁に仕込まれたシュレッダーによって
バラバラに裁断されてしまった。
やったのは作者であるバンクシー本人であるらしい。

社会風刺を信条とする彼にとって、
「こんな絵に1億7000万円も払うやつはバカだ」
というメッセージを込めたのかもしれない。

その瞬間オークション会場はシーンと静まり返り、
そして沈黙は絶叫へと変わった。
なにしろ1億7000万円が一瞬にして
ゴミになってしまったのである。

ところがである。
3年後にそのゴミは20倍近く値上がりしてしまう。
3年前に裁断された【赤い風船に手を伸ばす少女】
という作品は、3年の歳月を経て【愛はゴミ箱の中に】
という作品に生まれ変わっていたのである。

人間というのは本当に不思議な生き物だ。
落書きに1億7000万円を支払った上に、
それが切り刻まれたものに29億円を支払ってしまう。
切り刻んだバンクシーは喜んでいるのやら、
がっかりしているのやら、
一度聞いてみたいものである。

とにかく人間相手の商売というのは面白い。
そしてとことんバカバカしい。
エッセンシャル・ワーカーの給料が安すぎると問題に
なっているが、まさに人間の本質がここにある。
高いものと安いもの。
それを冷静に見比べてほしい。

水、電車、日々の食事、生活するための普段着。
生きていくため必要不可欠なものほど安い。
純米吟醸酒、宇宙旅行、高級フレンチ、
穴の空いたビンテージデニム。
なくても困らない不要なものほど高い。

価値と命はつながっていない。
価格と必要性もつながっていない。
それが現実なのである。
なんのために働くのかという問いに対して、
多くの人は生きていくためだと答える。
無駄なものを買い漁るのは
一部の富裕層に過ぎないのだと。
それは事実だろうか。

多くの人は本当に必要なものにしか金を使わないのか。
たとえばディズニーランドは必要なのか。
SNSやスマホゲームはどうだろう。
マンガも映画も不要ではないのか。
旅行はどうだ。音楽はどうだ。

人間はいったい何を買っているのか。
何にお金を払いたいのか。
経営者はよくよくここを考えなくてはならない。

 

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