【コラムvol.9】「抽象的な話はするな」と叱る部長は、
「単細胞バカになれ」と
部下に命じているも同然です。

「ハッテンボールを、投げる。」vol.9  執筆/伊藤英紀


 

単語は、最小の言葉。そう思い込んでいる人がいる。しかし、そのとらえ方は間違っている。単語は、じつは抽象的な“概念”であり、より細かく分解=噛み砕くことができるのだ。

にも拘わらず、そこに気づくことなく、人と人が単語の単純な連なりで会話をして、「自分は的確な言葉を駆使して対話している」と、思い込むとどうなるか。

会話は噛み合わず、コミュニケーションは成立しない。会話はまったく深まらず、論点もあいまいで内容はまったく発展しない。議論になるはずもなく、せっかく話し合ったのに、なんの実りも手にできない。

前回は、そんな話をしました。こういうことが、会社やビジネスで起こると、創造性や生産性は悲惨なほど失われてしまう。

じつはそれだけではなく、人の成長もまた、方向性を失い、大きく鈍化してしまう。整理されない混沌の中で、愚かな迷走を繰り返すでしょう。ああ、恐ろしや。

例を挙げます。『マネージャー』、『リーダー』という役職・役割がありますね。これもまた、単なる単語というよりは、“概念”です。以下はそこを理解しない“単純単語オトコ”たちの会話です。

「おい、木村。お前、リーダーになったんだってな。」
「あ、青木マネージャー。ありがとうございます、がんばります!」
「ところでリーダーが何をすべきか、わかっているか?」
「はい、チームの先頭に立って、メンバーを導く責任を負うから、リーダーです。」
「木村あ、お前、わかっているじゃないか。」
「青木マネージャー、勉強させてください!マネージャーとは何か、ぜひご教示を。」
「それはお前、課全体をしっかりと掌握して、課員全員をもれなく管理し、会社から与えられた数字目標を必達する。それがマネージャーのミッションだ。」
「青木センパイ、学ばせていただきました!」
「木村ああ、俺をめざして、がんばれよ。わっはっは」

おバカ、ですね。荒唐無稽なデフォルメのようですが、けっこう現実もこんなものですから、笑えません。

人と人の知的な対話とは、単に単語の羅列が豊かなことではありません。それが知的対話であるかどうかを判定する基準は、どれだけ単語という抽象的な“概念”を細かく砕いて語り合えているか、です。木村くんと青木さんの会話には、それが見当たりません。

リーダーは、“導く人”。マネージャーは、“管理する人”。間違っているわけじゃありませんね。しかし、これだけではスッカスカです。

当然ながら大事なことは、「なにを、どうやって、なんのために、どこへ導き管理するのか」という展望とシナリオがあるかどうか、です。リーダーやマネージャーという単語をわかりやすく分解=噛み砕くと、役割をこう大別・分類できるでしょう。

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