原因はいつも後付け 第41回 「アイラウイスキーな経営」

// 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

《第41回》アイラウイスキーな経営

スコットランドにあるアイラという島で造られるウイスキーをご存知でしょうか?

この島で造られるウイスキーは、日本ではしばしば正露丸に例えられるほど強烈な香りを放ち、私が初めて口にした時なんて思わず吐き出したくなったほど。

そんな経験もあり、このウイスキーを飲んだ時には失礼ながら、さぞかし売れてないウイスキーなんだろうと思った記憶があります。

でも、実際は逆でした。
この強烈な個性に惹かれた熱狂的なファンが実にたくさんいるのです。

これって何だか、私たちの店舗商売にも似ている点があるような気がしませんか?


「商売をやる以上は、出来るだけ多くのお客さんに来て欲しい。」
こう願うのは、私だけじゃなく商売を始める方の多くに共通した願いではないでしょうか。

そして、そんな願いを叶えるために1号店を開業する時に私がやったこと。
それが「商品数を増やす」という選択。

出来るだけ多くのお客さんに来てもらいたい。
そのためには、お客さんのあらゆるニーズに対応できる商品を揃えれば良い。
そうすれば、沢山のお客さんが来てくれるお店になれる。

こう考えてお店を開業したにも関わらず、私のお店にお客さんが来なかった原因。

それは、多くのお客さんに気に入られようとして商品を増やした結果、お店のこだわりや強みが見えなくなり、結局誰にとってのお店なのかが分からなくなってしまったから。

開業時の私と同じように、お店の集客で悩むオーナーの多くが集客を増やそうと考えた時に商品を増やそうとしてしまいます。でも、これはウイスキーに例えるなら、個性を消して出来るだけ多くの人に飲んでもらえるよう、複数のウイスキーをバランス良くブレンドしたウイスキーのようなもの。

アイラウイスキーを飲んでみると分かります。
決して、多くの人に気に入ってもらおうとして造っている味ではないと言うことを。

アイラウイスキーに熱狂的なファンが多いのは、自らの特徴ある香りを消してバランスの良い味に近づけようとするのではなく、逆にその個性を引き立たせる商品に作り上げたからではないかと思うのです。

強烈な個性を引き立たせたアイラウイスキーとバランスの良い味に仕上げたブレンドウイスキー。
どちらが正しいとか言うつもりはありません。

ただ、自分の経験から考えるのであれば、顧客がつくお店と言うのは、バランスの良いブレンドウイスキーのようなお店ではなく、他とは違う強みやこだわりを持ったアイラウイスキーのようなお店だと言うこと。

冷静に考えれば、バランスの良いお店に行きたいのなら、お客さんは敢えて小さな個人店に行く必要などなく、大手のチェーン店に行けば良いのです。

私がやってしまったように、誰からも好かれようとしたお店は、結局誰からも好かれないお店になってしまうという事。

顧客がつくお店になるために私たちがやるべき事は何なのか?
そんな大切な事を、今ではすっかり私もファンになってしまったアイラウイスキーが静かに教えてくれているような気がするのです。

 

著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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